サカナクション、SUPER BEAVER、Creepy Nuts……2024年夏フェス、ライター4名のベストアクトは? 気になるニューカマーも
今年も9月に突入。夏フェスシーズンは終盤に差し掛かった。『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』といった4大フェスはもちろん、全国各地でさまざまな音楽フェス/イベントが開催され、音楽シーンはこれまで以上の盛り上がりを見せたのではないだろうか。
今回リアルサウンドでは、伊藤美咲氏、かなざわまゆ氏、松本侃士氏、矢島由佳子氏(五十音順)に、今年赴いた夏フェスのなかからそれぞれベストアクトをセレクト、その理由を現地の様子とともにルポしてもらった。また、今回はベストアクトに加えて“ベストニューカマーアクト”も選出。期待のニューカマーもしっかり紹介していく。今後のシーンを担う存在となっていくであろうアーティストたちにも、ぜひ注目してほしい。(編集部)
羊文学/『SWEET LOVE SHOWER 2024』
『SWEET LOVE SHOWER 2024』にて羊文学を観た。彼女たちは2番目に大きい会場「Mt.FUJI STAGE」での出演。ステージが始まる少し前に会場に到着すると、とんでもない数の人が集まっていた。のちに入場規制もかかっていたらしい。始まる前から「メインステージに立つべきでは?」と思わせる期待感に満ちていた。もともと、特にバンド好きのあいだで高い人気を誇っていた羊文学だが、注目度の高いTVアニメとのタイアップの影響が加わり、「彼女らをひと目観たい」という人々が殺到したのだろう。とはいえ、観客の多さでベストアクトに選んだわけではない。筆者が思うに、羊文学のライブの魅力は“余韻”だ。彼女たちの音楽はどちらかというと、リスナーを踊らせたり激しく奮い立たせるというよりも、じっくりと聴かせる系統だと思う。それもあって、いつもライブ後は「楽しかった!」という高揚感よりも「あの曲よかったな……」としみじみと余韻に浸ることも多い。この日はフェスということで、たくさんのアーティストのパフォーマンスも観た。そのなかで「どのアーティストがいちばん印象に残った?」と聞かれて、真っ先に名前が浮かんだのが羊文学だったのだ。ずっと聴いていたいと思わせるメロディラインと、芯の強さと儚さを備えた塩塚モエカ(Vo/Gt)の歌声。これらをまたすぐに味わいたいと思うばかりだ。(伊藤美咲)
HINONABE/『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』
千葉県出身の4人組バンド・HINONABEが、この夏オーディションを勝ち抜き、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』にオープニングアクトとして出演を果たした。熱い思いが伝わってくるボーカル、歌声をしっかり際立たせながらも印象に残るメロディックな心地好いギター、全体をしっかりと支えるリズム隊で、大きなステージに臆することなく会場を自分たちのものにしていったのだ。筆者が特に印象に残ったのは、最後に披露した「6月12日(火)、庭」。切なさと人のあたたかみを同時に感じる曲だ。ゆったりとしたバラード調でじっくりと聴かせたあとに、転調して自然とリスナーをリズムに乗らせる展開もお見事だった。この日に彼らの存在を知った人も多かったはず。最初は様子見という者も少なくなかったフロアもだんだんと身体を揺らし始め、後半には多くの人が拳を掲げていた。15分という限られた時間でリスナーの記憶にしっかりと残るパフォーマンスを披露し、オープニングアクトの役割をしっかりと果たしたのだ。
あらためて彼らのYouTubeチャンネルを見ると、コメント欄でも絶賛する言葉が溢れるなど、若手バンドのなかでもじわじわと頭角を表していることが窺える。これからの躍進劇に注目していきたい。(伊藤美咲)
Creepy Nuts/『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』
『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』でのCreepy Nutsが素晴らしかった。MCでも触れていたように、昨年はR-指定の体調不良で出演キャンセルとなり、彼らにとっては1年越しのリベンジとなったステージ。「ビリケン」「堕天」「のびしろ」といった直近のヒットナンバーを中心に、昨年のぶんも、というよりは2倍、3倍にして返すような気合いが感じられ、そんなふたりのパフォーマンスに応えるオーディエンスの熱も凄まじかった。なかでも心底驚いたのは、「Bling-Bang-Bang-Born」がコール、クラップと、皆で創り上げる歌になっていたこと。スピード感のある難解な楽曲だが、全体を巻き込んで大きな一体感が生み出されていた。それだけ、この曲が世に広く浸透したことを証明していたように思う。今や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』にはロックアーティストだけでなく、ボーイズグループ/ガールズグループを含めた多ジャンルなアーティストが出演しているので、HIPHOPユニットの彼らも異色には感じることはない。だが、ロックフェスにおいて、マイク1本とターンテーブルで大勢の観客を沸かせる彼らはあらためてすごいと思ったし、人の心を掴む音楽にジャンルは関係ないなと思ってしまうのだ。(かなざわまゆ)
Ayllton/『SUMMER SONIC 2024』
史上最多応募となったオーディション『出れんの!? サマソニ!? 2024』を勝ち抜き、見事『SUMMER SONIC 2024』への初出演を果たしたAyllton。最近、彼の名前を界隈でよく耳にしていたが、長崎県上五島出身で、2年前に上京し、都内を中心にライブ活動を重ねてきたシンガーソングライターだ。作詞、作曲、編曲をすべて自身で行う彼の音楽性は、ファンクやロックの要素を取り入れつつポップスに落とし込んだもの。筆者は『サマソニ』のステージで初めて彼のライブを観たのだが、この日1曲目に披露された1stデジタルシングルの「fado」は思わず体がノッてしまったし、耳馴染みのいいメロディと圧倒される歌唱力は多くの人に刺さるのではないかと感じた。歌詞には、〈さるいては〉という方言や、〈君のいない週末はShowもない〉といった言葉遊びも含まれ、そういった独自の作詞センスからもアーティストとしての才能が感じられた。ステージでは最後に、故郷を歌ったノスタルジックな歌詞とサウンドの「帰ろう」で、それぞれの大切な場所を思い起こさせるようにオーディエンスにしっとりと聴かせていたのも印象的だった。
弱冠20歳。これからこの才能がどんどん磨かれていくことだろう。ライブ中に「大きくなって帰ってきたい」と言っていたように、彼がまた『サマソニ』のステージに立つ日がくることを楽しみに思う。(かなざわまゆ)