ヒゲダン 藤原聡、BUCK-TICK 櫻井敦司、Nulbarich JQ……ドラマーから転身した類稀なボーカリスト

Nulbarich JQ

 Nulbarichを束ねるJQ(Vo)ももともとはドラマーだった。幼い頃からピアノを弾き、吹奏楽部に入ってからはドラムを始めて、学生時代に組んだバンドでも、いつもドラムを担当していたと語っており(※1)、2018年に行われたNulbarichの日本武道館公演(『Nulbarich ONE MAN LIVE at 日本武道館 -The Party is Over-』)など、デビュー以降のステージでもたびたびドラムプレイを披露している。Nulbarichの楽曲、もっと言ってしまえばJQが作るサウンドとそのアレンジは、バンドを前提にして作られていると思う。ゆえに、一瞬の隙間が1曲の中に定期的に登場し、その余韻が軽やかなグルーヴに繋がっている。また、アレンジ面で言えば、ピアノの和音を巧みに使って流れを作るスタイルが印象に残り、和音の部分が、そのままビートに変わっても成り立つような構成の曲もある。ここから、曲によってはJQが、ピアノを“音階が出る打楽器”として使っているのではないかと考察する。

Nulbarich - Kiss You Back Live ver. @2018.11.02 NIPPON BUDOKAN

 JQのボーカルの醍醐味は、日本語と英語の発音の違いを感じないところ。さらに、どの曲でも、空間の中を浮遊するような独特のバウンシーさがあるところだろう。ここに、前述した隙間を活かすセンスが大きく関わっていると思う。さらにボーカルコントロールで、ロングトーンや母音の抜きにメリハリをつけているのも同様だ。バラード曲「Lost Game」などで見せるロングトーンへの多彩なアプローチは、グルーヴをキープしながらも楽曲をドラマチックに彩り、ストーリー性を強く印象づけている。アシッドジャズやソウルなどのブラックミュージックに影響を受けながらも、ファルセットにあまりインパクトを置かず、滑らかに歌っているところも、JQならではのアプローチだ。もちろん、申し分なく綺麗なファルセットを出しているのだが、それ以上に全体を通してシルキーな歌声が印象に残るのは、JQがボーカリストとしての自分の歌声の魅力を熟知しているからに他ならない。彼の歌声は“ディレイしていないシティソウル”といった趣きで、抜群に心地よく、実は中毒性も高い。

Nulbarich – Lost Game (HELLO WORLD Music Video edition)

あっこゴリラ

 最後は、ドラマーとしてデビューした後、ラッパーへと転身し、作詞家・ラジオパーソナリティとしても活躍を広げた、あっこゴリラをピックアップする。小学生の頃にドラムを始めた彼女。一度はドラムから離れるも、本格的に音楽活動を始めてドラムを再開したのは高校を卒業する頃だったという(※2)。2011年にメジャーデビューした際のバンド HAPPY BIRTHDAYは、ボーカル&ギターとドラムという女性2人組。筆者は当時、雑誌『PATi・PATi』でHAPPY BIRTHDAYにインタビューをしたことがあるが、2人組編成によって音楽的な自由度は高いと思うかと質問すると、2人が口を揃えて「何でもできる気がするし、どんな音楽でもやりたい」という旨を即答したことを覚えている。

 そこから当時のボーカリスト きさの療養に伴い、ソロでステージに立つようになったことがラッパー あっこゴリラ誕生のきっかけだった。バンドの解散後、あっこゴリラはラッパーとしての活動を本格化させ、2016年に1stアルバム『TOKYO BANANA』を発売し、2018年にはメジャー再デビューを果たす。STUTSから大塚愛までコラボレーション相手も驚くほど幅広く、ジャンルを飛び越えていく姿勢は、“何でもできる”を体現しているようである。

大塚 愛 × あっこゴリラ / あいびき -Music Video-

 あっこゴリラのラップは、バックトラックのリズムにライドオンし、さらにリズム感を加えていくスタイル。リズムの捉え方が的確で、リリックも無理に言葉を詰め込まず、トラックのリズムを重視して作っているのではなかろうか。ラジオパーソナリティも務める彼女ゆえ、発音の違いで声音も変えられると思うのだが、ラッパー あっこゴリラとして出す声は、ハスキー寄りで統一している感がある。柔らかく発音しそうなところでも、あえて少し強めに発音することで、低音の印象が強く残る。彼女のラップが、まるでベースラインのようにバックトラックのリズムに絡んでくる瞬間があり、そこで出てくる愛嬌と迫力が同時に攻めてくるような独特のブースト感こそが、間違いなくあっこゴリラの個性だろう。

あっこゴリラ 『余裕』

 本稿の執筆にあたり、いつもとは違う視点で音楽を聴き込むことができた。結果、それぞれのボーカリストについて新たな発見が多々あったことが、いち音楽リスナーとしてとても嬉しい。

※1:https://fendernews.jp/cover-2021-nulbarich/
※2:https://cocotame.jp/series/001384/

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