material clubの新作で示したロック回帰 小出祐介が語る“正解”も“答え”もない自由な音楽の楽しみ方
目の前にあるものを本当の意味で“見る”ことができているのだろうか?
――色々とお話を伺うと、最後に収録されている10分超えの長い曲「Altitude」こそが、今の小出さんとバンドのスタンスを象徴しているような気がしてきます。徐々に高みに達していく曲調しかり……。
小出:メロディも基本的には2種類しかない曲で、コードもほぼループなんです。それで10分間引っ張れるのかっていう挑戦でもありました。みんなも面白がってくれたし、結果いい形になってよかったです。
――〈僕の目の前を埋め尽くす マテリアルな世界を/穴があくほど見つめてる/現実は どこにあるの〉という歌詞もとても印象的です。
小出:これもさっきの“感情”や“ストーリー”が溢れ過ぎているという話と関連しているんですが、みんなそういう無形の存在に飛びつくけど、目の前で物理的に存在している物質を本当の意味で“見る”ことができているのだろうか、と最近考えていて。見ているようでいて、実は全然見ていないんじゃないかと思うんですよ。だからこそすぐに感情の話になってしまうし、本来は頭の中で抽象的に捉えられているに過ぎないデータとか数字の話になる。美術館にある絵画でも彫刻でもいいし、映画のスクリーンでもいいし、そこをすっ飛ばして、すぐに感情の世界にいこうとするでしょう。
――目の前にモノがあるにも関わらず。
小出:そう。そういう物質との対峙を経て初めて自分の中に生まれてくる感情こそが、おそらく自分だけのものだと思うし、僕自身、それを大切にしたいなという気持ちがあって。
――じゃあ「Naigorithm」は、それとは反対の状況を歌った曲ということですかね。
小出:はい。思ってもいないことを頑張って言おうとしてみたりとか、感情的なテキストを見かけるとすぐにそっくりそのまま「自分もそう思っていた」と考えるようになってしまったり……そういう状況についての曲です。
――確かに、ある時期から「思っていたことを言語化してくれた」みたいな表現を頻繁に見かけるようになった気がします。「それって、本当にあなたが以前から主体的に考えていたことなんですか?」と言いたくなる場面も少なくないんですよね。
小出:そうですよね。下手したらそう思わされただけかもしれないわけだから。
――そうやって与えられた言説を離れて、目の前のモノを見つめることから考え直していくことって、ひょっとすると今の時代には相当難しいことかもしれませんよね。
小出:難しいでしょうね。今回歌詞を書いていて自分でも改めてそう思いました。逆に見えないものを“見える化”しようとするのは異様に上手くなってしまったのにもかかわらず……。
――“見える化”もここ数年やたらに喧伝されるワードのひとつですね。
小出:ですよね。見えないものを見るという行為が先行しすぎて、人が簡単に陰謀論に行き着いてしまうのもわかる気がします。代わりに、見えているものをちゃんと見ることがどんどん不得意になっていっているんじゃないかなと。
――やたらに裏を読もうとする傾向も感じます。妙に裏方目線というか、運営側みたいな視点が時代のデフォルトみたいになっている部分もありますよね。
小出:いまやどこでも起きますよね。音楽でもお笑いでもなんでも。
――しかももっとややこしいのは、そういう裏方目線の語り自体が、エンタメビジネスを潤滑させるための体の良い消費財になってしまっているという……。
小出:確かに、裏側のゴタゴタやスキャンダルをみんなで語ること自体がひとつのコンテンツになってしまっているところはありますよね。送り出す側には「そのまんま見ていてくれればいいのに」と思っている人もたくさんいると思うんですけどね。
――今作は、そういう時代のモードに対する鋭い投げかけにもなっていると思いました。改めてこのアルバムはめちゃくちゃ語り甲斐がありますね。
小出:ありがとうございます(笑)。
――最後に、何か言い残したことはありますか?
小出:いえ、インタビューっていうのは、自分から語るんじゃなくて訊いてもらったことへの答えがすべてですから(笑)。繰り返しになりますが、このアルバムを肴に、皆さんがあれやこれや色々しゃべってくれたら本望だし、そうなってくれればいいなと思っています。
※1:https://www.jvcmusic.co.jp/q2/materialclub/
■リリース情報
material club アルバム
『material club Ⅱ』
10月30日(水)発売
収録曲:全8曲収録
M1. Beautiful Lemonade
M2. 水のロック
M3. Twilight Dance
M4. まだ全然好き
M5. Naigorithm
M6. Curtain part.2
M7. 恋の綾
M8. Altitude
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