w.o.d.×キタニタツヤ、真逆のスタイルと共通のロック観 対バン前に語り合う、メジャーで示す在り方
10月にメジャー1stアルバム『あい』のリリースを控えるw.o.d.が、東名阪で『w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI”』をまもなく開催する。名古屋にgo!go!vanillas、東京にキタニタツヤ、大阪にハルカミライを招いたバンド史上最大規模の対バンツアー。リアルサウンドでは、7月12日にZepp DiverCity (TOKYO)で対バンするw.o.d.とキタニの4名による特別対談を行った。
ライブハウスを主戦場にしてグランジ由来の歪んだ爆音を鳴らし、結成から15年にわたる活動歴を持つw.o.d.。ボカロPやバンド経験を持ちつつ、ソロアーティストとしてブレイクし、昨年『第74回NHK紅白歌合戦』にも出場したキタニタツヤ。一見すると対極な両者だが、根底で昇華しているロック観、焦燥や孤独を綴った歌詞表現など、世代ゆえの共通項も多い。そして、立て続けにTVアニメ『BLEACH 千年血戦篇』(テレ東系)のオープニングテーマを担当したことを経て、キタニとw.o.d.が対バンで相見えることは、同じルーツを持ちながらもライブハウスとネット上に枝分かれしていったロックの流れが、再び1つに交わる象徴的な出来事とも言えそうだ。互いの活動・ライブ遍歴や、「STARS」と「スカー」を通した作家性の違い・共通点などを通して、変化の激しい2020年代におけるw.o.d.とキタニの音楽との向き合い方を紐解いた。(信太卓実)
「もっといろんな場所でやっていい」 w.o.d.のモードが表れた対バンツアー
――『w.o.d. presents “スペース・インベーダーズ VI”』の開催が迫りますが、go!go!vanillas(名古屋)、ハルカミライ(大阪)を対バン相手に呼んだ理由から教えてもらえますか。
サイトウタクヤ(以下、サイトウ):あまり対バンをやったことがないけど、俺らにとっても刺激になるかっこいい人たちとやれたらなって。バニラズはホンマにロックンロールバンドって感じで、ルーツミュージックがしっかり残っているロックやと思うし。ラジオで喋ったりして、音楽の話でめっちゃ盛り上がって先に仲良くなっていたのもあって。
中島元良(以下、元良):意気投合してたもんね。
サイトウ:牧(達弥)さんは超いい先輩です。
Ken Mackay(以下、Ken):うん、兄貴って感じ。
――ハルカミライについては?
サイトウ:同世代やけどがっつり対バンとかはしたことがなくて、フェスのバックヤードとかで喋ったりしながら「いつか対バンしたいね」と言い合ったりしてました。熱量がすごくて、マジでかっこいいライブバンド。俺らは俺らでタイプの違うエネルギーをめっちゃ持ってると思うけど。
元良:(ハルカミライは)まっすぐな光を放つよね。
サイトウ:あと(関)大地が俺の前のパーマの髪型を気に入ってくれていたらしくて、あいつがパーマにしてたのはその影響です(笑)。
――(笑)。Kenさんと元良さんにとってはどんなツアーになりそうでしょう?
Ken:やってみないとどうなるかわからないけど、かっこいいことをやっている者同士だと思うので、ちゃんとライブを観て、打ち上げして、互いに関係を深められたらって思います。
元良:対バン相手が強いとやる気が出るんですよね。今まで弱いヤツなんていなかったけど。最近は、備えるのに頑張りすぎて空回ることが減ってきたような気がしてて。いつでも自分たちのままライブできるようになってきたから、ちゃんと「戦えるぞ」と思ってます。
――そうなってきたのはどうしてでしょう?
元良:年取ったからかな(笑)。けど、いい意味で自分じゃないものになりたいと思うことがなくなってきた。「俺は俺だしな」って。レッチリ(Red Hot Chili Peppers)とか観に行くと、自分たち以外の何者かになろうともしていないなって感じるので。それがいい。
――そして、東京の対バン相手がキタニタツヤさん。w.o.d.から見たキタニさんはどんなアーティストですか。
サイトウ:ソロアーティストやけどめっちゃロックやし、実は共通点が多いんちゃうかなって、お互いに『BLEACH』のオープニングテーマをやった時に思ったんですよね。アニメからの影響の受け方、歌詞やフレーズの書き方とか、“こういう感じで通ってきたよな”というのがなんとなくわかる。
キタニタツヤ(以下、キタニ):俺たちが子供の頃に好きだったものとかね。同い年だよね?
サイトウ:俺らは1994年生まれ。
キタニ:俺、1個下だった(笑)。
サイトウ:全然いいよ!
元良:俺はもうちょっと上……。
キタニ:気にせんときます(笑)。
サイトウ:俺らは今まで(シーンの)近いバンドを呼んで対バンしてきたけど、もう一歩先の挑戦として(キタニと)やってみたい気持ちが出てきて。
――それは自信の表れでもある?
サイトウ:どうなんやろ。でも去年『BLEACH』でオープニングテーマをやったことで、アニメのイベントにも出たりして、ライブハウス以外の場所でもライブをする機会があったから、それは影響してるなと思いますね。もっといろんな場所でやっていけばいいんやってシンプルに思えるようになった。今まで変に壁を作りすぎていたのかもなっていう気がしました。
BUMP OF CHICKENが双方のロック観に与えた影響
――ではキタニさんから見て、w.o.d.はどんなバンドですか。
キタニ:1stとか2ndアルバム(『webbing off duckling』、『1994』)の頃からいいなと思っていて。近い世代でガレージやグランジをやっていて、ちゃんとかっこいいバンドって正直いなかったから。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやNirvanaになれるわけじゃないし、そういうことをやってるバンドを舐めてた節もあったんですけど、w.o.d.はビジュアル面とかトータルプロデュースも含めてめちゃくちゃかっこいいバンドだなって。ロックって作品そのものの良さももちろん大切だけど、それ以上にやっぱりバックボーンが透けて見えてこそのジャンルだと思うので、人間としてダサかったら説得力がないものだと思うんですよね。ビジュアルのバランスとか、そういうところから音楽もよくなっていくイメージがあって。w.o.d.は視覚的、聴覚的、物語的な部分、全部がかっこいいバンドだから「やるじゃん!」って思いました。
サイトウ:あざす!
キタニ:あと、かっこいいものに対するハードルがめっちゃ高そうだなって。だから対バンに呼ばれた時、ちょっと怖いなと思った(笑)。「マジで認めたヤツしか相手にせんから」みたいな雰囲気あるじゃん?
元良:今のヒントだね。俺ら、とっつきにくい存在だと思われてるらしくて。
キタニ:めっちゃ思われてるよ。わかってないの!?(笑)
元良:言語化してもらうと、そうかと思った(笑)。
キタニ:でも、ロックバンドはそう見られてなんぼみたいなところがあるから。変に馴れ合っててもかっこ悪いし。
――キタニさんはw.o.d.の「STARS」を聴いた時に共通項は感じましたか?
キタニ:まず「STARS」を最初に聴いた時はめっちゃガッツポーズしました(笑)。『BLEACH』の曲を作るにあたって、「ひたすら前に向かって全力疾走しないといけない」みたいな、そういう焦燥感が滲み出ちゃうのって我々世代だけな気がするなと思っていて。サビで戦闘シーンになって、後ろから引っ張られるエネルギーを振り切りながら、未来を見据えて前に進まなきゃいけない、闇は切り裂かなきゃいけない……みたいな強迫観念って俺ら世代特有のアニソン感というか、もはやロック感なのかなって。
サイトウ:ホンマにそう思う。
キタニ:ロックはそういうものだと思ってる節があるよね。おそらくBUMP OF CHICKENとかが植えつけたものな気がするんですけど。俺の「スカー」もw.o.d.の「STARS」も、過去を受けて未来にどうするかをずっと歌ってるんですよ。生活の何気ないことを取り扱う暇がなくて、それがあったとしても未来への焦りの前段階にしかならない。それをロックに乗せて歌うっていう価値観が根底にある。
サイトウ:俺らが学生の頃に聴いてた“ロックスター的なロック”じゃないバンド、例えばBUMP OF CHICKENとかアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)みたいなオルタナティブでナードな存在って、どこか不安で焦っているイメージがあって。
キタニ:根暗がやるロックみたいな。
サイトウ:そうそう。アジカンはその解放のために叫んでるし、BUMP OF CHICKENはめっちゃ冷静に見つめている感じ。自分でも気づかないぐらい、その影響が染みついてる気がしますね。
――バンプの影響をロックバンドとしてアップデートしてるのがw.o.d.だとしたら、バンプがボーカロイドなどのネットミュージックシーンに与えた影響を最先端で昇華してるのがキタニさんというイメージがあります。そういうバンプの在り方ってどう捉えてますか。
キタニ:オタクの味方でしたから、ネットシーンのミュージシャンはみんなBUMP OF CHICKENが好きですよね。バンプもだんだん温かい歌詞が増えたけど、初期はすごく冷笑主義的でちょっと嫌なヤツが書く歌詞みたいな側面もあって。ポップスしか知らない子供に「こういう歌があってもいいんだよ」と教えてくれたのはやっぱりバンプなのかなと思います。米津玄師もバンプからの影響を公言しているし、みんながバンプ的なものを心の奥に抱えている。ボーカロイドは初期のバンプを先鋭化して、そこから枝分かれしていったと言ってもいいくらい、冷笑的で、一歩引いて物事を見るような癖がついてるカルチャーなので。根っこの土壌には藤原基央さんが横たわっている気がしますね。