アルステイク、素直な想いを曝け出すロックバンドの覚悟 歌のテーマが大きく広がった『B』を語る

アルステイク、ロックバンドの覚悟

 岡山発の3ピースバンド、アルステイクが2年半ぶりとなる2ndフルアルバム『B』を完成させた。これまでのアルステイクといえば、フロントマン・ひだかよしあき(Gt/Vo)の実体験をもとにした恋愛ソングが代名詞だったが、今作で歌われるのはそれだけではない。もちろん、ひだかの心の中にある正直な気持ちが言葉とメロディになっているのは変わらないのだが、それと同時にバンドマンとしての決意、ロックへの思い、ひいては彼自身の人生が色濃く滲む楽曲がいくつもあるのだ。現メンバーが揃って5年、数え切れないほどのライブを重ね、楽曲を生み出してくる中でより強まってきた思いを曝け出した今作で、アルステイクは新たなフェーズへと進む。このアルバムで、彼らはさらに多くの人にとって、もっと大事なバンドになっていくはずだ。(小川智宏)

「10年後、20年後に歌っても胸張っていられる歌詞」

――2ndアルバム『B』、今までのアルステイクらしい部分もありつつ、描かれているものが広がってきた印象がありました。1stアルバム『A』から2年半、その間のバンドとしての成長が詰まっているなと。

ひだかよしあき(以下、ひだか):あんまり自覚はしてないんですけど……ただただライブが楽しくて、曲作るのが楽しくてバンドやってる感じなんで。でも今回のアルバムはちゃんと1曲1曲が主役になれる、そういう曲が詰まったアルバムになったかなと思います。

――今回アルバムを作る中で、これまでと違う感触はありましたか?

ひだか:今まではずっと「今だから歌える」みたいな歌詞を書いてたんですけど、今回の作品では10年後、20年後に歌っても胸張っていられるなっていうような歌詞の書き方を少し意識しました。

――そうなったのは何か理由がありますか?

ひだか:作品作ってライブやる中で、より「この3人でずっとバンドやりたいな」っていう意識がどんどん濃くなっていった感じはあります。あとは、ライブハウスで出会ったバンドたちと対バンしたりする時間がめちゃくちゃ好きなんで、そういうバンドたちに置いていかれないようにしないといけないし、シーンを引っ張っていくようなことを40歳、50歳になってもやっていたいなってここ最近よく思うようになったんで、そういうのもあったのかもしれないですね。

――やっぱり周りのバンドから受ける刺激は大きいですか?

ひだか:めちゃくちゃ大きいですね。同い年のバンドがすごく多かったりするし、面識はなくても同い年で活躍してるアーティストもすごくいっぱいいるなと思うんです。同じ年に生まれたのにいろいろな経験をしていたり、自分にはできないことをやっているのを見ると、めちゃくちゃ刺激を受けている感じがします。

――そういう刺激は曲作りの面でも影響を与えていますか?

ひだか:そうですね。めちゃくちゃあります。今回のアルバムの中でいうと、同い年の、唯一親友って言えるくらいのバンドマンがいるんですけど、「インマイマイン」はそいつがいたから書けた曲だなと思います。バンドでしか得られない感覚を言葉にしたかったから、メロディを乗せるよりもポエトリーリーディングみたいにしたほうがしっくりくるなと思って。それで挑戦した曲ですね。ライブでやっていても、やっぱり今までにない気持ちのこもり方がある気がします。

――その「インマイマイン」もそうだし、「生きている」や「ロックに騙されていることに気が付けないほど信じてる」もそうだと思うんですけど、バンドや音楽をやることについて歌った曲が今作にはいくつかあって。今までのアルステイクはどちらかというと恋愛の歌のイメージが強かった気がするんですけど、曲のテーマも変わってきた気がしますね。

ひだか:シンプルにあまり恋愛をしていないというのもあるんですけど(笑)、今は本当にただただバンドをやっている時間や仲間と過ごしている時間が楽しくて。でもやっぱりバンドは遊びの感覚ではやっていないので、どうしても感情が深く深くなっていくというか。24年ほど生きてきて、心の中で一番グワーってあふれるのが全部バンドのことやライブハウスのことなので、自然とそういうバランスになったのかもしれないですね。

アルステイク - 生きている - Music Video

楽器により意識が向いたことによる変化

――バンドに懸ける思いとか、バンドをやっていく上で湧き上がってくる気持ちみたいなものって、バンドを始めた時と今とで違いますか?

ひだか:軸にあるものというか、もともとのものはずっと変わってないんです。自分の中では、歌を歌っている、歌詞を書いている、ステージに立っている――そういう時はありのままでいられる唯一の居場所にいるみたいな感覚なので。

――そういう思いがより強くなってきている?

ひだか:うん、そうかもしれない。

――そうやってバンドに対する思いが高まることによって、メンバー3人の関係性やそれぞれの存在感のバランスも変わってきたりします?

ひだか:そうですね。それぞれのやっていることに対する責任感は強まっていっているし、ライブ映像を観返していても、ベース、ドラムの枠からちょっとはみ出ようとしているなというのは思いますね。

――それは、ひだかさんにとってもウェルカムなこと?

ひだか:めちゃくちゃ面白いですね。

――そうなれたのは、なぜでしょうね?

ひだか:なんでなんだろう……特に、のん(Ba)ちゃんはすごく負けず嫌いな子なんで、ベースというポジションで俺を食おうとしているというか。ライブの中でそんな瞬間もチラホラ感じるんで、そういうものが積み重なってちょっとずつ見えてきているのかなっていう感じですね。改めてアルステイクはめちゃくちゃ面白いバンドだなってすごく感じます。あむ(Dr)ももともとはプレイで主張するタイプではなかったんですけど、俺とのんちゃんの感じに影響されているのか、どんどん派手になってきている感じはありますね。アルステイクは3人ともすごく我が強いんです。だから「ベースだから」「ドラムだから」って閉じこもっているよりは、一人ひとり爆発したらもっと面白くなるのかなと思っています。

――じゃあ、周りのバンドたちと同じようにメンバーからも刺激を受けていますか?

ひだか:そうですね。なんか、俺はとにかく歌を歌いたくて、言葉を発したくてバンドをやっていたんで、今まではギターを弾いている自分があまり好きじゃなかったんです。でも最近はギターを弾いている自分がかっこいいのもいいなと思っていて。歌以外の瞬間にも自分に酔えてるような感じがします。それにギターや他の楽器に意識が向くことによって、2人と合わせるのも楽しくなってきて。

――それは大きい変化かもしれないですよね。ソロではなくバンドでやっていることの意味であり、だからこそ今回のアルバムはよりバンド感が強まっている気がします。アルバムタイトルの『B』はバンドの「B」だなって思うくらい(笑)。だから恋愛を歌っていても、今までみたいに閉じていないというか、一人称だけになっていない感じがするんです。より俯瞰して見るようになっている。

ひだか:そうですね。

――例えば「ダメ彼女」という曲がありますよね。以前「ダメ彼氏」という曲もありましたけど、この曲はどんなふうにできたんですか?

ひだか:「ダメ彼氏」を前回やったから「ダメ彼女」も作りたいっていう気持ちがあって。経験談をめちゃくちゃ詰め込んでるというよりは、ところどころフィクションで書いたみたいなところがありますね。

――だから言葉遊びもあるし、切羽詰まってない感じがしますよね。曲調も含めて軽やかな感じが面白いなと思いました。

ひだか:今までの作品がどちらかというと、自分の心の痛みに任せて歌詞を書いていたイメージなんですけど、今回はそれよりも「ずっと歌える」というのがテーマだったので。だからより俯瞰して書けたのかもしれないです。

――その時の感情に任せて書いた曲は、やっぱり時間が経つと自分で歌っていても気持ちのズレを感じることがあったと思うんです。

ひだか:はい。「あの時みたいな感情では歌えないな」っていうのはもちろんあったし、稀にですけど、今だから歌える曲っていうつもりで書いたのに、そこに感情がなくて「頑張って歌ってる」感がどうしてもあったんです。

――さっきから言っている「ずっと歌える」というのは、要するにより普遍的というか、いろいろな感情の時にも寄り添えるような曲にしていくっていうことなんだと思うんですよね。

ひだか:はい、そう思いますね。

――メンバー2人は今回の歌詞について何か言ってました?

ひだか:全体的に広く歌っている曲が多いからこそ、6曲目(「執着.」)と7曲目(「page」)について、今までの曲をずっと聴いてるメンバーからしたら「ひだからしいね」と言っていた記憶がありますね。この2曲はあまりフィクションではなくて。でも他のラブソング、「涙袋」とか「かまってちゃん」とかは実体験とフィクションを混ぜて歌っている感じなんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる