『遙かなる時空の中で』アニメ放送から20年 「遙か君のもとへ…」など時を越えて響く名曲たち
「神子(みこ)」ーーそう呼ばれるようになり幾年。龍神の鈴の音色に導かれて、龍脈を正すべく八葉たちと怨霊を封じ続けたあの頃のことを、今も思い出す……というユーザーはたくさんいることでしょう。斯く言う筆者もその一人。ゲームのスタートボタンを押して、美しい笛の音色に誘われ、鬼の一族たちと対峙してきたあの日々。ゲーム『遙かなる時空の中で』がリリースされたのは2000年4月のこと。『信長の野望』シリーズなどで知られるコーエー(現・コーエーテクモゲームス)のゲーム開発チーム・ルビーパーティーが手掛ける恋愛アドベンチャーゲーム『ネオロマンス』シリーズの第2弾として発表された本作。『ネオロマンス』シリーズは第1弾の『アンジェリーク』をはじめ、第3弾シリーズである『金色のコルダ』など、今もファンの熱は下がることなく人気を誇る作品を生み出している。平安時代の京都を思わせる異世界を舞台とする『遙かなる時空の中で』もまた、衰え知らずの人気シリーズである。
キャラクターデザインを担当した水野十子によりコミカライズされ、そのコミックを原作としてテレビアニメ『遙かなる時空の中で~八葉抄~』(テレビ東京系)がテレビ放映されたのが2004年10月のことだ。そんなテレビ放送から2024年は20周年となる。20年前、そのアニメで神子たちの元に届けられた主題歌、そして挿入歌について今、改めて振り返りたい。
第一話で届けられたのはオープニング曲「遙か、君のもとへ...」だった。作詞は『アンジェリーク』から生まれた立木文彦と森川智之によるユニット・2HEARTSの楽曲の作詞を数多く手掛ける尾崎雪絵。茅原実里の楽曲制作でも知られるA-beeが作曲、そして編曲はA-beeと西村麻聡が手掛けている。本楽曲は、八葉たちの疾走するようなバトルと運命の流れの速さを感じさせる、エレクトロロックチューンだ。歌うのは主人公・元宮あかね(CV:川上とも子)の幼なじみで、彼女と同じく現代から飛ばされてきた地の青龍・森村天真役の関智一、京に住まい鬼の一族を憎む少年で天の朱雀であるイノリを演じる高橋直純、天真と同じくあかねの幼なじみで現代からともにやってきた地の朱雀・流山詩紋役の宮田幸季の3人。力強いビートの奥から響くボーカルから、何もわからず現代から連れてこられ、戦いに身を投じる神子である元宮あかねへの想いが滲む。
そしてエンディング曲は「flowin' ~浮雲~」だ。EXILEや倖田來未などの楽曲を手掛ける山口寛雄が作詞から作曲、編曲まで手掛けた(作詞は加奈弓と共作)この曲は、アッパーなエレクトロダンスロックながら切なさの滲むナンバー。歌うのは神子と敵対する鬼の一族のセフルを演じる浅川悠と黒龍の神子・ラン(森村蘭)役の桑島法子だ。大きな哀しみを抱きながら京の人間を憎み、自分と同じ金の髪でありながら普通の人間で、みんなと仲良く暮らす詩紋を執拗に攻撃していたセフル。そして、天真の妹であかねよりも前に「龍神の神子となりうる存在」と鬼の一族の副官・アクラムによって現代から連れ去られていたランが歌うからこそ響く切なさと哀しみが胸に刺さる。ゲームで歩んできた物語を、動く八葉の姿で確かめながら再び京を旅するように、戦いに身を投じながらも八葉の存在感を強く感じながら見守ってきたアニメのOP&EDとして刻み付けた2曲だった。
アニメ『遙かなる時空の中で~八葉抄~』にはさらに物語の想いを紡ぎ、神子たちの琴線を揺さぶった楽曲があった。いわゆる“お当番回”ではスペシャルED、そして挿入歌として八葉たちのソロ歌唱曲があったのだ。どの曲も人気が高いが、やはり天の青龍・源頼久役の三木眞一郎が歌う「追憶の森に捧ぐ」に涙した神子は少なくないだろう。美しいストリングスと箏の音色が悠久の時の中で出会い、神子を静かに見つめる頼久の情熱と慈愛の想いが詰まった1曲。情感たっぷりに歌う三木の歌声に胸を打たれた記憶のある神子は多いはず。この楽曲は、現在GRANRODEOとして活躍する飯塚昌明が作編曲を担い、歌詞は映画『NANA2』の劇中歌の伊藤由奈「Truth」などを手掛けた作詞家の田久保真見が担当し、遙かなる時空の中で出会った運命を歌い上げた。
そんな飯塚と田久保のコンビで作られた「永遠の桜吹雪をあなたに...」は、2005年にリリースされたコンピレーションアルバム『遙かなる時空の中で~八葉抄~ ヴォーカル・コレクション』に収録された楽曲。なんと、八葉全員で歌う1曲なのだ。天の青龍・頼久、地の青龍・天真、天の朱雀・イノリ、地の朱雀・詩紋、天の白虎・藤原鷹通役の中原茂、地の白虎である橘友雅役の井上和彦、天の玄武・永泉役の保志総一朗、地の玄武・安倍泰明役の石田彰の8人ーー彼らの歌声(石田はポエトリーリーディングでの参加)で紡ぐ悠久の時を超える想いを歌い上げるこの楽曲は、すべての神子にとって大切な1曲だ。