米津玄師、アルバム『LOST CORNER』に混在する3つのモード Spotify「Liner Voice+」を聞いて
最後に、もうひとつ見逃せないのは、「Liner Voice+」(特に「Pale Blue」のコメント)で語られているように、ボーカリストとして歌に対するアプローチが変化していることだ。いわく、「美しく歌う」を目指した時期を経て、いまはもっとカジュアルに、あえて「汚す」ような歌い方をするようになったという。
実際、本作での米津のボーカルを聴いていると、ダイナミクスの表現による音楽的な効果だけではなく、発声のニュアンスによる演劇的なメリハリが強い印象を残す。「RED OUT」の〈消えろ〉のリフレインは映像的に訴えかけるような切迫感をもたらすし、「KICK BACK」のめまぐるしい展開にあわせた誇張された歌声の変化はいうまでもない。「毎日」でのときに語りに近づいて繊細に力の入り方をコントロールして生み出される反復のドラマも興味深い。
「Liner Voice+」と突き合わせながら聴いていくと、本作にはアルバムというパッケージには収まらない米津玄師の現在が刻み込まれているように思える。当然、これまでの作品もそうした性格は持っていたはずだが、先に書いたようなモードの混在がそうした印象をより強めている。
かつ、それは大きな変化を迎えた結果というよりも、そうした変化の予兆のようにも感じられる。なんていうとちょっと大仰な言い回しかもしれないが、3つのモードのなかでももっとも個人的なひとつ、エレクトロニックなトラックメイカー的アプローチを深化させる未来にも少し期待したくなる。