五輪初競技「ブレイキン」徹底解説! プロダンサー・DRAGONに聞く日本代表選手の強み

DRAGON、五輪「ブレイキン」徹底解説

 熱戦が続く『第33回夏季オリンピック競技大会』。数々の種目で日本代表選手団の快進撃が伝えられているが、 大会終盤にはまたひとつメダル獲得が有力視される種目が控えている。それが今大会より正式種目となった「ブレイキン」だ。 その期待のほどは、開会式で日本代表チームの旗手をブレイキンの選手が務めたことからも窺える。 「ブレイクダンス」という呼び名でMVやダンスの一部としてこれまで知られてきたこの踊りは、 どのように競技種目として落とし込まれ、「バトル」を繰り広げていくのか。カルチャーのバックグラウンドや各代表選手の見どころ、社会背景についてまでを、日本代表選考大会にジャッジとして携わったプロダンサーのDRAGON(FOUND NATION/KEEP IT REAL/MIGHTY ZULU KINGZ/REAL AKIBA BOYZ)に解説してもらった。(日詰明嘉)

日本代表4選手はなぜ強い? 音楽の傾向は「クラシック」?

――まずはDRAGONさんのブレイキンにおけるキャリアを教えていただけますか?

DRAGON:ダンスに初めて触れたのは1998年で、2000年からブレイキンを始めました。初めての大きな成果は2005年にオーストラリアで開催された『Dancekool』という2on2の大会で、そこでは優勝しました。また、2002年にはFOUND NATIONというチームを結成し、2008年から海外の大会に出て結果を残し、2013年には『Fluido Jam』というヨーロッパの大きな大会で優勝して。2018年の『BATTLE OF THE YEAR』という世界大会では2位を獲得しました。2023年の『BATTLE OF THE YEAR』ではベスト4までいけて、バトルの結果は悔しかったんですけど、ショーケース(即興で踊るバトルではなく、作り込んだ踊りを観客に披露するショー)ではベストショーの評価をいただきました。

――ひとりのプレイヤーとして、ポップカルチャーの歴史を重ねてきたブレイキンがオリンピック競技に採用されたことについて、率直にどんな思いでしょうか?

DRAGON:もともとアンダーグラウンドなところで活動してきたカルチャーだったので、オリンピックという世界中が注目する大会の競技に採用されたことで、これまでとは比べものにならない数の人たちが興味を持ってくれていることが、すごく嬉しいですね。昔は仲間内の冗談話として「もしオリンピック競技になったら……」みたいなことを言っていたのですが、実際にこの話が持ち上がった当初は、シーンの中でも賛否両論がありました。というのも、シーンの人々が積み上げてきた歴史を横取りされたようにとらえる人もいたんです。ただ、関係者の熱意がシーンの重鎮にも伝わり、現在では協力関係を築けています。ブレイキンは体を酷使するスポーツなので、年齢を重ねると若い頃のような技ができなくなってしまうんです。そうした中で頑張ってきた人たちが、今は大勢からリスペクトしてもらえる状況にある。世界大会で優勝するとブレイカー(ブレイキンを踊るダンサーの総称)たちが注目してくれることはありましたが、もしオリンピックでメダルを獲れば、帰国した際に空港に大勢の方が集まってくれるでしょうし。良い時代になったなと、どの国の選手であってもそう感じていると思います。

――ブレイキンバトルで使用される音楽の傾向やトレンドについて伺えればと思います。オリンピックの場合はもちろん当日の競技開始まで使用される音楽は明らかにされませんが、現在の潮流などはいかがでしょうか?

DRAGON:日本も海外も著作権の問題があるので、やはりDJの方が作ったオリジナルの音源がかかることが多いです。世界レベルの大会でDJをできる方は限られてくるので、ブレイカーの間ではアンセムがあったり、誰がDJを務めるかで音の傾向がわかることが多いです。もちろん、オリンピックでは当日まで使用音源は明らかにされません。ただ、オリンピック予選シリーズ(OQS)や最近の世界大会を見ていると、著作利用を申請しているのか、ジェームス・ブラウンなどのクラシックナンバーがかかることがあって、それらがかかると会場が熱く盛り上がるんですよ。単にビートを取るだけでは少し機械的すぎて盛り上がりに欠けたりもしますが、みんなが知っている曲だからこそ、踊りでどういう音の取り方をするのか、どういう音ハメをするのか、観る側にも楽しみが増えます。

――会場の盛り上がりは、プレイヤー側のパフォーマンスに大きく影響しますか?

DRAGON:もちろんです。一度体験するとやめられなくなりますね。自分が練習してきた技をキメて、会場の雰囲気と一体となって湧く。すべての要素が揃うと、吸収不可能なくらい盛り上がるんです。そうすると、自分がまるでハリウッドスターのような気分になりますし(笑)。それが撮影されてネットで拡散していくと、さらに頑張ろうというモチベーションにも繋がりますね。お客さんの歓声が安心感となって、どんどん良いムーブへ繋がるようになる。逆に練習してきた通りにキメても湧かないと、何かが違っていたのではと不安になったりもします。

――ストリートカルチャーとしてのバトルと大きな大会でのバトルの違いやプレーヤーの心持ちの違いはありますか?

DRAGON:カルチャーとしては、あくまで練習は楽しく、やりたくないときはやらないぐらいでいいという感じですが、オリンピックのような大きな大会になると予選突破の基準も厳しいですし、練習も過酷です。応援してくれる人も関わる人も規模が大きくなるので、ベストなコンディションではない状況でも練習をすることになります。それらを乗り越えてきたのが、今回の4人の代表選手です。そこに関してはカルチャーのB-BOY/B-GIRLたちはみんなリスペクトをしているはずです。

――では、そんな日本代表の4人の方々の特徴や特技について教えてください。

DRAGON:まずShigekix選手。彼は昔からスタミナがすごいです。ラウンドを重ねると、体力的にどうしても動きのキレや完成度は落ちてきてしまうので、ミスを避けるために技のグレードを下げていくのが一般的ですが、彼のスタミナがあればそんな必要はありません。常に最高レベルのものを3ラウンド全部出してくるんですよね。あと彼は、フリーズという踊った後の静止するポーズがわかりやすく、会場の空気を掴みやすいのも有利なポイントです。Shigekix選手が負ける姿は想像できない。メダルは確実に獲ってきてくれると思います。これは彼にとってはプレッシャーになっちゃうかもしれないんですけど(笑)。

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――続いては男子のもうひとりの代表である、Hiro10(大能寛飛)選手。

DRAGON:Hiro10くんは、この前のオリンピック予選で出場枠を掴んだ選手です。まだ19歳と若いですが、この1年での成長が本当にエグい。ひとりで海外に行っていろんな大会に出て吸収したり、交流を通じて動きを進化させたりして、常に自分自身を更新し続けています。中でも、彼の得意技であるワンハンドエルボーエアーというパワームーブ(回転系のキメ技)を高クオリティで連続でやってのけるのは、世界でも5人くらいしかいません。しかもバトル中というリスクを伴う局面においてですから。当日、どんな感じになるのか今から楽しみですね。

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――この2人が同じグループステージになるとは非常にもったいないですね。

DRAGON:そうなんですよ! ラウンドロビン(総当たり形式)では4人中2人が決勝トーナメントに上がれるのですが、残りの2人も強敵です。サッカーで喩えるならば、ブラジル、ドイツ、日本が同じ組にいる、みたいな状況です。ここですべてを出すくらいの気持ちで頑張ってほしいですね。ここさえ乗り越えれば、メダル獲得は固いと思います。

 
 
 
 
 
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――B-GIRLのお2人についてもご紹介をお願いします。

DRAGON:AMI(湯浅亜実)選手は手数の多さに加え、トップロック(立ち踊り)の部分やフットワーク(手を着いて踊る足技)など、シルエット一つひとつにB-GIRLとしての立ち振る舞いを常に意識をしているところです。たぶん、本人もこだわってるんじゃないかな。ジェスチャーやアクションも多く、闘争心もすごいので、単に動きを見せたり技を決めるだけでなく、“バトルをしにいく”姿勢を見せてくれるのが魅力です。相手に対してジェスチャーをするのは他のスポーツにはない魅力かもしれません。もちろん、リスペクトがあるからこそのバトルなので、そこで何かドラマが生まれる可能性もありますね。

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――そしてAYUMI(福島あゆみ)選手。

DRAGON:まず、この年齢(41歳)でオリンピックの選手に選ばれていること自体が信じられないことです。そして、キャリアがあるからこその手数の多さ。一体どれだけのバリエーションがあるのか、驚くくらいの数を持っています。勝つためのセオリーとして「技を積み重ねていく」という方法がありますが、そこで持っているネタが少ないとどうしても基礎的な動きが続いてしまう。ですが、AYUMI選手の場合は常にオリジナルな動きを畳みかけてくるので、相手の選手からすると厳しい状況に追い込まれると思いますね。

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――当日どんな音楽がかかるかわからない中で、自分の技をどんどん乗せていける即応力もあるんですね。

DRAGON:はい。その出し方やまとめ方も上手かったりします。この2人が女子の金、銀の候補です。あとは当日の調子や音楽、動きのチョイス次第ですね。

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