Chilli Beans. 日本武道館以降に湧き上がってきたパーソナルな音楽 『blue night』に込めた素直な心情
日常の切り抜きみたいな感じにしたかった(Moto)
ーーじゃあ、Lilyさんのヨガについては半年後くらいにまた話を聞きます(笑)。でも、武道館までを走り切って、ちょっと自由にやってみようみたいな気分はあるんだろうな、と。『blue night』もそういう作品な気がしました。
Moto:最初は曲数をこんなに入れるつもりもなかったんです。5曲くらいだったんですけど、その都度、日常的に作っていたものとか、浮かんだものを並べたら結局ミニアルバムになりました。で、その曲たちの色、雰囲気や心情が全部似てるというか、夜の感じが共通していたので、「青い夜」で『blue night』にしたんです。
ーー今おっしゃったようにそこに描かれている心情やムードは通じている部分があると思うんですけど、そういう曲がいっぱいできたっていうのはなんでだと思います?
Moto:なんでだろう。
ーー要するに、超絶ハッピー、バラ色みたいな曲はここにはないわけじゃないですか。
Moto:今回のは前作と比べると打ち込みの音が多かったので、歌詞やメロディを軸に最終的な仕上がりを決めていったんです。だから、土台があったとしても、最終形態に持っていくときの気分が共通していたのかな。
ーーMotoさんの気分が強く反映されている?
Maika:今までの作品だとテーマとか、「こういうことを描きたい」みたいなものが先にあったんですけど、今回は本当に出てきたものそのまんまっていう感じが多かった気がします。何かに寄せたいからこういう要素を入れよう、みたいな考え方をしなかったから統一感が出たのかなとも思います。
Lily:小さい世界の話にしたかったんだよね。
Moto:そうだったね。
Lily:一人の中にある世界や思っていることを、そのまま表現したかったんです。なので、声の感じとかを含めてなるべく加工しないようにしました。
Moto:かっこつけていないというか。
Lily:音を先に作って、モニがそれを聴いてイメージを膨らませていった曲もありますし、そこで出てきたイメージをそのまま形にしたいっていうのが結構多かったように思います。
ーー「Mum」とか「cyber」のようなポップな曲もありますが、たとえば「escape」「夢」「look back」などはすごくパーソナルな感じがします。今までは3人でキャッチボールし合いながら1つの絵を描いていく感じだったと思うんです。だからいろいろな色が混じり合うし、言葉も3人にしかわからない暗号みたいになっていったんだけどーー。
Maika:確かに。
ーーでも今回はわりと読んだまま、聴いたままの言葉になっているような気がする。
Lily:そういう世界に仕上がったよね。
Moto:ちょっとした日常の切り抜きみたいな感じにしたかったんです。
ーーMotoさんとしても、これまでと違う感覚で作れた感覚はありますか。
Moto:孤独な感じというか、メンバーだけでほぼすべてを制作したんです。ジャケット写真も自分たちで撮影したし、ありのまま、手作りでやってみたという感覚が強いですね。すごくあたたかい手触りになったし、私的にはボーカルもこだわって録音して、今までの音源よりも距離が近く聴こえると思います。聴いた人にも立体的な感じに、近くに感じてもらえると嬉しいなって思います。
ーー立体的だし、人間くさいというか、すごく素に近い感じがします。これまではChilli Beans.というコンセプチュアルなアートを見ている感覚もどこかあったけど、今回は3人が生身で音楽やって、思っていることを素直に言葉にしている感じがするんです。その手触りは結構違いますよね。
Maika:今おっしゃっていただいたように、生っぽい感じがします。そばで鳴ってる音って感じ。刺激が強いとかではなくて、すっと隣にいるみたいな曲たちがいっぱい入った作品なんじゃないかなって思ってます。
ーー確かに打ち込みの音もいっぱい入っているんだけど、聴いた印象としてはわりと3人でバンドをやっているようなニュアンスも強く出ている気がします。音がシンプルっていうのもあるし。
Moto:うん、シンプルだね。
Lily:今までに比べてアコギを結構弾いたし、「yesterday」はシンセも意外と少ないんです。自分で鳴らせる範囲の音で飾り付けしたい、みたいな気持ちが強かったので、そういうところはすごくこだわりました。
ーー「yesterday」はシンセがなくてもあのコーラスですごく色が出るというか。まさに生っぽさを強く感じられる曲になっています。あと今回「夢」のバージョン違いが2曲連続で収録されているのはなぜですか?
Lily:「夢」は、夢で見た音を覚えておきたくて、とりあえずトラックを作ったものが前からあったんです。そこからどんどん広がってできた曲なんですけど、最初はギターを入れるつもりで、打ち込みだけでやることは考えていませんでした。でも実際にギターを入れたら雰囲気がガラッと変わって。それを聴いていたら打ち込みだけの、空間のある寂しいけど力強い感じもすごく好きだなと思ったし、歌詞も内面のことを言っている感じがしたんですよね。あとギターはやっぱり生々しいというか、結構痛々しい音するんだなとも改めて感じて、それが心の内側の声みたいに聴こえたから、「inside ver.」という形で収録しました。
ーーこの2つのバージョン、同じ曲なのに全然印象が違いますよね。「夢」の方はわりと穏やかというか淡々としている感じなんだけど、「inside ver.」は荒々しくて。
Lily:そう。外から見たら見えなくても、本当はこういう葛藤がある、みたいなものをギターで表現しました。だからふたつでセットみたいな感覚があります。ひとりの子の内側と外側みたいな感じだから。
Moto:外側では淡々と振る舞っているけど、その内側ではいろんな歪んだ音がして痛いっていう感じ。
Lily:それもミニアルバムだからこそできたことだと思います。