高橋幸宏の生涯を凝縮した空間に ドラム機材に衣服、家具や釣具まで網羅された展覧会を訪問
昨年1月11日、70歳で長逝した高橋幸宏の展覧会『YUKIHIRO TAKAHASHI COLLECTION Everyday Life』が、72回目の誕生日である6月6日から9日まで、東京・代官山ヒルサイドテラスを舞台に開催中。
Yellow Magic Orchestraのメンバーとして知られる高橋幸宏は、Sadistic Mika Band、THE BEATNIKS、SKETCH SHOW、pupa、Human Audio Sponge、METAFIVEなど、実に様々なバンドで活動してきた。活動は多岐にわたり、山本耀司のファッションショーのBGM、『四月の魚』など映画のサウンドトラック、1990年には『みんなのうた』(NHK総合)に「子供だけの夏」という曲を寄せている他、高橋がキュレーターを務めて2008年から2017年まで計10回開催された音楽フェスティバル『WORLD HAPPINESS』の主催も手がけた(2019年に青森県八戸のスケート場の竣工記念イベントとして『WORLD HAPPINESS 2019 WITH HACHINOHE』も開催)。
また趣味人としても知られ、ファッションデザイナーとして「Bricks」「YUKIHIRO TAKAHASHI COLLECTION」など自身のブランドをいくつも運営した他、釣り同好会「東京鶴亀フィッシングクラブ」の会長も務めた。また、ラジオパーソナリティー、映画やCMに出演する俳優など、いくつもの顔を持っていた。
『YUKIHIRO TAKAHASHI COLLECTION Everyday Life』は、そんな高橋幸宏の音楽と、多趣味にまつわる様々なものを展示。会場の各区画は特に名付けられていないが、ざっくり「歴史」「ドラム」「プライベート」「ライブ」「映像」といった5区画に分かれている。
高橋の「歴史」を辿る区画は、戦国武将も真っ青の歴史年表が壁一面を埋め尽くす。生まれた時のことから、学生時代のバンドの話など、その細かさには驚くばかり。学生バンドとして受けた雑誌の記事、出演した番組やCM、映画の台本、YMOのアルバム『PUBLIC PRESSURE』のオープニングナレーションの元原稿、ファンクラブ会員に配布されたソノシート、英国のEMIレコードから送られた盾など。どんな熱心なファンでも観たことがないだろう、貴重な品の数々。どれもきれいな保存状態で、几帳面な人柄だったことがうかがえる。
「ドラム」のコーナーには、高橋が使用したドラム機材の一覧と写真が飾られた他、高橋がコンサートで音をモニターするのに使用したCUE BOXと呼ばれる機材を使って、ライブ音源を高橋の視点で聴くことができる趣向も。高橋のドラムはタイトなことで有名だが、決して機械的というわけではない。クリック音に対して高橋のドラムがどのように奏でられていたのか、高橋はライブでどんな音を聴いていたのか、実際に耳で確認することができる貴重な体験展示だ。聴くことができる音源は「RYDEEN」(1979年YMO『L.A.グリークシアター公演』より)、「Ark Diamant」(1983年ソロツアー『YUKIHIRO TAKAHASHI JAPAN TOUR 1983』より)など全5曲。
「プライベート」が展示されたコーナーは、軽井沢の自宅リビングをまるごと再現。実際に使っていたものを運んだそうで、軽井沢の自宅は今スッカラカンだそう。どこかレトロ感が漂うオシャレな家具の数々で、まるでショールームのようだ。奥には高橋が愛用していた釣り具がズラリ。イシダイ釣りは40年以上、フライフィッシングは20年以上のキャリアだった。高橋がゲットした体長52センチのイシダイの魚拓も飾られている。その反対面には高橋がデザイン・愛用したネクタイや蝶ネクタイ、サングラスなどアクセサリー類がずらり。リビングの壁にもハットが飾られている。数々のファッションデザイナーと並んで紹介されたPARCOの広告も飾られ、そこにはデザイナー高橋幸宏としての「素敵な服は、まるで新鮮な音楽のよう」という言葉が。音楽とファッションを同軸で展示することで、高橋幸宏という人間に迫ることができるという趣向だ。
「ライブ」のスペースには、高橋が最後に使っていたドラムセットの実物が鎮座し撮影が可能だ。シンバル・スタンドやキック・ペダルなどこだわりが詰まったもので、至近距離で観ることができるチャンスはこれが最後かもしれない。またこの空間では、12台のスピーカーとソニーの立体音響技術「360Reality Audio」で、高橋の楽曲を楽しむことができる。流れる楽曲は「SCHOOL OF THOUGHT」「Something In The Air」など。ライブ会場で聴くような臨場感あふれるサウンド、目の前に飾られた高橋のドラムセット、そしてその周囲には、1993年にYoji YamamotoがデザインしたYMO「再生」のスーツ、高橋自身がデザインした1982年のソロツアー『WHAT, ME WORRY?』のスーツなど、実際に着用した衣装も展示。高橋のライブが、凝縮された空間になっている。
そして最後のパートは会場を変えて終始映像が流れる空間。レアなライブ映像に加えて高橋が手がけた歌詞の世界を表示するスクリーンや元JAPANのスティーブ・ジャンセンが高橋幸宏のツアーメンバーとして起用された際に自らビデオを収録していたというオフショットの映像など貴重な映像に触れることができる。どこか、慌てなくていいから、ゆっくり休んでから、お帰りくださいねとでも言っているような、高橋の人柄も感じさせるようだ。
「人の一生は一冊の本のようであり、“高橋幸宏”という物語を読み終えても、本はずっとそこにある」
これは、観覧者を出迎える“細野晴臣”の言葉。来場者には開催を記念して制作された、トートバッグとパンフレットが配布される。“高橋幸宏”という、どれだけ読んでも読み切れない膨大な物語の続きを読みに、何度でも足を運びたい展示会だ。
※会期中7日~9日の3日間、多彩なゲストを迎え、高橋幸宏という人物を様々な視点から語るトークショーも開催。7日の出演は、鈴木慶一、TOWA TEI。8日は、立花ハジメ、小山田圭吾、砂原良徳。9日は、小原礼、東郷昌和、そして幸宏の実兄・高橋信之が登場。(全てソールドアウト)
■イベント情報
展覧会『YUKIHIRO TAKAHASHI COLLECTION Everyday Life』
会期:2024年6月6日(木)〜 6月9日(日) 全4日間
入場時間:10:00〜17:00
会場:代官山ヒルサイドフォーラム/代官山ヒルサイドプラザ
東京都渋谷区猿楽町18−8
https://hillsideterrace.com/
一般鑑賞 ¥6,600 (税込/お土産つき)
※1時間ごとに入れ替え制となります。
※代官山ヒルサイドフォーラム/代官山ヒルサイドプラザの二カ所共通チケットとなります。
※未就学児入場無料