秋元康が11人の少女たちに託したメッセージと未来 WHITE SCORPION『Caution』全曲解説

⑤雑踏の孤独

WHITE SCORPION 『雑踏の孤独』

 恵比寿マスカッツの「EBISU ANIMAL ANTHEMU」(2019年)で近未来性とジャパネスク感とメンバーらが持つ個々の色気をブレンドさせながら、平成の終わりと令和の始まりという時代的にカオスなムードをサウンド面で見事にあらわした音楽クリエイター、TAKU Tanaka。彼のハイブリッドな感性は、「雑踏の孤独」での作曲(LINDYと共作)と編曲で特に遺憾なく発揮された。そもそも「雑踏」という言葉自体、混乱した何かを感じさせる。そういった楽曲の世界観が、ぎっしり詰め込まれた音数で表現された楽曲だ。一方、秋元康が綴った詞はセンチメンタルを極めている。誰にも興味を持ってもらえなかったり、その存在に気づかれなかったりする日々――。人があふれる街でポツンとひとりでたたずむ光景のみならず、情報が大量に流れるSNSのなかで、何かメッセージを投げかけてもシェアや共感をされずに、“自分”がどんどんスクロールされていくような、そんな状況がこの曲からは思い浮かぶ。ギラついたサウンドに不釣り合いな寂しい歌詞をあえて重ねていることで、「雑踏の孤独」というテーマがより具現化されたのではないだろうか。(田辺ユウキ)

⑥非常手段

WHITE SCORPION 『非常手段』

 そのタイトルが表しているように、とても“強引”な内容の楽曲にも聞こえるだろう。人がそういった強引さを実行する時というのは、自分にかなり自信がある場合か、もしくは精神的に追い詰められている場合である。この曲の主人公が置かれている状況を考えると、それは後者を意味しているのではないだろうか。〈やさしさなんかで止めても聞き入れてくれやしれないよ〉〈どちらの愛が薄情で/冷たい川に眠るのか/どうにもならないのならば〉といった歌詞から読み取れるのは、打開策が見えない人間の焦りだ。だからこそ、力づくで抱きしめて、相手にわからせる方法をとる。そうやって何かに駆り立てられているような心理状態をより際立たせているのが、攻撃的かつ目まぐるしい展開を見せるサウンドである。特にバリエーションの多彩さは、この曲で描かれているドラマ性をより劇的な印象へと仕上げていく。ライブで一体感を生む間奏の「HEY」という掛け声は、まるで煽りのようにも聴こえ、“非常手段”をとらざるを得ない状況を作り出す意味として、大きな効力を発揮している。(田辺ユウキ)

⑦心が目を閉じる

 舞台は真夏の寝苦しい夜。〈僕〉は自分がした過去の過ちを省みている。夢もなく、生まれた意味を探している〈僕〉は、心のなかでひとり自問自答を続けている。〈過ちはどこだ?〉〈何が/そうさせた?〉。形のないはずの心というものが「目を閉じる」という独特の表現が、世のなかとは距離を置いてひとりの世界に閉じこもる〈僕〉の孤独な姿を容易に想像させる。心に目があるのかはわからないが、その感覚はなんとなくわかる気がする。

 アコースティックギターの爪弾きが印象的なフォーク調ポップスだが、一見爽やかに思える音作りは空虚とも言えるもので、この曲の主人公の抱いている葛藤や虚無感がサウンドにも滲み出ているようだ。いつまでたっても寝つけない気怠い真夜中の時間感覚が、ゆったりとしたテンポ感にも表れている。そうした内省的な歌を、まだアイデンティティの不確かな20歳前後の彼女たちが独白するように歌っているところにリアリティがある。(荻原梓)

⑧命しか捧げるものがない

 『IDOL3.0 PROJECT オーディション』の最終審査で惜しくも落選した17名からなる、文字通りの“FINALIST”によるオリジナル曲。ミディアムテンポのヘヴィな音像に乗せて「命しか捧げるものがない」と高らかに宣言する楽曲スタイルは、スタイリッシュさが際立つWHITE SCORPIONとの差別化もしっかりされており、パワフルでダイナミックなバックトラックにも負けない彼女たちのボーカルからは、ここから進んでいく道なき道に対する覚悟も伝わる。WHITE SCORPIONの11名と運命を二分した彼女たちが、〈ここから先のことは見当もつかない〉という歌詞のようにどんな未来を切り開いていくのか。“最後の切り札”なんかではなく、希望に満ちた“はじまりの歌”として受け取ってほしい。(西廣智一)

■リリース情報
1stミニアルバム『Caution』
発売中

配信URL:https://whitescorpion.lnk.to/Caution

<通常盤>
品番:KICS-4165
定価:¥2,500(税抜価格 ¥2,273)

・CD(全8曲収録)
01. 動く唇(WHITE SCORPION新録)
02. Satisfaction graffiti
03. コヨーテが鳴いている
04. 眼差しSniper
05. 雑踏の孤独
06. 非常手段
07. 心が目を閉じる(WHITE SCORPION新録)
08. 命しか捧げるものがない(FINALIST新録)

・封入特典
生写真1種ランダム封入(全11種)※初回プレス分のみ封入

・メーカー特典
オリジナルトレカ(全11種)

<OFFICIAL STORE限定盤>
品番:NKCD-10514
定価:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)
※ネット限定OFFICIAL STORE限定盤オリジナル仕様
※イベント参加券付き

CD(全7曲収録)
01. 動く唇(WHITE SCORPION新録)
02. Satisfaction graffiti
03. コヨーテが鳴いている
04. 眼差しSniper
05. 雑踏の孤独
06. 非常手段
07. 命しか捧げるものがない(FINALIST新録)

■公演情報
『WHITE SCORPION 「1周年記念ワンマンライブ(仮称)」』
日付:12月7日(土)
会場:竹芝ニューピアホール
※詳細は後日HP等にて発表

WHITE SCORPION オフィシャルサイト:https://whitescorpion.jp
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FINALIST オフィシャルサイト:https://idol3-project.jp/
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