My Hair is Badであり続ける覚悟の叫び “トライアングル”が一段と磨かれた『ファイヤーホームランツアー』

 バンドの覚醒とともに、ライブの後半に差し掛かった。赤の背景が、大きく振りかぶって鳴らすメンバーのシルエットを浮き彫りにさせた「真赤」の鮮烈な光景。〈やるか やらないか〉の問いを自身に突きつける「告白」のサウンド。「ペガサス」では、観客のシンガロングと椎木のボーカルが掛け合いをするBメロが一つのハイライトに。ベースのフレーズをきっかけにぐんぐん突き進む「ぶっこむ.com」でも、バンドとオーディエンスの双方が本能を爆発させた。「フロムナウオン」では椎木が「いろいろなところが欠けている。情けない。恥ずかしい。でも俺は俺が好きだからな!」「悩みの一番の直し方は開き直ること。誰よりも近くにいる自分を抱きしめてあげること」と言葉を重ねていく。ギターを搔き鳴らしながらの「許してほしい。誰かに許してほしい。あんたのままでいいよって言われたい!」という叫びは、ベース&ドラムの翼を得て「大丈夫だから。今夜だけは許してやってよ」というリスナーへのメッセージに変わった。

「俺は本当の意味で許されたいのかなって、さっき歌いながら思ったよ。でもね、絶対忘れられない嫌なことも、胸に残って消えない傷も、俺はバカだから、全部よかったなって思えるよ。全部美談にしちゃいたい。最後に人生全部よかったなって思いたい」

 19曲目に披露された「思い出をかけぬけて」はアルバム『ghosts』の軸になった曲で、椎木が初めて自分のためではなく“人のため”に書いた曲。8分の6拍子のリズムに乗せて〈一人じゃないって気づけたのは/僕に笑ってくれた君のおかげだ〉というフレーズを大らかに響かせたあと、直後のMCでは観客への感謝が語られた。ファンクラブもない、TikTokライブもやらない自分たちは応援しづらいバンドかもしれないが、目の前のお客さんをやっぱり大事にしたいと思っていると。そういう気持ちにさせてくれたのは、来てくれたみなさんなのだと。周りの人たちの存在を感じながら、だからこそMy Hair is Badとしての表現に没頭しようという現在の彼らの姿は、『ghosts』の作品性と深いところで結びついている。1つ前のアルバム『angels』に収録されている「歓声をさがして」では〈もう持っているのに足りないや〉という歌詞を上書きするように、椎木が「もう持ってるんだよ!」と現在の心境を叫んだ。求めているものはここにある。そんな実感とともに今度は、楽曲終盤の歌詞が「大歓声拍手がこのツアーでいっぱい鳴ってた」と変えられる。ツアーの充実ぶりを物語るようなアレンジだ。

 「アフターアワー」で本編を終えたあとも拍手と歓声は止まず、ライブはアンコール、ダブルアンコールまで続いた。バンドに喝采を送り続ける観客の手拍子は弾んでいて、気持ちに応えようと再登場した3人は清々しい笑顔。このツアーで得られた手応えを糧に、無二のトライアングルはますます磨かれることだろう。

My Hair is Badが突き詰めた3ピースとしての濃さ “誰かのため”に鳴らすことで得た新しさと普遍性

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