Chilli Beans.『Welcome to My Castle』の中心にある絶対的な自信 武道館ライブ控えるバンドの現在を聞く
『Welcome to My Castle』(「私の城にようこそ」)ーーChilli Beans.の2ndフルアルバムはそんなタイトルを掲げた、コンセプチュアルな作品となった。重厚で大きな城の扉を開け、そこに招き入れた人たちに楽曲を通してさまざまな風景や感情を感じてもらうーーそのコンセプトは、今彼女たちがどんな状況にいて、どこを向いて音楽をやっているのかを物語っているようでもある。
夏には「Raise」でアニメ『ONE PIECE』のエンディングテーマを担ったことも話題となったチリビだが、その大型タイアップを持ち出すまでもなく、彼女たちの音楽は世の中にますます求められ、多くの人に愛されるものとなった。
その中で培った自信や「これが私たちだ」という自負が「城」というイメージになり、そこにリスナーを迎えるというあり方に繋がっていったのだと、僕は思う。アッパーなパーティーチューンもあれば、内面に潜っていくようなダークな曲もある。どちらもとても正直で、誠実で、Chilli Beans.のありのままの姿を伝えてくる。音楽的なスキルや経験値はもちろんのこと、心の部分でも大きく成長した彼女たちの今を、このアルバムからぜひ感じてほしい。(小川智宏)
キャッスル=完璧じゃない人たちが集まる場所
ーー『Welcome to My Castle』を作り終えての手応えはいかがですか?
Moto:イメージしていた通りのアルバムになったと思います。コンセプトがあったからアイデアがすごく膨らみまくりって感じで、楽しかったです。
Lily:「自分たちのお城にみんなを迎え入れる」というコンセプトは前から話していたもので。アルバムを作るにあたって昔の曲を改めて完成させたものもあるから、それも成長した今の自分たちだからこそできたのかなって。メンバーと話し合いながら、自由に出てきたアイデアを収めた作品なので、超楽しく作ることができました。
Maika:うん、達成感がありますね。
ーー今作のコンセプトはどこから生まれてきたものなんですか?
Moto:最初から「次作るならお城みたいな感じとかおもしろそう」と話していたんです。いっぱい部屋があって、そこでいろいろなことが起きている感じ。映画みたいな……。そこから「この曲はこういう部屋っぽい」とか、そういう感じで作っていってーー。
Lily:気づいたらアルバムができてた。「この曲を完成させて入れたいよね」みたいな昔の曲もあったので、それを軸に決めて作っていきましたね。
ーーということは、『for you』というEPを作った時点でこのアルバムのイメージはすでにあったんですね。
Maika:うん、繋がっていました。
Moto:『for you』のCD特典としてお城への招待状(日本武道館公演『“Welcome to My Castle” at Budokan』のチケット先行シリアルナンバー)を入れていたんですよ。『for you』のホワホワしたところから誘い込んで、このアルバムで一気にドンって閉じ込めるみたいな感じかな。
ーー確かにアルバムのオープニングは閉じ込められた感というか、なんか物々しさがありますよね。お城と一口に言ってもいろいろなお城があると思うんですけど、3人の中ではどういうイメージだったんですか?
Moto:「超きれい!」みたいなイメージのお城ではないんです。埃や煤が溜まっていて、少し幽霊屋敷みたいなイメージなんですけど、その中でみんなが自由に遊んでいるみたいな。そういうイメージは細かく話さなくても3人のなかで一致していたように思います。
Lily:私の中の居心地がいいお城はそういうイメージだった。
Moto:あと、完璧じゃない人たちが集まる場所というイメージもあって。不器用だったり、少し不恰好な人たちがいて、そこではみんないろんな感情を素直に表現して、子どもみたいに遊んでいるような……。
ーー不器用というのはなんとなくわかる感じがします。このアルバムはアッパーな曲や明るい曲もあるけど、ムードとしてはダークな曲も多いですよね。すごくコンセプチュアルなアルバムだが、3人の内面性はこれまで以上にはっきりと出ている感じがする。3曲目の「Welcome」はパーティー感のあるディスコチューンですけど、そこから展開される新録曲「My life is saikooo」「doll」「stressed」あたりは内省的ですよね。これらの新曲は、最近作ったものですか?
Moto:いや、前からあった曲もあります。
Lily:「Welcome」は新しいけど、「stressed」は『mixtape』(2023年2月発売の3rd EP)の頃に作っていた曲ですね。
Moto:「Welcome」はお城に来た人を歓迎するような曲ですね。聴いてる人たちの中にある感情やイメージと楽曲の世界が反応して、どんどんお城の中に迷い込んでくれたら嬉しいなと。
Lily:たまたま私たちの音楽を耳にして気になった人が迷い込んできて、全然興味がなかったのに不思議とどんどん奥に進んでいっちゃうみたいな。そういうことができたら面白いなと思います。
ーーどんな人であれ自分たちのお城に招き入れるというスタンスは、これまでのチリビとは違うように感じます。前までは3人の物語を生きていた感じがしたけど、今はどんどんドアを開いて、外向きの矢印を出している感じがする。
Maika:私たちとリスナーさんの1対1感が、さらに強くなった気がしていて。その分、楽曲を聴いて伝わるものが多くあったら嬉しいですね。
Moto:「My life is saikooo」や「doll」は前から作っていた曲なので、今まで考えていたことをようやく出せた感覚があります。何かが変わったわけではなくて、ずっとあったものを開いたことがみんなの目には新鮮に映るのかも。