ハナレグミ、“歌いたくなる衝動”が生まれる瞬間 アルバム『GOOD DAY』に散りばめられた新鮮な試み

「チキンカチャトラ」「MY 夢中」「どこでもとわ」制作秘話

――5曲目の「チキンカチャトラ」は、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERのicchieさんとYOSSYさんの制作による、打ち込みによるサウンドデザインが可愛い仕上がりです。

永積:2年ぐらい前に、自分で打ち込んでトラックまで作ったんだけど、解放感が今一つだったからその時はボツにしたんです。YOSSY LITTLE NOISE WEAVERの「WANDERING」っていう曲がすごく好きなんだけど、YOSSYのフレージングとか、音を編み込んでいく感じが絶妙だなって思っていて。打ち込みだけど、すごく手触りを感じるというか。それで、今回の“日が暮れるまでの時間の音楽集”というテーマを考えた時に、YOSSYとicchieの明るさと、人懐っこくてフレンドリーな遊び心を入れてほしいなって思いついて。だからテーマだけ伝えて、あとは自由に作ってもらいました。

――レコーディングは彼らのアトリエに行って?

永積:そう、オケは二人に任せて、ギターダビングと歌入れの時もお邪魔しました。今回特徴的なのは、ミックスをミュージシャンにやってもらった曲が多いこと。この曲はicchieにミックスしてもらって、「Blue Daisy」は(西田)修大にやってもらって。音の細かい機微が出ているというか、いい意味で癖が残っているような感じで、どの曲も表情が豊かなんだよね。もちろん完璧に作られたものも魅力的なんだけど、音楽にしてもモノにしても、ところどころにその人の癖がちゃんと残っている音楽が、僕は自分の言葉や声に合うなって思ってる。打ち込みってどんどん磨き上げることはできるから、どうしても機械的なものになっちゃうけど、今回参加してくれた人たちは、その機微をわかって、深められてる人たちだなって思う。

――ちなみに「チキンカチャトラ」には、上白石萌音さんと藤原さくらさんがボイスで参加していますよね。

永積:彼女たちの声を入れたいなと思ってオファーしたら、快く引き受けてくれました。萌音さんに関しては、ロンドンで舞台『千と千尋の神隠し』の公演中だったんだけど、合間を縫ってロンドンから録音したデータを送ってくれて。さくらちゃんも、二つ返事で参加してくれてありがたかった。

ハナレグミ - 「MY夢中」Music Video

――続く「MY 夢中」は、ドラマ『ミワさんになりすます』(NHK総合)の主題歌として作られた楽曲です。

永積:今までドラマの主題歌の書き下ろしは、期待に応えるものが作れるのかな? っていう気持ちがあって、お断りさせていただいてたんだけど。でも、今回のアルバムの制作がすごく新鮮な環境で進んでいく中で、こういう話をいただくのって、何かチャンスをもらっているような気がしたんです。原作を読ませてもらって、ドラマの制作のスタッフさん達からもいろいろと話を聞いていく中で、すごくやってみたいと思ったんだよね。

――大きな後押しとなったことは?

永積:主人公の(久保田)ミワさんに、すごく思い入れができちゃったのが大きかったのかも。何か自分と近いところもあったし、自分の周りにいる友達にも、ミワさんと似てるような子がいるなって。好きなことに向かって、訳わからなくなっちゃえるような人たちって、友達になれるなって思うから。そうやって頭に思い浮かべてみたら、そういう友達が周りにいっぱいいて。その人たちを思いながら書けば、いい曲ができそうだなって思ったんだよね。

――ハナレグミの盟友といえる鈴木正人さんが編曲を手掛けていて、新しいアプローチの楽曲が続いた今作の中でも、いい意味でハナレグミらしいアレンジに仕上がっています。

永積:以前までの自分と今の自分を繋げる1曲かもね。アルバムを通して聴いた時に、ここで「MY 夢中」がかかるのがすごくいい。アルバムに深みが備わるんですよね。

――7曲目の「どこでもとわ」は、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんが楽曲を提供しています。

永積:ここ数年で彼と仲を深めて、GEZANやMillion Wish Collectiveとのライブを観に行かせてもらったんだけど、いつ観てもすごく感動的でさ。あと彼が監督した映画『i ai』も。この圧倒的な言葉に、自分の声を重ねてみたいなって思った。それで、頼むとしたらタイミングは今だなって。去年どこかで会った時に、締め切りとか関係なく、もし思いつくようなことがあれば、いつかマヒトくんの曲を歌いたいと話したら、わかりましたって言ってくれて。それからしばらくして、去年の年末に「曲、書けました」ってメールがきたんだよね。「今から渋谷の公園の脇のベンチで待ち合わせましょう」って。

――すごい展開ですね(笑)。

永積:小さな公園のベンチに、夜9時ぐらいかな。年末だから誰も人なんていないんだけど、マヒトくんがアコースティックギターをケースにも入れずに持ってやってきて。「こういう曲です」って聴かせてくれたんだよね。

――マヒトさんが綴った言葉は、どんなものを描いていると感じましたか?

永積:なんだろうね。どういう内容とは聞かなかったけど、自分と交わした時間も入ってるなって気もしたし、あとは、彼が愛する人や仲間と過ごしてきた時間のことも入っているんだろうなとは思うんだよね。あとは、写真家の佐内正史さんかな。コロナ以降にすごく密に話をするようになって、マヒトくんも佐内さんと一緒に映画を作っていたから。自分とマヒトくんの間にある、いくつもの紐みたいなものを編み込んでるんだろうなと僕は読み解いてるんだけど。

――なるほど。

永積:でも、この曲は本当にいくらでも潜っていける歌詞だから。それを自分の歌で、どういう風に完成させられるかっていうのはすごく考えたかな。弾き語りで歌うことも全然できたし、それも一つの方法だったと思うけど、マヒトくんが紡いでくれた世界と、自分の歌の世界の、どちらにもウエイトが置かれていない、中間にあるようなアレンジがいいなと思って。それで修大にアレンジャーとして入ってもらった。どういうアレンジにしたらいいか、アイデアをキャッチボールして。フォークだしロマンチックな歌なんだけど、そこにあえて強いビートをのせた、「これカッコいいかもね」ってアイデアが出てきて。そこからはビートのやりとりをしましたね。

――永積さんの声が多重録音でどんどん重なっていくのも印象的でした。

永積:言葉のフレーズ一つひとつが強いから、繰り返すだけでもまた意味が変わったりする。この言葉にディレイかけるとか、この言葉は転調するとか遊んでいくことで、“言葉”というところから“歌”になっていったかな。いろいろなミラクルが起きた1曲でしたね。

全国ツアーは「気持ちいい感じを持って帰ってもらえるような2時間に」

――本編ラストを飾る「Wide Eyed World」は、フォーキーで、どこかアイリッシュ音楽っぽくもあって。

永積:祝祭っていうのかな。最後に向かって言葉が繰り返されて……。高畑勲監督の『かぐや姫の物語』の最後じゃないけど、しゃんしゃんしゃんって空を登ってくみたいに、解放的なところに届く1曲になったらいいなと思って。それで、高桑圭さん(Curly Giraffe)にアレンジをお願いしたんだよね。録ってる時から、これはアルバム最後の曲だなってイメージしてたかな。歌詞の中にある〈わからないを信じてる〉っていうフレーズと、“GOOD DAY”という言葉が、自分の中で大きなキーワードとしてある感じ。神社の前の狛犬みたいに、左右にでーんと(笑)。

――歌い出しにある〈僕の居ない世界の/君が見てみたい〉というフレーズが、アルバムの冒頭にもアカペラで歌われています。その一言がアルバムの冒頭に入っていて、一枚を通して聴いても、陽が暮れるまでの明るい時間のキラキラした情景がいろいろな形で描かれてるんだけど、なんていうか、この曲を最後に聴くと、これまでの曲で描かれたものはすべて幻なのかなとも感じ取れて。

永積 あの世に来ちゃった、みたいに見える瞬間というかね。

――そうなんです。だからこそ、日常にある全ての瞬間はかけがえのないものなんだ、ということを描いてるのだろうなとも思いました。

永積:うん、うん。〈僕の居ない世界の/君が見てみたい〉って歌詞を書いた時、人によっては「なんか寂しいね」って言われたんだけど、自分としては、ファンタジックな意味合いで書いたつもりだったんです。子供の頃ってさ、そういうこと思うじゃん。たとえば、電信柱の影からお袋が帰ってくるのをじっと見たりして。自分がいないときのお袋はどうしてんのかな? とか考えたりさ。そうやって、自分の日常を、どこか別のところから見る遊びみたいな感じ。

――ああ、なるほど。

永積:この曲は、最初からそうやって書こうと思っていたわけではないんだけど、歌詞を書き進めていく中で、いろんな人の断片を書いてるような、その一瞬の中にいるさまざまな人の姿を切り取ってるような感覚になってきて。それが面白いなって思ったんだよね。たくさんの人が、その一瞬一瞬で思ってる言葉をチョイスしていったようにも見えて、 不思議な感じの歌詞になってたね。

――広い目で見ると、そういう瞬間の集まりで世界は回ってるというか。

永積:うん。そこから「Wide Eyed World」というタイトルも導かれていった感じかな。

――さて。10月後半からは全国ツアーも始まります。

永積:ライブハウスが中心なので、スタンディングでも楽しめる選曲で行こうかなと思ってます。もちろん、今回のアルバムの曲は全曲やりますよ。

――今回のアルバムはアレンジが斬新だっただけに、バンド編成でどうなるのかも楽しみですね。

永積:バンドのメンバーは達者な人たちばかりなんだけど、みんな新曲をやれるのを楽しみにしてくれていて。ハッピーなメンバーたちだから、アルバムのジャケットみたいにカラフルに、気持ちいい感じを持って帰ってもらえるような2時間にしたいと思ってます。

『GOOD DAY』ジャケット

■リリース情報
9th フルアルバム
『GOOD DAY』
発売日:2024年9月25日(水)

【初回限定盤(CD+DVD)】
価格:6600円(税込)

<CD収録曲>
01. Wide Eyed (Introduction)
02. ビッグスマイルズ
03. 雨上がりのGood Day (feat. iri)
04. Blue Daisy
05. チキンカチャトラ
06. MY夢中
07. どこでもとわ
08. Wide Eyed World
<ボーナストラック>
09. 会いにいこう

<DVD収録曲>
『Faraway so close in 日比谷野外大音楽堂』(2023年10月1日 日比谷野外大音楽堂)
01. マドベーゼ
02. あいまいにあまい愛のまにまに
03. 夢の中
04. 音タイム
05. 家族の風景
06. 発光帯
07. 光と影
『THE MOMENT 2024』(2024年3月27日 LINE CUBE SHIBUYA)
08. ブルーベリーガム
09. 追憶のライラック
10. 眠りの森
11. Peace Tree
12. 独自のLIFE
13. ホームにて
14. エイリアンズ
15. 嘲笑
16. 深呼吸
17. ハンキーパンキー
18. サヨナラCOLOR

【通常盤(CD)】
価格:2970円(税込)

■ライブ情報
『ハナレグミ TOUR GOOD DAY』
10月24日(木)Zepp Fukuoka OPEN18:15 / START19:00
10月26日(土)Zepp Namba(OSAKA) OPEN17:15 / START18:00
11月2日(土)Zepp Sapporo OPEN17:15 / START18:00
11月4日(月祝)新潟LOTS OPEN17:15 / START18:00
11月7日(木)Zepp Nagoya OPEN18:15 / START19:00
11月8日(金)広島クラブクワトロ OPEN18:15 / START19:00
11月14日(木)Zepp DiverCity(TOKYO) OPEN18:00 / START19:00
11月16日(土)仙台GIGS OPEN17:15 / START18:00
11月23日(土)沖縄ミュージックタウン音広場 OPEN17:15 / START18:00

<チケット情報>
一般発売:9月28日(土)10:00~
イープラス:https://eplus.jp/hanaregumi/
ローソンチケット:https://l-tike.com/hanaregumi/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/hanaregumi-t/

<受付席種・注意事項>
前売:指定席 8,000円(税込/全席指定・ドリンク代別・未就学児童入場不可)
前売:スタンディング 7,000円(税込/ドリンク代別・未就学児童入場不可)
※指定席は1階前方から中央あたりまで及び2階指定席のいずれかの案内。階数は選べずランダムでの当選。
※1Fスタンディングは1階後方エリアへの案内を予定。
※Zepp DiverCity(TOKYO)、Zepp Namba(OSAKA)の1階、新潟LOTSに関してはオールスタンディング。

■関連リンク
ハナレグミ オフィシャルサイト:https://www.hanaregumi.jp
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@hanaregumi.official
X(旧Twitter):https://twitter.com/hanareoffcial
Instagram:https://www.instagram.com/hanaregumi.official/

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