BUCK-TICK、新体制で放つ生命力溢れるアンセム 雷神と風神の如きダブルボーカルに宿した想い

BUCK-TICK、ダブルボーカルに宿した想い

 BUCK-TICKが12月4日にリリースするニューアルバム『スブロサ SUBROSA』の詳細が発表されたのは10月21日。櫻井敦司の訃報から約1年。この1年はBUCK-TICKにとってとても重い時間の流れだったはずだ。その重さを押しのけるように、11月20日リリースの新曲「雷神 風神 - レゾナンス」は力強く響いてくる。今井寿と星野英彦の2人が、風神と雷神が地上に嵐を起こすが如く、互角に歌いかけてくるからだ。

 ハンドクラップを促すようなビートで始まり、ギターが華やかに響いて今井が歌い出す。これまでなら彼がリードボーカルをとる曲であっても櫻井とのデュエットになるのが前提で、「MY FUCKIN' VALENTINE」(『SEXY STREAM LINER』収録)のようにパンキッシュな歌い回しだったり、「Villain」(『ABRACADABRA』)のようなラップ調だったりして、アルバムの中では飛び道具的にアクセントをつける曲であることが多かった。ほとんど今井が歌った曲としては「相変わらずの『アレ』のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり」(『Six/Nine』)があるが、歌うというよりスポークンワードに近いスタイルだ。「雷神 風神 - レゾナンス」の、T. Rexを連想するグラムロック調の後半は「Sid Vicious ON THE BEACH」(『Mona Lisa OVERDRIVE』)を思い出す。

 一方、星野はメインで歌うことこそなかったが、多くの曲で名コーラスを聴かせてきた。だが今回は違う。最初のヴァースを今井が歌った後は、星野がメインとなってセカンドヴァースを歌う。曲が進むほどに2人の声はテンポよく入れ替わり、重なって1つになっていく。今までのデュエットスタイルとは違う、この2人だけのダブルボーカルスタイルが生み出されている。MVでは強い意志を持って歌いかける2人の表情が見て取れる。後半では2人の顔がコラージュされ、ヤガミ・トールと樋口豊の顔も重なり合って不思議な残像を見せる。MVの冒頭で星野が今井に鍵を渡し、今井が扉の鍵を開く。その扉の向こうには何があるのだろう。4人が演奏しているのは、化学実験装置のようなものが置かれた部屋だ。まさに彼らは新たな実験を行っているのだろう。新生BUCK-TICKの実験だ。

BUCK-TICK / 雷神 風神 - レゾナンス MUSIC VIDEO

 歌詞はとてもシンプル。タイトルの〈雷神 風神 レゾナンス〉を歌い込み、後半は〈ハートに火をつけろ〉と繰り返す。The Doorsの代表曲「Light My Fire(ハートに火をつけて)」を連想するが、心を開いて鼓舞しようという呼びかけだろう。そうしたフレーズの間で歌われる〈この世界で生き抜くことだ〉という意志。櫻井を失ったことは筆舌に尽くし難い悲しみであり埋められないものだけれど、それを抱えてBUCK-TICKは命をつなぎ進むのだと宣言しているように思える。昨年末の日本武道館公演(『バクチク現象-2023-』)で「大丈夫、続けるから、一緒に行こう」と呼びかけた今井の言葉そのままに、BUCK-TICKは続き、一緒に行くためにこの曲を書いたのだろう。必要なことだけを歌う、新たなアンセムだ。

 「雷神」「風神」と言えば誰もが想起するのは俵屋宗達の屏風絵だろう。そのほかにも多くの風神雷神図があるが、最近では村上隆が京都市京セラ美術館で開いた作品展『村上隆 もののけ 京都』で、風神雷神図をモチーフにした作品を発表している。村上ならではのカラフルでコミカルな風神雷神は、今この世に存在する神というよりフェアリー(妖精)のようでもある。オーソドックスなテーマを今日的な視点と感性で蘇らせ、それを説得力のある作品にしているのはさすがだ。今井はこれにもインスパイアされたのではなかろうか。

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