lynch. 進むべき道の先で掴んだ激しさと『FIERCE-EP』 20周年に向けて示す“最高のlynch.”の序章

“王道のlynch.”から“ありそうでなかったlynch.”まで、今を映し出す渾身の5曲

――まずクレジットを見て真っ先に目を引くのが「斑」ですよね。lynch.の日本語タイトル曲は「らせん」や「矛盾と空」(ともに2005年)ぶりで、なおかつ作詞も作曲も連名で。ファンの皆さんもいちばん気になっている楽曲なのではないかと思います。これは明徳さんが原曲を作ったということですよね。

明徳:そうですね。さっきもライブを想定した曲作りという話をしたかと思うんですけど、その通りにライブで楽しく盛り上がる感じをイメージしつつ、あまり複雑なことはできないのでリフで押していくような形で作っていって、最後は葉月さんパワーで完成しました。

葉月:ノリやすい曲になるんだろうなと思ったんですけど、最初はもう少し小難しい感じだったのでシンプルにして、リフを作り直して、チューニングも変えてこの形に収まりました。

――今作でいちばんキャッチーな楽曲は「斑」だと思います。

悠介:そうですね。ライブ映えするし、AK(明徳)の人柄が出ているなと思います。言い方は悪いですけど、バカっぽいというか(笑)。lynch.なりのパーティーチューンにしようと思って、ギターのフレーズもあえてチープにしたりして、楽しくアレンジできました。

――lynch.において作詞の共作は初めてだと思います。歌詞を拝見すると、いつも通りの葉月さんの書いた歌詞と遜色ない気もするんですが、共作に至った経緯を教えていただけますか?

葉月:これはBメロの箇所を悠介くんが歌ってるんです。

――歌ってる!?

葉月:そう(笑)。BUCK-TICKの今井(寿)さんみたいなことをやってほしいから考えてほしいと投げたら、歌詞がついて返ってきたので、そのまま採用して共作という形になったんです。

悠介:話をもらった段階ではまだ歌詞の本筋が何もない状態で、曲のテーマもわからなかったので、まず自分でテーマを作らなきゃと思って、キャラクターを作り上げたんです。悪いヤツなんだけど憎めない、みたいな。そいつが自己紹介をしているイメージで言葉をつけていきました。

――さすがにその流れは想像していなかったです。タイトルが日本語になった流れは?

葉月:さっきおっしゃっていたように、日本語タイトルだったらファンのみんなは「えっ!?」となると思ったので、そうさせよう、と。「斑」っていうワードは歌詞に出てくる〈ミダラ/フシダラ/マダラ〉で韻を踏んでるので、その流れなので――何が「斑」なのかと聞かれると僕にもわからないんですけど(笑)。

一同:(笑)。

――「A FIERCE BLAZE」は、玲央さんと葉月さんの共作ですね。個人的には、ここまでメタルコア然とした爆発力を持っている楽曲は『I BELIEVE IN ME』(2011年)の頃を彷彿とさせるなと思ったのですが。

玲央:この曲はもともと僕が10年以上前に作った曲で、それを今作のためにアレンジし直して提出したんですけど、原曲の段階だとシャウトメインで展開の少ないハードコアナンバーだったんです。それを今回は葉月が「少し手直しをしたい」ということで、サビと幻想的で重々しいイントロが追加されて。そのほうが今のlynch.には合っているし、かっこいいので、今の形になりました。

葉月:最初のハーフのイントロは、もともと間奏だったんです。原曲の展開としては速いところからハーフのBメロを挟んで、静かな間奏という流れだった。それは、lynch.の既存の楽曲でいうと「DOZE」や「ALIEN TUNE」なんかでも使っている手法だから、どこか別のセクションに置けないかと思って模索していくなかでアタマに置いたらしっくりきて。そうすると、さすがにサビがないと展開が一辺倒すぎるからサビを追加して……という流れですね。結果的に、曲の尺は当初より少し長くなったけど、バランスもそのぶんよくなったと思います。

――ここまでメタリックなlynch.を聴くのは久しぶりなので、個人的にはとてもワクワクすると同時に、ライブで聴くのが楽しみな楽曲のひとつでもあります。

晁直:ハーフのBメロの部分が一小節ごとに全部違うので、覚えるのが大変でした(笑)。

悠介:ライブでやるのはしんどそう(笑)。一瞬でも気を抜いたら見失うだろうし、ツアーの序盤なんかは余裕ないんだろうなと思いながら、弾いていて楽しいし、気持ちいい曲になっていると思います。

――リード曲である「EXCENTRIC」は、楽曲面における“ありそうでなかったlynch.”の筆頭であると個人的に思った楽曲でもあります。

葉月:まさに、その部分を狙って作りました。自分のルーツでもあり、最近のブームとしてニューメタルがあるんですけど、ニューメタルっぽい曲を作りたいというのを去年の秋ツアーをやりながら思っていて。これまでのlynch.にもニューメタルっぽいリフものはたくさん作ってきたけど、こういうノリはなかったな、と。

EXCENTRIC / lynch.

――グルーヴィーな横ノリを鳴らすlynch.には驚きました。

葉月:こういうラップメタル的なノリをやってみたいなというところから作っていきましたね。

――歌詞に使うワードなんかも含めてlynch.として新しさがありますよね。

葉月:なんせ〈YO WHAT’S UP!?〉から始まりますからね(笑)。

玲央:この曲がいちばんに上がってきたあたり、新しいものにチャレンジしたい/今までになかったものをちゃんと自分たちで昇華したいという表れなのかなと思っていました。曲も面白いなと思ったし、僕たちはヒーローというよりはヒールだと思うので、今まわりでこういうことやってる人たちがあまりいないということが如実に表れている楽曲だと思いますね。

――サビで曲調がガラッと変わるのも聴きどころのひとつですね。

晁直:同テンポ内で曲調が一気に変わるのは面白いなと思ったし、別物なのにそれがニコイチみたいに別物に聴こえないというか、自然に聴こえるのは流石ですよね。

――個人的には、サビのシンガロングの裏で悠介さんのギターがすごいことになっているのが気になってるのですが、あれは何をしているのでしょう?

悠介:フランジャーをかけているんです。ああいうサビなので疾走感を出したくて、フレーズだけで表現するよりは、エフェクティブなもので表現できたらいいなと思って。実はフランジャーはあまり使い勝手がいいものでもなくて、使ってる人をそこまで見たことがないんですけど、今使ったら面白いかなと思って使ってみました。

――ちなみにタイトルの「EXCENTRIC」(=奇抜な、異様な)はlynch.のことを指しているのでしょうか?

葉月:はい。タイトルは最後まで「VILLAN IN ME」と迷っていたんですけど、言いたいことは同じで。いい歳をした大人が真っ黒な恰好でメイク塗りたくってギャーギャー騒いでるのって、音楽シーンにおいて特殊な存在だよなって。自分たちの存在を表現する言葉としてこの言葉を選びました。

――葉月さん作曲のもうひとつの曲「UN DEUX TROIS」は、「EXCENTRIC」が“新しさ”とするならば、馴染みのある“lynch.の王道”に分類される楽曲になりますよね。

葉月:この曲は、ほかの四曲が出揃ってから作った曲で、いわば“とどめ”のような曲ですね。おっしゃっていたように“lynch.の王道”ではあるんですけど、「ADORE」や「A GLEAM IN EYE」のような正義っぽいものではなく、どちらかというと「CREATURE」や「pulse_」のようなダークなほうの王道をイメージして作りました。

――ありとあらゆる“lynch.らしさ”が詰まっている楽曲だなという印象です。

玲央:原曲を聴いた時から感じていたのは、これまでlynch.を好きだった人はみんな好きな曲になるだろうなということでした。それが“王道”という言葉でまとめられるかはわからないですけど、疾走感と重さが両立していて、艶や煌びやかさも持っている。さらに、ちゃんとメロディもあって、シャウトでの攻撃性もあるので、「lynch.の特徴は?」と聞かれたものを集約したような楽曲だと思いますね。

悠介:激しさだけじゃなくて艶の部分も僕らの武器だと思うので、そういう部分は終盤に入れ込んだりもしていますし、魅せ方は意識したところですね。

明徳:このイントロのリフとリズムって10年以上前からすでにたくさんあったパターンだと思うんですけど、ここ何年かはやってなくて。でも、それを今のlynch.でやるのが一周回って新しいな、と。Aメロは最近のモダンなメタルっぽいリフだったりもするし、いろんな時代のヘヴィなものが混ざっていて面白い楽曲に仕上がったと思います。

――この作品のラストを飾る「REMAINS」は、まさに悠介さんらしい繊細で美しくて、儚い楽曲ですが、「激しいEPを作る」という共通認識のなかで、なぜこの楽曲を作ったのでしょう?

悠介:原曲は『REBORN』の時にも提出したんですけど、今回は『EXODUS-EP』のような激しいEPを作るということで、僕が激しい曲を作れるタイプではあまりないのもあって、当時にならえば「BE STRONG」のような位置づけの曲をつくったほうがいいのかなと思って。あらためてこの曲を提出したら、案の定採用されました。この曲があるからこそ、ほかの激しい曲が際立つと思いますし、僕に求められているのはそういう役割なので。結果的に、バランスもすごくよくなったと思います。

玲央:悠介らしいっていうのはもちろんなんですけど、2004年にこのバンドをスタートさせて、2024年までバンドを続けたからこそできるような味であったり、今の僕たちだからこその強みや深みをより濃く出せる楽曲だなという印象がありますね。

――間奏部分でドラムソロからベース、ギターと音を重ねていくところが印象深いです。

明徳:歌もそうなんですけど、各パートのよさを出したいという思いで作っていることがわかるし、この前も悠介さんがメンバーを際立たせたいと話していたので、lynch.のことを愛してるんだなと感じました。

――葉月さんはこの楽曲にどのように歌詞をつけていったのでしょう?

葉月:悠介君の楽曲はいつもそうなんですけど、景色が見えるんです。それを文字にするだけ。個人的には英詞の部分が気に入っていて、その部分の歌い方もLinkin Parkのチェスター(・ベニントン)をイメージしてちょっと声を歪ませてみたり、こだわって歌録りをしました。

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