YONA YONA WEEKENDERS、変化しながら続くバンドへの想い J-POPを起点に落とし込んだ日々のリアル

 YONA YONA WEEKENDERSの2枚目のフルアルバム『LIVE』。今作に収められた多彩な13曲に通底しているのは、楽しいことや嬉しいことばかりではない人生において、苦味を味わい、苦しみや悲しみと向き合いながらも、毎日をひたむきに生きようとするタフな人生観だ。今回のメンバー全員へのインタビューの中で語られているように、バンド活動を続けていくことは決して簡単なことではないし、また、30代半ばに差し掛かる中で、それぞれのライフステージが大きく変わっていくことも増えたという。それでも、そうした変化を真正面から引き受け、自分たち自身も変化しながら、バンドを続けていく。今作にはそうした4人の力強い意志が滲んでいて、ビターなテイストが強いアルバムではあるが、通して聴くと最後にはポジティブで晴れやかな余韻が残る。まさに、今の彼らだからこそ作ることができた素晴らしいポップス集であると思う。メンバー4人に、アルバムの制作の背景や今作に込めた想いについて聞いた。(松本侃士)

J-POPのプレイリスト作りから始まったアルバム制作

――はじめに、今回のアルバム制作のきっかけや、構想やテーマが定まるまでの経緯から聞かせてください。

磯野くん(以下、磯野):前作を出して、その時にちょうどキイチに子供が生まれたりとか、みんなのプライベートな環境で変化があったりして。あと、これから長いことこのバンドを続けていくにあたって、将来の話をみんなで本気でしたタイミングでもあって。その中で最初にできた曲が、去年の11月に配信した「あんしん」で。僕たちは今30代半ばで、日々を生きてく中でいろんな変化が訪れるタイミングではあるんですけど、そんな中でも、それぞれの“安心”を見つけて生きていこうという曲を、そういうタイミングで書いたんですよね。

YONA YONA WEEKENDERS "あんしん" Music Video

 そしてアルバムを出そうという話になって、その時に出たのが「J-POP」というテーマで。僕たちが青春時代を過ごしてきたのが1990年代後半から2000年代で、そういう時代の、僕たちを支えてくれたような音楽を作りたいよね、という話から始まっていきました。その一方で、やっぱり僕たちって、自分たちの生活だったりとか、ファンの方の生活だったりとか、そういうある種の生々しいものも全て音楽にして昇華するみたいな、そういうバンドだよねっていう話にも行き着いて。ファンの方の生活に寄り添いながらも、ちゃんとリアルなことを歌おうっていう方向性が「あんしん」の時期から定まっていった感じですね。

磯野くん

キイチ:最初に「それぞれの頭にあるJ-POPを共有のプレイリストに入れようぜ」って(小原)壮史が言ってくれて。

小原“Beatsoldier”壮史(以下、小原):みんなで集めていったら、これがJ-POPだ! みたいなものが出てくるんじゃないかなって感じで提案したんだと思います。

キイチ:Spotifyのプレイリストをみんなで共有して、そこに思い思いのJ-POPを入れまくっていって。ドラマの主題歌とかが多かったね。

磯野:ORANGE RANGEの「花」とか。

キイチ:家帰ってドラマ観て、その中で流れてるっていう意味でいうと、J-POPってすごく生活に近いものなんだろうなって感じたりして。

――実際に、完成したプレイリストを聴いてみていかがでしたか?

小原:まず、圧倒的にストリングスが入っている曲が多い。あと、やっぱり生のドラムよりも打ち込みのほうが多かったりして。

磯野:今回デモを作る時は、バンドでやることはもういったん無視しようと思って。ライブでどうやるかは置いといて、とにかく作りたいように作りました。それこそドラムとか完全に打ち込みで作って、シンセも入れまくって、コーラスも重ねまくって。ライブはライブで、ライブならではの表現の仕方ができるし、とにかく自分が思ういい曲を書こうと思って。あとはみんなを信頼して投げて、なんとかしてくれるだろうっていう感じでしたね。

キイチ:これどうやって演奏するの? っていうデモが多かったんですけど、スタジオで揉んだら普段通りのサウンドに戻って。

小原:デモの中にJ-POPらしさがいっぱい詰まっていたので、いつも通りの自分たちのサウンドで鳴らすだけで、自然とYONA YONAらしいJ-POPに近づけていったんじゃないかなって思います。

――スズキさんは、当時のデモを受け取った時のことや、レコーディングで印象に残っていることはありますか?

スズキ:印象に残ってること……本当にあんまり覚えてないんですよね。このアルバムを作ってる間もたくさんライブとかやってたんで、結構詰まり詰まりでやってて。いっぱいいっぱいだったのは覚えてます。

全員:(笑)。

――めちゃくちゃ正直な言葉が出てきましたね。

スズキ:これが僕たちの『LIVE』なんで(笑)。

スズキ

「リアルな心境を歌った曲が多くなっている」

――生粋のライブバンドであるYONA YONAが、『LIVE』というタイトルをつけたことも今作を紐解く上でとても重要なことだと思いました。アルバムのタイトルは、どのタイミングで決まったのでしょうか?

磯野:去年の9月末頃、結構早い段階で決まっていて。今までは、1曲作ったら1曲リリースして、というように作ったものをすぐに出す感じだったんですけど、今回は、『LIVE』というテーマに対して、いっぱいあるデモの中から、じゃあこれっていう感じでセレクトしていって。こういう作品の作り方は、バンドとしては初めての試みだったかな。

――今年に入ってから、「春よ来い」「寿司と酒」がリリースされて、少しずつ今作の輪郭が見え始めてきました。

磯野:僕の中で、強い曲、強度がすごい曲が書けたなっていう手応えがあったんですよね。そこからアルバムとして聴いてもらう時に、もうちょっとエゴというか、好きにやりたいような感じも出せたらいいんじゃないかなと思って。まずクリーンナップが決まって、そこから他のメンバーを選んでいくみたいな感じで他の新曲を作っていきました。

――それぞれの曲調やサウンドはバラエティ豊かではありますが、メッセージやニュアンス、温度感は共通するものがあるように思います。

磯野:実体験の曲もあれば、全く違う視点の曲もあったりするんですけど。最初の話にも通じますが、やっぱり日々を生きていく中で感じるリアルな心境を歌った曲が多くなっていると思います。

YONA YONA WEEKENDERS "寿司と酒" Music Video

――「行けたら、行くわ」の中に〈30000日の中で〉という歌詞があって。30000日って約80年ぐらいなんですよね。今は人生100年時代とも言いますが、この歌詞は、限りある人生のスパンを言い表そうとしているのだと思いました。

磯野:まさに、その通りです。

――あと、このアルバムの中で〈永遠〉という言葉が2回出てくるんですよね。

キイチ:前回のアルバムは〈きらめき〉がよく出てたんですよ。だから僕、今回は「〈きらめき〉は禁止で」ってLINEで言って。

全員:(笑)。

――「寿司と酒」の中に〈永遠か刹那か〉という歌詞があって、「アーバンなLife」の中には〈永遠に美しくあれ〉という歌詞があります。逆説的ではありますが、こういう歌詞を書くのは、きっと〈永遠〉なんてないことをわかっているからなのだと想像しました。「行けたら、行くわ」の〈30000日の中で〉というある種の明確な区切りを想起させる歌詞にも繋がりますが、今作には、磯野さんの、いつか終わりが来ることを見据えているような達観した人生観が滲んでいるように感じます。

磯野:今って、バズるとかよく言うじゃないですか。僕たちは、そういったものとはあまり縁がないと自負してるけど、やっぱ長く続けていきたいなという思いはあるんです。だけど、やっぱ長く続けていくのってすごく大変だなっていうのもわかってるし、特に僕らなんて、それぞれパンクとかのバンドでやってましたけど、バンドを続けていく中では仲違いがあることも知っているし。その上にさらに、それぞれの生活の変化もあって、バンドを続けていくことって改めて本当に大変で。でも、その場その場でなんとなくやっていきたくないし、このバンドを長く続けていきたいと思っているのは4人とも共通してることで。だからこそ、ダメな現状までちゃんと受け入れないといけない、変わっていかないといけない、とすごく思ってて。

――「シナプス」の〈変化を止めるな〉〈変化恐れるな〉や、「メシ食って寝るだけ」の〈百万回の「このままじゃいかん」〉という歌詞は、まさに今のお話と通じるように思いました。最初にJ-POPの話が出ましたが、J-POPというと、「夢は叶う」「いつまでも一緒に」といったメッセージをイメージする人が多いと思うのですが、今回の磯野さんの綴る歌詞は、J-POPというテーマからはスタートしつつも、メッセージはすごくリアルで、現実を真っすぐ見据えてる。そこが、すごくYONA YONAらしいと思いました。

磯野:僕、歌えないんですよね。そういう「夢は叶う」「いつまでも一緒に」みたいなメッセージは(笑)。

小原:「Orange Moon feat. 大塚 愛」「アーバンなLife」あたりの曲で、ちょっと色恋沙汰っぽい歌詞が出てくるんだけど、磯野は、散々「売れたい売れたい」って言ってるくせに、やっぱりストレートなラブソングを絶対書かないんですよ。素直にわかりやすい歌詞を書けば売れるかもしれないのに絶対書かないのが、さすが磯野だなと思いますし、こじらせてるなっていうのは思っちゃいましたね。

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