夢限大みゅーたいぷ 仲町あられ&千石ユノ×PHYZ 座談会 生身で臨んだ初ワンマン、それぞれが掴んだ次のステップへの兆し
仲町あられの“ぼくには何もない”を曲にした「コハク」
ーー改めて、仲町さんにフォーカスを当てた楽曲「コハク」の制作エピソードについて伺わせてください。作編曲は堀江さんで、作詞は仲町さんと堀江さんのダブルクレジットになります。
仲町:いままでのゆめみたの楽曲は、最初にメンバーひとりひとりの半生を深くヒアリングする行程があって、ぼくもその楽曲を歌うにあたってどこが大事なのかを解釈するために、その場に同席させてもらっていたんですけど、みんなの話を聞いていくうちに「自分はなんて薄っぺらい人間なんだ……」という気持ちがだんだん積み重なっていて。その気持ちを、打ち合わせの中でお話したんですよね。
堀江:各々のメンバーが自分の思いをちゃんと言語化できるのを横で聞いて、メンバーのことを立派と思いながらも、それに対してコンプレックスを抱いているという話で。それを聞いたうえで、その話をモチーフに自分がその場で曲を作ってみて。
仲町:そうなんです。堀江さんのスタジオで打ち合わせしていたんですけど、30分か1時間そこらで「はい、これワンコーラス」って感じで出来上がって(笑)。
ーー自分も堀江さんの「高速DTMワークショップ」を生で観たことがありますが、制作スピードが尋常ではない速さですからね。
堀江:ちなみに、あれ、すごく疲れるんですよ。時短と思われるんですけど、その分、カロリーがそこに集中しているので、やったぶんだけめっちゃお腹がすきます(笑)。で、その音源を元に、あられさんが思うことを、詩の断片でもいいからと伝えたうえで、書いてきてもらって。ゆめみたは、(藤)都子さんがイラストを描いたり、メンバーが自家生産するバンドでもあるので、クリエイティブに対しても一般的な座組みの『バンドリ!』のバンドと違う流れがあればと、プロデューサーとも話していたので、メンバーにもモノづくりに参加してもらおうということで。
仲町:そう、そこから2~3週間かけて書いたものをお渡しして。
堀江:そのラフスケッチには、詞として書かれている部分もあって、それも良かったのですが、メモ書きに〈いつか後悔する時がくる〉というワードがあって、それがすごく良いと思ったんですよね。なのでその言葉を入れられるように調整をお願いして。そういうラリーを何往復か繰り返すなかで、出来上がっていく歌詞に合わせてメロディも調整していきました。
仲町:「メロディは気にせずに書け!」と言ってもらって(笑)。個人的には詞が付く前のメロディーも好きだと感じていたので、あまり崩さない方向では考えていたんですけど、ところどころ調整してもらいました。
堀江:〈いつか後悔する時がくる〉というワードはラスサビに入っているのですが、そこはこのワードを入れたいがゆえに書き足した部分で、このフレーズをいちばん気持ち良く歌えるであろうメロディーを書きました。
ーーこの〈いつか後悔する時がくる〉という言葉は、どういう意味合いで出てきたのでしょうか?
仲町:ぼくは孤独が好きなタイプで、ひとりでいると何をやるにしても全部自己完結できるけど、自分以外の誰かと何かをするとなると、自分以外の存在がいる時点で自分の思い通り100%にいかない事が当たり前なので、そういう面で「頭ではいつか後悔することはわかっているんだけど……」みたいな内容ですね、多分。過去にそういう経験をしたことがあったので「また後悔するときがあるんだろうな」っていう。だから、あまり前向きに捉えられにくい内容でした。
ーーでも、今はゆめみたとして活動していて、ひとりではない。
仲町:だからこそ「この部分を出していいのかな?」と思っていました。誤解を与えてしまう言葉というか、歌詞にするにはもう少し調整しないといけないかなと思って、メモ書きにしていたんです。
堀江:これは自分がクリエイティブにおいて大事にしていることなのですが、光を描くときは必ず影も描くようにしていて。醜いものがあるから、美しいものを美しいと言えると思うんですね。その意味では、この一節があることで、輝くものがちゃんと輝いて見えるところがあるし、ゆめみたのクリエイティブにとって大事な1行になったと思います。ここでチームから「ちょっとネガティブなので……」と止められていたら「ああ、もういいわ」ってなっていたと思うんですけど(笑)、むしろプロデューサーさんも一緒にのってくれたので。
プロデューサー:打ち合わせのときに本人が「ぼくには何もない」という話をしていたので、その「何もない」こと自体を歌ってもらうのもいいよね、という話になりまして。本人の中で「これでいいのかな?良くないのかな?」みたいな部分があったので、楽曲自体も浮き沈みのある感じにして、どちらの部分も出しやすいようにお願いしました。
堀江:1作目としては難しいテーマでしたよね。無のなかに揺らぎを持たせるっていう。熱血があるわけでもないし、むしろ「ぼくは一人ぼっちで何もないんだ」というキャンバスのうえで、いかに抑揚を持たせるかっていう。でも、だからこそそれを乗り越えるおもしろさがあったと思います。
仲町:絶対にいままでのゆめみた曲がなかったら「コハク」の歌詞は書けなかったし、堀江さんからいただいたオケとメロディがすごく雄弁だったので、引き出してもらった感じがしていて。自分の思いを表に出すこと自体、あまり得意ではないし、経験もなかったので、正直、披露するまですごく不安でしたけど、1st LIVEを経て「伝わったんだな」と感じることができて。そこで自分の中で完成した感覚がありました。
ーーライブのMCでは、「自分と同じ孤独を抱えている人のエールになれば」といったことも話していました。
仲町:気持ちの折り合いとしては、自分の決意に近い内容なんですけど、その決意が誰かの決意にも繋がればいいなと思って。誰かのエールになったらこの曲の意味があるのかな、と思ってお話しました。
白神:こういう無をテーマにした曲って、バンドだと、1st Albumで言いたいことを言いきってしまったあと、2nd Album以降で生まれがちな曲だと思うんですよ。ゆめみたはある種、ほかのメンバーにそれ以外のテーマがあるからこそ、バリエーションとして存在し続けられるテーマでもあるかもしれないし、今後それぞれのテーマで楽曲が出続けるとしたら、そのバランス感はおもしろいかもしれないですね。