田中有紀は10月に 山根綺、青山なぎさ、直田姫奈……ソロデビューを飾る声優アーティストの躍進
2024年も引き続き、コンスタントに声優たちがアーティストデビューを果たしていく。だが、今年活動を本格化させた顔ぶれのうち数多くが配信リリースのみ、もしくはCDリリースの数カ月前から楽曲を先行配信するといった、例年とは少々違ったスタイルを取っている。そこで本稿では、配信リリースをベースに活動をスタートさせた4人の声優アーティストをピックアップし、その魅力をお伝えしていく。
明確なコンセプトとそれを具現化する確かな表現力
まず紹介したいのは、10月2日にソロデビューアルバム『Crier』のリリースを発表した田中有紀。2016年開催の『キミコエ・オーディション supported by ファミリー劇場』に合格し、声優ユニット・NOW ON AIRのメンバーとして活動を開始。2019年には『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(以下、『シャニマス』)芹沢あさひ役に起用されると、ステージ上でのスタイリッシュなパフォーマンスや歌声が多くの人の心をとらえたのに加え、天真爛漫な少女であるあさひの普段の表情といったギャップを見事に表現し、さらなる脚光を浴びた。
そんな彼女は、CDデビューとなるアルバムのタイトルチューン「Crier」をデビュー発表直後の6月27日に先行リリース。疾走感を持ったシンフォニックロックは田中の力強い歌声と非常に相性良好なうえに、ラップパートの歌い回しも非常にスタイリッシュで、CDリリースへの期待を十二分に高める1曲となった。さらに公式YouTubeチャンネルではShort動画形式でその他数曲の試聴動画もUPされており、「Going Going Going」や「KURAGET DOWN」をはじめとするダンスミュージックをベースにした多彩な収録曲を、ごく一部分ずつではあるが楽しむことができる。
2025年1月11日にはヒューリックホール東京にて『YUKI TANAKA 1st Live: Crier』の開催も決定している田中。これまで作品やユニットでのライブでみせてきた力強い歌声と鋭いパフォーマンスを、今度はソロでのステージでどのように活かして進化するのか。デビュー後のライブにも期待大だ。
その田中と『シャニマス』はもちろん、『アルカ・ラスト 終わる世界と歌姫の果実』発の声優ボーカルユニット・Kleissisで活動をともにした山根綺も、今年初めてオリジナル曲をリリースした声優アーティストだ。『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の巻町操のような快活な少女や大人でストイックな『シャニマス』の緋田美琴、さらには底抜けに明るい『ウマ娘 プリティーダービー』のダイタクヘリオスなど様々な役柄を演じ分ける彼女は、実は楽器の経験も豊富。幼い頃のピアノや、高校時代の部活でのギターとベース、さらに声優デビュー後には『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』のルフユ役としてドラム演奏にも取り組んでいた。
そんな彼女が高校生の時、凛として時雨のライブ観覧をきっかけに憧れを持った地・日本武道館でのワンマンライブ開催へ向けて動き出したのは2023年。YouTubeチャンネル「YAYA RECORDS」を立ち上げてJ-POPや自身出演作の主題歌を中心とするカバー動画をアップし、カバーライブも開催。そして満を持して今年4月に1st EP『青春のかなしみ』を配信リリースし、同作を引っ提げたワンマンライブ『青春のはじまり』も成功させた。
その『青春のかなしみ』の収録曲を彩るボーカルは、これまでの様々なキャラクターが浮かぶような表情豊かな歌声とは違った、ややフラットなもの。コンセプトに、“青春”という人によって千差万別の形をもつものを掲げたこともあり、歌声から感じられるものを明快にしすぎず、聴く人それぞれの心にフィットさせる狙いからきたものだろう。それは、自身が作詞作曲を手掛けた「青春の始まりと悲しみ」においても同様。どこかノスタルジックなサウンドに乗せて過去と今の自分を投影したこの曲に、いたずらに激情を乗せすぎるわけでもなく、しかしただ単調でのっぺりとしているわけでもない。そんな非常に繊細な作業を経て形作ったこの曲を受け取ると、次はどんなテーマでどんな音楽表現をみせてくれるのかが、自然と楽しみになってしまう。