松下奈緒、『souNds!』が内包する幅広い音楽性 演奏家として深く追求した“音楽の楽しさ”

松下奈緒『souNds!』に至るまで

 俳優で音楽家の松下奈緒が、通算9枚目となるオリジナルフルアルバム『souNds!』を5月8日にリリースした。コロナ禍で「音楽をおもいっきり楽しまなくちゃ!」をコンセプトに制作された、前作『FUN』からおよそ2年ぶりとなる本作。水野良樹(いきものがかり)や山村隆太(flumpool)、野崎良太(Jazztronic)といった多彩なゲストを迎え、前作同様、クラシックのみならずポップスやジャズ、AORなど様々な音楽的要素を内包した、インストゥルメンタル曲を中心とした華やかな作品に仕上がっている。

 俳優としては、2004年にドラマデビューした松下。その2年後にはピアニストとして、自身がヒロイン役を演じたドラマ『恋におちたら〜僕の成功の秘密〜』(2005年/フジテレビ系)主題歌「恋におちたら」のカバー(オリジナルはCrystal Kay)を、オムニバスアルバム『イマージュ5cinq』に提供。そして同年12月には、東京国際フォーラム ホールCで初ライブ『松下奈緒×NAOTO×松谷卓 Live』を行っている。

 「母親がずっとピアノを弾いていたので、物心ついたときからピアノは家にあった」と、以前のインタビューで話していた松下。小学校6年生の時に、木村拓哉が演じる音大生のピアニスト・瀬名秀俊が主人公のドラマ『ロングバケーション』(フジテレビ系)にハマり、山口智子が扮するヒロイン・葉山南を見て「私もこういう人になりたい」と思ったことが、俳優を目指すきっかけになった(※1)。

 デビュー作では、ピアノを「代役」なしで弾けることが強みとなった。「舞台が音大だったので自分と境遇も似ていたし、共通項が多かったから無理なく女優の世界への一歩目を踏み出すことができた」と振り返る(※2)。2006年公開の映画『アジアンタムブルー』でヒロイン・続木葉子を演じた時も、劇中曲を3曲ピアノで演奏。同年10月には作曲家・ピアニストとしてのデビューアルバム『dolce』をリリースし、インストゥルメンタルとしては異例となるオリコンチャート初登場37位を記録した。

 インストゥルメンタル音楽について松下は、「歌声も歌詞もない分だけ聴き方の自由度も高いし、好き嫌いも分かれやすい」ジャンルであると見解を述べている。その上で、「歌詞のあるボーカル曲に対して『あの曲、良いよね』というのはよく聞く言葉だけど、インストに対してそう言ってもらえることって希少だと思うので、そういう声を耳にすることで『アルバムを出して良かったな』という気持ちに昇華していった」と語った(※3)。俳優として活躍し、のちに歌手デビューするケースは多いが、演奏家としてインストゥルメンタル曲を中心に発信し続ける彼女のモチベーションは、きっとここにあるのだろう。

 その後、映画『ピアノの森』(2007年)の主題歌「Moonshine~月あかり~」での歌手デビューを機に、ピアノだけでなく歌声も披露していくようになる。だが、彼女の作品の多くがインストゥルメンタル曲だ。例えば、主演・主題歌・ピアノ演奏・劇音楽作曲を務めた映画『チェスト!』(2008年)を経て、俳優として大きく飛躍するきっかけとなったNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(2010年)に主演した際も、同作からインスピレーションを受けた「『ゲゲゲの女房』組曲」を作曲。また、主題歌であるいきものがかり「ありがとう」の、ピアノによるインストカバーも行っている。

 伸びやかで真っ直ぐな自身のボーカルを全面的にフィーチャーしたのは、2013年にリリースされた通算5枚目のアルバム『WOMAN』から。続く『Music Box』(2015年)も歌もの中心のアルバムとなったが、通算7枚目となる『Synchro』(2019年)では、再び演奏面を強化。『Synchro』には、自身が主演を務めたドラマ『鴨、京都へ行く。―老舗旅館の女将日記―』(2013年/フジテレビ系))でサントラを連名で制作した野崎良太(Jazztronik)とのピアノ2台での連弾曲「2 pianos」や、fox capture planがアレンジ・演奏で参加した「Melodious Sky」、映画『ラ・ラ・ランド』(2016年)を彷彿とさせるようなビッグバンド曲「Lovin' You」などを収録し、演奏家として新たな表現を切り拓いていった。

Melodious Sky 松下奈緒×fox capture plan

「FM802が関西の実家で流れていたので、デイヴィッド・フォスター、Steely Dan、ジョージ・ベンソン、Earth, Wind & Fire、The Doobie Brothersなど、その辺りの時代の洋楽をたくさん聴いていて。もちろん勉強のためにモーツァルトやショパンも聴いていたんですけど、J-POP含め、クラシック以外の音楽も好きでした」(※4)

 そんな様々な音楽に触れて育ってきた松下がリリースした最新アルバムが『souNds!』である。

 野崎がアレンジャーで加わり、まるで一遍の映画を観ているかのようなドラマティックなインスト曲「TIMELESS」から始まり、続く「きらりら feat. 山村隆太(flumpool)」は水野良樹による提供曲。弾むようなリズムの上で、ストリングスとホーンが高らかに鳴り響くシンフォニーポップだ。さらにゲストボーカルとして、映画『風の奏の君へ』でも共演した山村隆太(flumpool)を迎え、息の合ったハーモニーや軽快な掛け合いとコーラスで、この春らしい楽曲を煌びやかに彩った。

映画『風の奏の君へ』【本予告】

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