片寄涼太、ソロで表現する俳優・グループ活動を経た自分の色 「tenkiame」は今だから歌えるものに

 片寄涼太(GENERATIONS)が初のCDシングル『tenkiame』をリリースした。

 表題曲は本人も「以前からずっと好きで聴いていた方の一人」だというシンガーソングライターのeillによる書き下ろしで、生きていく上でふいに感じるネガティブな気持ちを天気雨にたとえ、それを洗い流してくれるような晴れやかな一曲に仕上がっている。どこか寂しさがありつつも、全体的には明るくまとめ上げられた絶妙なバランスが心地いい。

 これまでm-floとコラボした「PSYCHIC MAGIC」や、☆Taku Takahashiと向井太一が参加した「Possible」、Tani Yuukiが提供した「運命」といった楽曲を発表し、ソロアーティストとして着実に歩みを進めてきた片寄。8月にちょうど30歳を迎え、今は「やっとデビューしたような気持ち」だと話す片寄に、今作に込めた思いや今後の活動について話を聞いた。(荻原梓)※取材は7月中旬に実施

デジタルの時代だからこそ、手に取れるものを届けたかった

ーー今作はソロ活動として初のCDシングルとのことですが、今までの配信シングルとは異なる形態でリリースすることになったのはなぜですか?

片寄涼太(以下、片寄):これまで2020年に「Possible」、2022年に「運命」と配信リリースしてきて、そのたびにデジタルの時代だからこそ物として届けたい、いつか応援してくださる方に手元に届く形で楽曲を作りたいなとずっと思ってたんです。それで自分自身も今年8月に30歳を迎えるので、ちょうどいいターニングポイントにもなりますし、そういった記念すべきタイミングで届けられるいい機会だと思ってCDでリリースすることになりました。事前に予約していただいた方には紙ジャケット仕様で届くので、デザインもこだわっています。

ーーアルバムジャケットのポイントを教えてください。

片寄:今まで配信シングルは自分のビジュアルを出してこなかったんですけど、今回初めてのCDシングルということで、自分の写真でもいいのかなと思ったのと、未来を見据えた一枚になればいいなと思っていたので、この希望的な表情の写真を選びました。実はカップリング曲の「今夜はブギー・バックfeat. Eill / prod. Shin Sakiura」のMVのロケ中の一枚なんです。この日はロケーションがよくて、たまたまいい色合いの空だったので撮ってもらって、少しだけ雨の加工を入れて天気雨を表現しました。タイトルロゴは手書きなんです。

ソロでは自分が聴いて育ったポップスを貫きたい

ーー「tenkiame」の作詞作曲は新進気鋭のアーティストとして注目されている女性シンガーソングライターのeillさんですね。

片寄:ソロの楽曲を制作するとなった時に、どういった方と一緒にやりたいか挙がっていた候補の一人で、個人的にも以前からずっと好きで聴いていた方の一人でした。すごく声に特徴がある方で、唯一無二の歌声を持ちながらも、シンガーソングライターとしてキャッチーなものからドラマチックなものまで、いろんなタイプの楽曲を制作されている方です。そういった方に女性目線で楽曲を作っていただくのも面白いかなと思っていたので、こちらからお声がけさせていただきました。

ーー言われてみれば今までリリースしてきた「Possible」も「運命」も男性による作曲ですね。今作はシンプルなR&Bポップスといった印象ですが、制作にあたってeillさんとはどんなやり取りをしましたか?

片寄:楽曲の方向性としては2000年代に自分が聴いていたような、R&B系のビートが入ったポップスを狙ってました。そういうような曲を今の自分がソロでやるのがいいんじゃないかなと思ったんです。楽曲の世界観としては、自分は空とか海とか自然を見るのが好きなので、そういったものをモチーフにできたらどうかと思って、そこから“天気雨”というキーワードが出てきました。自分の生活におけるちょっとしたネガティブな気持ちや寂しい出来事を天気雨に重ね合わせて、それを洗い流してくれるような晴れやかな曲になればいいねという話をしたんです。まさにそういった楽曲に仕上げていただきました。

ーー〈あなたを追いかけていく〉が〈あなたを追い越していく〉へと、曲中での気持ち変化も印象的です。

片寄:天気とか雲が移動しているような雰囲気もあるし、過去の自分を越えていくような前向きな力強さもあります。自分の節目のタイミングで歌うものはネガティブなものよりポジティブなものがいいなと思っていたので、結果的にこういう明るいものにしていただけて嬉しかったです。

ーーどこか寂しさもありつつ全体的には明るいという、そのバランスが絶妙な曲ですよね。

片寄:ちょっと憂いというか、そういったものを感じる明るいポップスなのが今っぽいといえば今っぽいですよね。eillさんに書いていただいた歌詞も自分だと選ばないような女性目線だからこその表現になっていて、あまり男性は言わないような女性らしいフレーズがちょこちょこあるんです。たとえば〈ハッピーエンド〉っていう単語とか、語尾が〈唄ってるの〉と終わるのとかは、歌いながらもちょっと照れちゃうワードだったりします。その中性的な言葉選びも含めて、今の自分だからこそ歌える20代ラストの楽曲として面白いかなと思いました。

ーー女性目線の歌詞を男性が歌う楽曲は、日本のポップス史に常に存在してきた大きな魅力の一つでもあります。

片寄:作詞家の小竹正人さんが手がけたFlowerの楽曲とか、三代目 J SOUL BROTHERSが少し女性っぽい言い回しのフレーズを歌っていたのがアイデアの起点にはなっていて、女性目線の曲を僕が歌うのは面白いかもしれないと思っていました。聴いてくれた方の反応が今から楽しみです。

ーーサウンドはこれぞR&Bというよりはあくまでポップスといった感触で、多くの人に聴かれるような親しみやすさがあると思いました。

片寄:それこそグループだともっとダンサブルなビートにしたり、よりR&Bに寄せた音作りにしそうなんですけど、自分のソロでは自分が聴いて育ったポップスを貫きたいみたいな気持ちがあって。「tenkiame」はピアノアレンジとかもできそうな、いろいろと可能性を秘めている曲だと思うので、今後どう熟成していくのか楽しみです。

ーーグループ活動とソロ活動では何か違いがありますか?

片寄:グループとは違って、ソロの作品は図らずも自分のパーソナルな人生により近いものになっていると思います。もともと「Possible」という曲で☆Taku Takahashiさんがプロデュースしてくださったのがソロ活動のスタートでした。☆Takuさんのプロデュースである意味、自分のソロの色が出来上がって、そこから自分の好きな音楽性とソロだからこそできる方向性のミックスで片寄涼太のソロ活動を続けています。

ーーグループに所属しながらソロ活動する他の人たちと比べると、片寄さんには「俺がグループを背負ってやる!」というよりは「こういうのも自分なんだ」というような、いい意味で肩の力の抜けたフラットな雰囲気を感じます。

片寄:自分の辿ってきたカルチャーをもっと色濃く作品に出していく方もいますけど、自分は意外とそうでもないですね。仕事で俳優活動を並行してきたからこそ、音楽だけではないソロ活動のあり方があると思っていて、いろんな表現方法がミックスされているのが自分。たくさんソロ作品を生み出したいというよりは、ポイントポイントで自分のストーリーと重ね合わせた、思い入れの強い曲を歌っていけたらと思っています。ソロ活動は自分でありながらも、どこか人からもらった台本みたいなところもあって、それも含めて楽しめてる部分もあるんです。だから、もし今後アルバムを制作するとなった時に、いろんな角度から自分自身を見ることができる活動になっていけばいいなと思うし、今回のコラボでeillさんのファンの方が聴いてくれたらそれはそれで嬉しいです。新しい世代の人たちとのコラボを続けて、グループではあまりやらないことをソロでできたらいいなと思っています。

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