ゆいにしお、それぞれの“平日”をリスペクトする一夜 『weekday』リリースツアー最終公演

 シンガーソングライターのゆいにしおが、『ゆいにしお 2nd Full Album「weekday」 Release Oneman Tour "clap your two hands!"』の最終公演を迎えた。4月より自身初の北海道、福岡を含む全国5カ所をバンド編成でまわった本ツアー。5月12日に渋谷 SPACE ODDにて開催された最終公演は、『weekday』に込められたメッセージを存分に伝える一夜となった。

 3月6日にリリースされた2ndフルアルバム『weekday』は、“平日=weekday”を過ごす中での葛藤や困難を受け入れ、「自分の時間をもっと大切にしよう、人生を楽しもう」という気持ちにさせてくれる1枚。リアルサウンドでのインタビューで「とはいえ月曜から金曜の平日じゃなくて、仕事したり育児したり介護したりなどの、“お休み以外の日”の平日に寄り添う作品になったらと思って作りました」(※1)と語っているが、本公演でも一貫してそのメッセージを伝えることからライブがスタートした。「一緒に平日を忘れて楽しんでいきましょう!」という呼びかけと共に1曲目に選ばれたのは、〈結局は幸せに/なりたいだけなんでしょう? 答えは〉という歌詞で始まる「ワンダーランドはすぐそばに」。いきなり突き付けられるシンプルな“答え”にハッとする。サビの前でもう一度、〈内側からラヴを/うみ出せるものだけの/ワンダーランド 待ってる/あなたも早くおいで〉という歌詞に驚かされる。今夜、私たちは平日の葛藤をひとまず置いておき、“大人でも幸せになりたいと(手放しに)願ってもいい空間=ワンダーランド”に招かれたのだと気づく。

 続く「yyyymmdd」では、ライブ序盤にしてさっそく観客のほうへマイクを向けシンガロング。そのまま3曲目「おいしい温度」へ畳みかけ、誰よりもゆいにしおの音楽を楽しんでいるように見える彼女の様子に引っ張られるかのように、フロアも最初から体を揺らしライブを楽しんでいた。最初のMCでは、本ツアーのタイトル『clap your two hands!』について説明。ゆいにしおが26歳になったとき、記念写真を撮るために手で26を表そうとすると、片手ではできなかったという。「片手で数えきれないのなら、持ちきれないものを両手に持って」という想いを込めて、“two hands”としたと語った。

 さらに「みんなの平日をリスペクトして」とアルバムのメッセージを再度伝え、代表曲「mid-20s」へ。この曲はゆいにしおのスタイルが顕著だと思う。出だしから〈「2~3年付き合った/彼氏が今ほしい」〉という、あまりにも赤裸々な歌詞(台詞)から始まる。彼女の正直な歌詞が、同じく“mid-20s”を経て“アラサー”へ突入した私の心を掴む。書きながら、「ワンダーランドはすぐそばに」然り、“曲の頭にパンチのある歌詞を置く”というゆいにしお楽曲の特徴にも気づいた。サビではゆいにしおと会場全体が手を挙げピースサイン。楽しそうな雰囲気と軽快なバンドのサウンド、それに反するシンプルで正直な歌詞が私の心を心地よく乱しながらライブは進む。

 また、「mid-20s」では〈ヨントンはずれた/推しはみんな年下〉と、K-POPアイドルとビデオ電話ができるイベントや“推し”に触れており、次に歌った「チートデイ」はコロナ禍あたりから筋トレブームが起き、頻繁に聞くようになったワードがまさにタイトルとなっている。ゆいにしおはそういった世間で起きていることも音楽に取り入れるのが上手い。明確に説明しなくても感情や情景を伝えることができる歌詞において、あえて“今”をストレートに歌うことはかえって難しく、年齢を重ねるごとにより難しくなっていくように思う。大人になると、どれだけ熱中したヨントンもいつかは自分にとって重要なものではなくなることや、「幸せになりたい」「好き」のような感情を赤裸々な言葉で伝えることの小恥ずかしさを知ってしまう。まるでタトゥーのように残る音楽、歌詞として表現したあとの後悔を知り、若かった頃の思い切りの良さはどんどん失われていく。だが、ゆいにしおは自分と世間の今をさらりと歌いこなしてしまう。むしろ、年齢と経験を重ねて得た強さによるのだろうか、どんどんと鎧を脱ぎ素直になっていく。彼女の音楽を聴いていると、そういった年齢や経験の重ね方を楽しんでいるようにも感じるのだ。

 そんな正直さと軽快さを保ったまま「morning walk」「Rough Driver」「さくら」「me&cat」と続き、ライブは中盤へ突入。照明が絞られスポットライトのみになると、ボーカルとギターのみでの「アイスコーヒー」、ボーカルとキーボードのみでの「フレンド」、ゆいにしおのギターボーカルにベース、ドラムでの「帰り道ランウェイ」とミニマムな編成での3曲を続ける。音数を絞ってもライブという空間を十分に満たせるだけの歌唱力を見せた。

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