弌誠「モエチャッカファイア」、バイラルチャートイン 超低音の歌声に引き込まれるトリッキーな1曲
「モエチャッカファイア」の詞曲を手掛けた弌誠は、2001年生まれのシンガーソングライターである。7月から2クールにわたり放送されているテレビアニメ『多数決』(日本テレビ系)のエンディングテーマ「GAME OVER」にも彼の曲が起用されている。各音楽配信サブスクリプションサービスで初めて発表された曲が「阿吽」(2022年)。以降ハイペースで楽曲を制作し、デジタルリリースを続けている。また「阿吽」以降の自身の楽曲を“二次創作素材”として、自身のYouTubeにリンクを貼る形で歌詞のデータやインスト音源を公開しており、「モエチャッカファイア」をはじめとした数作品に至っては、MV映像も二次創作素材として解放している。さらにYouTube内に“みなさんの動画”として「モエチャッカファイア」の歌ってみた動画を集めた再生リストも作成。有名歌い手やVTuberの歌ってみた動画が、弌誠の公式YouTubuにズラリと並んでいるのだ。
歌唱について注目してみると、現在まで14曲を発表しているが、年代を追って古い順番に聴いていくと、譜割りやアレンジ、自身の歌のレンジを試すような実験的なアプローチが「恋舞」(2023年)以降の曲で圧倒的に増えていると感じる。また、ダークファンタジーのような世界観を貫きながら、その時のJ-POPのトレンドをディテールにうまく取り入れているほか、ところどころに歌謡曲のような湿度の高いメロディを挟み込んでくるところも、2023年以降に発表された曲に顕著だ。
意欲的な実験の結果、己の超低音の歌声の魅力を引き出すことに成功したのだろう。「モエチャッカファイア」は、歌い出しのあえてキーのオクターブ下を歌ったような低音で、一瞬で聴き手を曲の世界にひきずりこむトリッキーな1曲。だが歌詞の中で〈up pull pull〉を「あっぷっぷ」と発音し、定期的に繰り返すことでトリッキーな印象を残したまま、キャッチ―な楽曲として昇華することに成功している。同じコードの中で、軽く置くように歌う地声の中音と、いきなり飛び出す低音がジェットコースターのようにスリリング。そしてこの低音と「あっぷっぷ」がフックとなり中毒性も高い。この数年、ハイトーンのボーカリストが注目を集めていたが、冒頭で触れた中島健人も含め、低音を魅力的に“歌うことのできる”ボーカリストが出てきたことで、さらに音楽シーンが面白くなっていくと思う。
※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2024-09-11
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