連載『lit!』第120回:The Weeknd、テイト・マクレー、Bon Iver……解体や循環の中で生まれるグローバルミュージック
FKA twigs「Eusexua」(9月13日リリース)
普段の先鋭的なパフォーマンスからはまったく想像することができない、スーツ姿でオフィスワークに勤しむFKA twigsの姿。だが、それ以上に絶大なインパクトを与えるのは、細かく刻まれた環境音が鮮烈に弾けるビートとともに躍動しながら、徐々に会社員が集まるオフィスの一室が肉体的なダンスフロアへと変貌を遂げ、やがて自然と生物の本能が一体となりながら神話的な光景へと向かう、あまりにも衝撃的なMVの構造だろう。抑圧と解放のコントラストが、これ以上ないほどに約8分の映像の中に詰め込まれている。
本人いわく、「Eusexua」とは「一晩中踊り続け、音楽に7時間くらい没頭していた時の感覚」であり、「本当に好きな人に出会い、一晩中キスをして、ずっとキスをして、時間を忘れてしまう時の感覚」でもあるという(だがその解釈は個々人に委ねられる)。UKが誇るレジェンドDJであるSasha、2010年代を代表するエレクトロニックアーティストとして名高いKoreless、現代のアンダーグラウンドを象徴する鬼才であるEartheaterという凄まじいメンバーをプロデューサーに迎えて生まれた、アップリフティングでありながらも官能的かつアヴァンギャルドな楽曲の仕上がりは、まさにそうした「Eusexua」的な感覚を強烈に想起させる。本楽曲は2025年1月にリリース予定となっている最新アルバム『EUSEXUA』のリードシングルであり、ここまで強烈な体験を経た今となっては、アルバムというフォーマットを通してこの世界観がどのように表現されているのか、今から気になって仕方がない。ファンやメディアの一部は「Brat summerが終わって、Eusexua autumnが始まる」と興奮しているが、まさにここから新たなダンスが始まるのだ。
SOPHIE「Exhilarate (feat. Bibi Bourelly)」(8月29日リリース)
現代の音楽シーンに絶大な影響を与えたSOPHIE。もし彼女がいなければ、少なくとも私たちが「Brat summer」を謳歌することはなかっただろうし、2024年のポップシーンの景色がまるで違うものになっていたことは間違いない。彼女が不慮の事故によって亡くなってから3年が経った今、生前にほぼ完成させていたというアルバムが、彼女の家族や長年の制作パートナー、彼女と親交のあった様々なアーティスト(ハンナ・ダイヤモンドやキム・ペトラスなど)の手によって、いよいよ私たちの前に姿を表そうとしている。
名曲「Faceshopping」のMoney Mixにも参加していたドイツ出身のシンガー/ソングライターのビビ・ブレリーが参加した「Exhilarate」は、ビビの優しく力強い歌声と、SOPHIEらしい独特な質感を持った音色が彩るトラックが一体となりながら、エモーショナルの高みへと向かっていく、ポップで美しく、最高に尖った楽曲だ。これまでに発表されてきた先行楽曲においても同様だが、テクノロジーを活用しながらも極めて有機的に感じられるその音は、明らかにSOPHIEにしか奏でることができないものであり、一度触れるだけで、私たちが失ってしまったものを思い知らされ、あれから数え切れないほどに感じてきた喪失感に再び襲われてしまう。とはいえ、今はただ、彼女が遺したものをなるべく理想的な形で楽しむことができるということ自体に感謝するべきなのだろう。それは、改めて彼女が与えた影響について考え、新たな時代へと向かうきっかけにもなるはずだ。最期の作品となる『SOPHIE』は9月27日にリリース予定。