NEE くぅ、どうしようもない世界に灯した希望 “貴方の痛み”に寄り添い続けた切実な歌

 実際、「月曜日の歌」以降のNEEの楽曲は、どんどんディープに、そして大きくなっていった。「DINDON」「本日の正体」「バケモノの話」。2ndアルバム『贅沢』に結実したそれらの楽曲は、どれもズバズバと、世界の“正体”を暴き出し、くぅ自身の内側にいる“バケモノ”をさらけ出し、それによって同じような思いを抱えるリスナーたちの心とつながっていった。『贅沢』のリード曲となった「生命謳歌」には〈生命謳歌、歌います/贅沢に響かせてます/馬鹿になっても僕が歌うのは/貴方を守るため〉という歌詞がある。アルバムの最後に収められた「ごめんなさい」中で吐露されている心情もとんでもなく赤裸々で、だからこそ胸を打つ。そんな曲たちの中に刻まれている通り、くぅは自分自身をさらけ出すのと引き換えに〈貴方〉、つまり、NEEの音楽に救いと希望を見い出した人たちを守ろうとしていた。今なおあのアルバムに宿っている強い思いとエネルギーは、少しも色あせていない。

生命謳歌 - NEE

 彼の死後、一部のファンが明らかにしているが、生前のくぅは、ファンからDMで届いた悩みに真正面から向き合い、返事をしていたという。その中には本当にヘビーな、受け止めるのも辛いような悩みもあったらしい。それでも彼は「ほっとけないから」と言って一生懸命返事をしていた(※1)。同じように悩みや痛みを抱えている自分だからこそ伝えられる言葉がある。鳴らせる音楽がある。それを“使命感”と呼ぶのはもしかすると美化しすぎなのかもしれないが、少なくともそういう思いが、彼が音楽を作り鳴らし続けるモチベーションの一部だった。そして、こんなことを今さら言葉にするのもとても悲しいけれど、そんな彼の思いは今もNEEの音楽の中に確かに息づいている。

本日の正体 - NEE

 彼の逝去の発表と同時にメンバーから出されたコメント、そしてX(旧Twitter)で彼らが書きつけた思いは、どれも辛くなるほど胸に迫るものだった。夕日が、かほが、大樹が、どれほどくぅを愛し、彼を理解していたのかが、その文字から痛いほど伝わってきた。くぅがいなくなったNEEが今後どうなっていくのか、それはまだわからない。だがNEEの音楽は、くぅというアーティストの意思は、これからもきっとたくさんの人を救い続けるはずだ。僕が担当した『贅沢』についてのインタビューの中で、くぅは「僕はなんやかんやで何かに希望を抱いて明日を迎えてる。希望をずっと抱きながら、ヘイトはあるけど、結局歩んでいく」と語っていた。彼はこのクソみたいな世界の中でもがきながら、それでも「俺も君たちと同じだよ」と伝え続けることで、たくさんの希望の種を撒き続けた。NEEの音楽にシンパシーを感じ、彼らに少しでも救われたと思える人は、どうかその希望の種を大事に心に留めておいてほしい。そうやって、彼の音楽を――彼が人生をかけて生み出してきたものを、ずっと生かし続け、伝えていってほしい。それは「くぅのことを忘れないでほしい」なんてセンチメンタルな思いゆえではない。NEEの音楽にはもっともっと大きなポテンシャルが眠っていると、本気で思っているからだ。

 さよなら、くぅ。いつか、また会いましょう。

※1:『ROCKIN'ON JAPAN』2023年10月号

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