アヴリル・ラヴィーン、ポップパンクの枠を超えた普遍的な存在感 隠れた名曲から垣間見えるルーツ

『GREATEST HITS』収録外の隠れた名曲を辿る

 とはいえ、「たった20曲」である。これまでにリリースしてきた7枚のアルバムはいずれも名曲揃いであり、当然のように「これも入れてほしかった!」という楽曲は数多く存在する。特に今回のベスト盤はポップパンク路線を前提とした構成となっているため、これまでのキャリアにおける様々な音楽的な取り組みがあまり反映されていないというのは、(よく理解できる一方で)ちょっと勿体ないと感じてしまうのも正直なところだ。というわけで、ここからはベスト盤に収録されていないアヴリルの隠れた名曲について紹介していきたい。

 あまりにも「Sk8er Boi」のインパクトが強かったために、最初期からポップパンクのイメージが色濃いアヴリルだが、実はその音楽的ルーツの大きな割合を占めているのは、シャナイア・トゥエインやThe Chicks(旧称 Dixie Chicks)を筆頭としたカントリーポップやフォークであり、その影響は初期の作品にも確かに表れている。

 その中でも特に象徴的なのは、『Let Go』の隠れた人気曲の一つである「Things I’ll Never Say」だろう。爽やかなアコースティックギターの音色が印象的な同楽曲は、まさに直系のカントリーポップと言ってもいい仕上がりであり、恋愛感情に振り回される自身の姿を明るく歌い上げる姿が微笑ましい。また、自身が転換期を迎える時期に制作された『Goodbye Lullaby』についても、名曲「Wish You Were Here」を中心に、内省的な表現を描くにあたってカントリーを一つの参照元としていることが分かる。どうしても2000年代という時代性で語られることが多いアヴリルだが、そもそもアコースティックギターの弾き語りだけでも十分にオーディエンスを魅了できる普遍的な才能の持ち主なのだ。

 また、フォークからの影響については、数少ないカバー曲の一つがボブ・ディランの名曲「Knockin’ on Heaven’s Door」であることと、そのシンプルで美しい仕上がりからも感じることができる。同カバーは2003年のツアーのセットリストに組み込まれて以来(『Avril Lavigne: My World』に収録。後にB面曲として音源化)、長らくファンの間で親しまれており、日本でも『Goodbye Lullaby』のリリース時に待望の音源化を実現している(ボーナストラックとして収録)。こうした視点で捉えると、近年のオリヴィア・ロドリゴやテイラー・スウィフトへの影響についても、また違った見方をすることができるのではないだろうか。

 また、『Head Above Water』はベスト盤において確かな存在感を発揮している一方で、やはり1曲だけの収録というのはあまりにも勿体ない。自身が大きな影響を受けたという、ビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドといった歴史的なジャズボーカリストにリスペクトを捧げたソウルバラードの「Tell Me It’s Over」では想像を遥かに超えるパワフルなボーカルに驚かされるし、パンデミックの際に新たなバージョン(「We Are Warriors」)を制作して当時の医師や医療スタッフへの支援を呼びかけた「Warrior」では、様々な苦難や経験を重ねた果てに辿り着いた〈I fight for my life〉というあまりにも説得力に満ちた歌声に感情を強く揺さぶられる。現在の華麗なる復活劇における重要な役割を果たした作品でもあるため、もしベスト盤をきっかけにアヴリルに興味を持ったのであれば、ぜひ聴いていただきたい一枚だ。

Avril Lavigne - Tell Me It's Over (Official Video)
Avril Lavigne - We Are Warriors (Official Video)

 他にも、音数を削ぎ落とした緊張感のあるアレンジに魅了される「Give You What You Like」(『Avril Lavigne』)や、堂々たるロックアンセムの「Hot」(『The Best Damn Thing』)、痛快にも程があるエモパンク「F.U.」(『Love Sux』)など、ベスト盤未収録の名曲を挙げていくとキリがないのだが、要はそれだけ過去の作品が名盤揃いで、アヴリル自身がポップパンクの枠を超えて様々な才能を発揮してきたということである。今回のベスト盤をきっかけに、アヴリル・ラヴィーンという唯一無二の存在と、その内側にある様々な物語や音楽に、ぜひ触れてほしい。

アヴリル・ラヴィーン『GREATEST HITS』

◾️商品情報
アヴリル・ラヴィーン『GREATEST HITS』
●国内盤:発売中(全形態:解説・歌詞・対訳付き)
・完全生産限定盤(CD):4400円(税込)
特製缶バッジ7個付属、高品質ブルースペックCD2(Blu-spec CD2)
・通常盤(CD):2970円(税込)
高品質ブルースペックCD2(Blu-spec CD2)
 ・輸入盤国内仕様アナログ盤(レコード2枚組):6600円(税込)
カラーヴァイナル仕様(ネオン・グリーン)

CD&LP購入/ストリーミング再生リンク
https://avrillavigne.lnk.to/GreatestHitsALJP

<収録楽曲>
1. Sk8er Boi | スケーター・ボーイ
2. Girlfriend | ガールフレンド
3. What the Hell | ワット・ザ・ヘル
4. Complicated | コンプリケイテッド
5. Don't Tell Me | ドント・テル・ミー
6. I'm A Mess (with Yungblud) | アイム・ア・メス(with ヤングブラッド)
7. He Wasn't | ヒー・ワズント
8. Losing Grip | ルージング・グリップ
9. My Happy Ending | マイ・ハッピー・エンディング
10. Bite Me | バイト・ミー
11. Nobody's Home | ノーバディーズ・ホーム
12. I'm With You | アイム・ウィズ・ユー
13. When You're Gone | ホウェン・ユー・アー・ゴーン
14. Bois Lie (feat. Machine Gun Kelly) | ボーイズ・ライ(feat.マシン・ガン・ケリー)
15. Smile | スマイル
16. Love It When You Hate Me (feat. blackbear) | ラヴ・イット・ホウェン・ユー・ヘイト・ミー(feat. ブラックベアー)
17. Rock n Roll | ロックンロール
18. Here's To Never Growing Up | ネヴァー・グローイング・アップ
19. Keep Holding On | キープ・ホールディング・オン
20. Head Above Water | ヘッド・アバーヴ・ウォーター
21. Alice (Extended Version) | アリス(エクステンデッド・ヴァージョン)※CDのみ日本盤ボーナストラック
22. Hello Kitty | ハロー・キティ ※CDのみ日本盤ボーナストラック

アヴリル・ラヴィーン ソニーミュージック公式サイト

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