アルステイク、素直な想いを曝け出すロックバンドの覚悟 歌のテーマが大きく広がった『B』を語る
「ロックの衝撃に勝るものにまだ出会えてない」
――「足跡」はどうですか？ この曲はそれこそ広いというか、いろいろな気持ちや関係に重ねられる曲になったと思うんですが。
ひだか：これは1stミニアルバム（『風』）で「心」という曲を作った時の感覚に似ていて。「心」を作ってライブでやりだしてからそこに手応えがあったんです。だから今回も自分みたいな、そんなに器用じゃない人だったり、「弱い」って言い方が合ってるのかわからないですけど、そういう人間の味方でありたいなって。曲作ろうと思った時にそういう気持ちがつらつら出てきて書きました。これは自分のことも歌ってるし、誰かのことも歌ってるんだろうなみたいな感じですね。
――「心」で感じたのはどういう手応えだったんですか？
ひだか：恋愛の曲だったら共感は得やすいと思うんです。でも「心」ではこんなに“自分”っていうパーソナルな部分を出しているのに、それでも共感してくれる人がいたり、泣いてくれる人がいるんだっていう。だったら、今回もまたその部分を鮮明に出してもいいのかなと思ったんですよね。普通に生きていたら弱音とか言い訳ってあまり正当化されないけど、こうやって音楽に乗せることによってそれがキラキラして見える瞬間がある。それを知っているので、そういうものを詰め込みたかったんです。
――〈遠回り 空回り 負けばかりの毎日だとしても／自分なりの真っ直ぐならそれでいいんだよ〉という「足跡」のメッセージは、人に向かって言っているようにも思えるし、自分自身に言い聞かせている感じもありますよね。この曲にはシンガロングパートもあって、それもこれまでにはなかったものだなと。
ひだか：挑戦でした。ワンマンもやってきた中で少しずつ自信というか、「自分たちだけのバンドではないんだ」っていう自覚が出てきて、「みんなで歌いたいな」って気持ちで作りましたね。
――この曲のように弱い部分を肯定する感覚って、例えば「生きている」にもある気がします。〈息をするだけで／いいと思えた夜がある〉というのもそういうことですよね。
ひだか：はい。それがバンドをやる意味というか。自分はこうやって曝け出すことができる感覚が大好きでバンドをやっているんで、そういう意味ではその曲たちが今回の作品の中では……なんていうんですかね、オナニーというか。そういう感覚ではあります。
――それを今まで以上に正直に歌詞にできたというのがすごく大きい気がします。なんで音楽をやっているのか、なんでロックバンドを続けているのかという問いに対する答えをまさに曝け出している。それができるようになったというのは、何か強い確信があったからなんだろうなと。
ひだか：そう思います。
――「ロックに騙されていることに気が付かないほど信じてる」もそうですよね。これ、全バンドマンが「わかる」って言うと思うんです。バンドマンだけじゃなく、ライブハウスに集まっているお客さんもきっとそうですよね。「騙されている」って結構びっくりする言葉だけど、それでもなおロックをやってるんだっていう強い意思表示だと思う。
ひだか：この曲、もともと作った時はプラスなイメージじゃなかったんです。他のバンドがライブとか曲中で「俺たちはロックに騙されている」みたいなことを言ってるのを聞いたりしたんですけど、その感覚が自分にはずっとわからなかったんですよ。「騙されてるの？」と思って。「俺、バンドやってるけど、ロックに騙されてるの？ ってことはお客さんのことも騙してるの？」って、マジでわかんなくて……でも少しどこかでわかる部分もあって、だからといって騙されてることをどうしても認めたくなくて。だから「いや、俺騙されてないし、ただロック信じてライブとバンドやってるだけだから」っていう気持ちで書き始めました。
――結果、「騙されている」って言いながらそれを突き抜けてロックへの思いを爆発させるような曲になりましたね。
ひだか：はい。俺にとってロックは単純に憧れというか。「あ、かっこいい！」っていうあの衝動に勝るものにまだ出会えてないんです。そこにずっと憧れ続けて、ずっと追いかけ続けてる感覚なので。それは今でも何も変わっていないですね。
――ひだかさんの最初のロックの衝撃って何だったんですか？
ひだか：My Hair is Badですね。「こんなこと言っていいんだ、歌っていいんだ」って。
――例えば「インマイマイン」とかにはマイヘアの遺伝子も出ている気がするんです。
ひだか：ああ……意識していたわけではないんですけどね。
――似ているわけではないし、意識したということでもないと思うんですけど、染み込んでいるものが出ている感じがする。あの、思いのままに言葉が迸る感じとか。
ひだか：でも「マイヘアっぽい」って言われるのは自分の中でちょっと嬉しいんです。みんな、どこまで考えてそういう言葉を言ってくれてるかはわからないですけど、やろうと思っても真似できるものじゃないと思ってるんで。なのに「っぽい」っていうのは、自分の中では光栄なことですね。
「自分みたいな人を救える曲を歌い続けたい」
――ロックということでいうと、「ぼくらの季節」にも〈サムライロック ギターを鳴らせ／嘘は歌うなよ〉というフレーズが出てきますね。
ひだか：「ぼくらの季節」はもともと18～20歳ぐらいの時に弾き語りで歌っていた曲なんです。そのぐらいの年齢って、大人にならなくちゃいけないけど、まだ子供のままでいたいなって、すごく葛藤してた歳で。その時に少年時代は何も考えずに自由だったなと思って作った曲ですね。
――そこからまた少し年齢を重ねて、違う視点で過去を見ていると思うんですけど、今のひだかさんから見た時にこの曲の自分はどう映っていますか？
ひだか：この曲は結構前に作ってますけど、ずっと歌える曲かなって気はしてます。
――そうなんですよね。過去の気持ちなのに、今に通じるものがある。この曲、〈ぼくたちの旅は続いていくのさ〉って終わるじゃないですか。10代でこれを歌っているのと、24歳になった今歌うのとでは重みが全然違うと思うんですよ。それがしっくりくるというのも、今改めてそれだけ強い決意のようなものを抱いているからなんだろうなと。
ひだか：うん、自分でもそう思いますね。
――アルステイクって今のメンバーになって何年になるんでしたっけ？
ひだか：2018年にのんちゃんが入って、2019年にあむが入ったので、5年くらいですかね。
――その5年の歩みってどうでした？
ひだか：めちゃくちゃ濃くて。いろいろな人と出会って、いろいろな経験をした感じです。でもその中でやりたいことというか、軸の部分は変わってないなって。
――今回アルバムを携えて11月には東京・Zepp Shinjuku、そして地元・岡山のCRAZY MAMA KINGDOMでワンマンライブ『唸れツアー 初日編』が決まっています。着実にステップアップを果たしていますけど、そこに対する感慨は？
ひだか：正直、やりたいことをやれて、歌いたいことを歌えて楽しいというのと、もっとかっこよくなりたいっていう気持ちでずっとやっているだけなんで……なんかこう、「あ、Zeppでライブするんだ」「KINGDOMでライブするんだ」っていうだけの感覚なんです。もちろん気合いも入るし楽しみですけど、やることは当たり前に変わらない気はしていますね。
――ひだかさんにとってKINGDOMってどういう場所なんですか？
ひだか：俺にとってはというか、岡山のバンドマンにとっての憧れだと思います。まあ今までと変わらない1本のライブだなっていう気持ちもありますけど、半分は岡山を背負ってやるんだっていう気持ちもあります。実際にステージに立ったら、また気持ちが変わりそうな気もします。
――「背負ってやる」という気持ちが芽生えてきたんですね。
ひだか：俺は基本的にそんなに前向きでもなく、自分に自信があるわけでもないんですけど、だからこそ自分みたいな人を救える曲を歌い続けたいと思うんです。ただライブに関してはめちゃくちゃ我の強い3人が集まってるんで「どうなるんだろう？」っていう楽しみのほうが大きいですね。
◾️リリース情報
アルステイク 2nd full album『B』
2024年9月25日（水）発売
価格：¥2,420（税込）
＜収録曲＞
1 生きている
2 足跡
3 涙袋
4 かまってちゃん
5 ダメ彼女
6 執着．
7 page
8 #だるい
9 ロックに騙されていることに気が付けないほど信じてる
10 ふたりの季節
11 ぼくらの季節
12 インマイマイン
13 唸れ
