ストリーミングシフト、推し活とチャートハック……“持続可能な音楽業界”を考えたSKY-HI×磯﨑誠二氏のトークセッション
今年も残すところあとわずか。Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の世界的大ヒットをはじめ、2024年もショート動画やSNSなどでのバイラルをきっかけに国内外でストリーミング再生数を伸ばすヒット曲が数々誕生した。CDから配信、ストリーミングへと徐々に移行してきた音楽の楽しみ方は、コロナ禍以降、急速にストリーミングへシフト。いまや楽曲単位のヒットの定義も、CDの販売数ではなく各種プラットフォームでの再生回数を参照することが増えている。一方で、2010年代に定着したファンがCDを複数購入してアーティストを応援する動きは“推し活”全盛の現代にも色濃く残っており、プラスチックを使用したCDの大量破棄が社会問題に発展している。2024年現在、ヒット曲の指標であったCD販売数をもとにしたチャートは、楽曲の支持とは別のベクトルでアーティストパワーを示すものに成り代わっているという見方もできるだろう。
このような現状を受けて、パッケージ販売を主軸とした既存のビジネスモデルを改めて見つめ直そうと先陣を切って声をあげたのが、SKY-HI(日髙光啓/株式会社BMSG 代表取締役CEO)である。今年2月に発表した「BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言」(※1)では、自社の所属アーティスト・BE:FIRSTが東京ドーム公演2daysのチケットを完売したことをきっかけに、「CDを適切なかたちで届けながら、少しずつ日本の音楽業界のビジネスの構造を変え、世論を変え、新しい当たり前をつくっていくことを目指す」と宣言。さっそくBE:FIRSTのリリースにおいてCDパッケージの紙ジャケットへの変更、CD特典の付属物のマーチャンダイズ化を実行し、CD売上枚数に対する社会的な依存度とプレゼンスに対して問題提起を行った。所属アーティストの影響力を自分たちのためだけでなく、社会全体、音楽業界のために使うことを選択したというSKY-HIは、先の提言を「責任と影響力のあるアイドルやアーティスト、その所属事務所の皆様や関係各社の皆様が改めてこの問題を考える、そして具体的なアクションに繋げるきっかけになることを祈っています。我々は、音楽に関わる全ての人が胸を張って夢を追える状況をつくることを絶対に諦めません」という力強い言葉で結んでいる。
ストリーミングシフトが進む今、“持続可能な音楽業界”を目指すために取り組むべきこととはーー。Spotifyがレーベルやマネジメントなど音楽業界関係者約150名を招待して行った『Spotify Music Sessions』(12月5日Spotify O-EAST)は、ストリーミング時代の音楽業界の未来を考える意義深いイベントとなった。先に紹介したSKY-HI、複合チャート「Billboard JAPAN Hot 100」を運営する磯﨑誠二氏(株式会社阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部 研究・開発部 上席部長)の2名のゲストスピーカーに加え、音楽ジャーナリスト・柴那典氏が進行役として登壇した「Session3:ストリーミング時代における日本の音楽業界の現在と未来」からいくつかのポイントをおさえたい。
まず、異なる立場にある三者の中で共通認識としてあったのが、やはり「ストリーミングシフト」への実感である。SKY-HIは「僕も音楽をやっている身ですが、2010年代の年間トップチャートを見ても半分くらい知らない曲だったことがありました。当時は僕の不勉強も合わせてのことだと思うのですが、今の年間トップチャートは、多くの人が聴いたことのある曲になっている」と指摘。柴氏は作詞家・プロデューサーのいしわたり淳治氏による「音楽から流行語が生まれてほしい」という約10年前の発言を引用して持論を展開した。たしかに2010年代以降の『新語・流行語大賞』を確認すると、「AKB48」(2010年)のトップテン入りを最後に、お笑い芸人のネタ以外で音楽関連の目立った選出がなくなっていた。その流れを打破したのが、「うっせぇわ」(Ado/2021年)のトップテン入りである。その後、2023年には「新しい学校のリーダーズ/首振りダンス」が選出され、2024年は「Bling-Bang-Bang-Born」(Creepy Nuts)がトップテン入り。いずれもストリーミングサービスのチャートで存在感を発揮してきた楽曲ばかりだ。柴氏は「いわゆる一般的なメディアが選ぶ流行語に音楽が入るということがここ数年になって起こってきている」とし、コンテンツの世間的な認知度とストリーミングシフトの相関性を示唆した。
磯﨑氏はグローバルのコンテンツマーケットの推移を例にあげながら、日本におけるストリーミングサービスの成長の可能性について解説。コンテンツ消費国第1位のアメリカと比べると2位の日本は7分の1程度であること、2022年以降コンサートの収益増加と比例してストリーミングサービスが伸びていることなどに言及した。ストリーミングシフトが加速し、海外展開の強化が叫ばれている中ではあるが、日本国内におけるマーケット拡大の余地もまだ残されてはいる。CD全盛期に音楽を楽しんできたミドル世代など、新たな層へのリーチを高める施策も今後一層求められていきそうだ。
チャートの作り手として、不自然なチャートアクションを生み出す要因となるCDの複数買いや再生回数キャンペーンに異議を唱えた磯﨑氏と、先の提言を発表したSKY-HIに共通していたもう一つの考えは、「純粋な音楽の評価に基づくチャートの創出」である。アーティストの健全な成長を促すため、多様なアーティストを紹介する媒体としての機能を果たすためにも、引き続き取り組むべきテーマではあるだろう。