吉井添「自己肯定感が本当に低くて」 モデル・アート・音楽……創作活動に目覚めたきっかけ

吉井添、創作の原点

 2019年のモデルデビューから瞬く間に世間の注目を集め、数多のファッション誌やブランドのモデルを務めてきた吉井添。そんな彼のもう一つの顔が、イラストやデザインを手掛けるアーティストとしての一面だ。

 自身のオンラインコミュニティ『OBSCURE CHURCH』にて自作の絵をNFTで発売し、4月5日〜7日にかけて自身初の個展『個添』を原宿にあるデザインフェスタギャラリーで開催。「七つの大罪」をコンセプトにしたオリジナル作品8点の展示をはじめ、自身のイラストや写真がデザインされたグッズ販売、私物の衣服を販売するフリーマーケットなどを行い、会期中は吉井の作品を一目見ようと多くの人々が集まったという。

 アートのルーツはどこにあるのかと本人に尋ねると、クリエイティブな家庭環境について「英才教育のようなもの」と笑いながら語る。彼の中にある創作の源泉や新たに挑戦しようとしている音楽活動に至るまで、謎に包まれた吉井添の世界について話を聞いた。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

創作以外をやったら多分死んじゃう、みたいに思っていた

吉井添

――吉井さんがアートや表現活動に目覚めたきっかけを教えてもらえますか?

吉井添(以下、吉井):クリエイティブな家庭環境で育ったので、創作に対する関心は子供の頃からずっと持っていました。物心がつく前から壁に絵を描いたりしていたみたいで、何か特定のものに影響を受けて始めたというわけではないのかなと。作ることが性に合っていたと言いますか、僕には創作することしかできないんだろうなと思うこともあります(笑)。絵はもちろん、音楽を作ってみたり、気がついたら創作がライフワークみたいになっていました。

――絵は習いに行っていたんですよね?

吉井:基礎的な部分からちゃんと描けるようになりたいと思って、中学3年間は美術の教室に通いました。そこから高校も美術系の学校に進学しましたね。

――子供の頃は単純に好きで描いていたと思うのですが、それを作品として世に出したいと思ったのはいつ頃ですか?

吉井:僕はもともとゲームのコンセプトアーティストになりたかったんです。ゲームに出てくるキャラクターやエリアのデザインを考えたりする仕事なんですけど、そういう専門学校に行こうかなと考え始めたタイミングで、今やっているような活動もどんどん楽しくなってきて。高校生だった当時、どうすれば創作活動がもっと楽しくなるんだろうと考えていて、それまでは趣味止まりというか、ただ楽しいから習って描くみたいな感じでしたが、どんどん“創作を仕事にする”という選択肢が現実味を帯びていったように思います。

――先程、「自分には創作しかない」と話されていましたが、いわゆる一般企業への就職などは考えなかったんですね。

吉井:これは英才教育だと思っていて(笑)、母親も父親もすごくアートな人だったから。母は洋服を今も作り続けていて、「いずれ個展をやりたい」と言っているんです。衰えを感じさせないというか、自分が負けそうになるくらいアートや創作に懸けている人で。そういうスタンスは父も同じだと思うのですが、そういう2人の姿から影響を受けた部分はすごく強いと思います。

 あと、僕は不器用で本当に何もできないんです。喋ることもすごく苦手だし、バイトも続いた経験がないし(笑)。学校の授業も真面目に受けているのに全然頭に入ってこないタイプだったので、いろいろなことを人一倍努力しないとできないタイプの子供だったんです。その中で、努力をして外に出してもいいかなと思えるのが絵だけだったのかなって。小中学生の頃は、僕は作ることしか無理だ、創作以外をやったら多分死んじゃう、みたいに思っていて(笑)。なぜかはわからないんですけど、僕はずっと家にいる人になると思っていたんですよね。そういう人間性も相まって、今の道を選びました。

――過去のインタビューでは、デザイン面やイラストはお母様の影響が強いと言っていましたね。英才教育というと、やはり幼少期に触れたものも少し特殊だったのでしょうか?

吉井:多分、そうだと思います。家には洋服がたくさんあるのですが、そこには父親の衣装とかも並んでいて、街中では見かけないデザインの服がたくさんありました。幼いながら世間との違和感みたいなものは感じていて、今僕が好きな洋服の系統も、その違和感に起因していると思います。当時から僕は外に出るタイプではなかったので、家にあるアート関連のものに触れる機会が多かったので、そういう両親の好みから影響を受けた部分は大きいと思います。

――吉井さんの絵には、繊細さや美しさに加えて、毒っ気やダークなテイストを共通して感じます。初めて開催した単独企画展『個添』では、8枚の絵が飾られていました。普段、作品のモチーフはどのように考えますか?

吉井:普段の創作には、自分の精神状態が強く関わっていると思います。まず今回は7つの大罪をモチーフに作品を作りたいと考えたことがスタートで、このテーマで7点出すのであれば統一感はもちろん、それぞれの個性も大事だなと考えました。7つの大罪は、強欲や色欲、憤怒など、人間の欲望を表すダークなモチーフですが、もともと僕は白色が好きということもあって、それを基調の色にしました。白は汚れのない純粋無垢を象徴するような色だと思っていて、それが汚れていくようなイメージで描いていきましたね。でも、結果的にダークなものになるのはなぜでしょうね……自分でも思うんですけど、理由は特にないのかな。

――知らず知らずのうちに、そういうものに惹かれているということですかね。

吉井:たぶん。それが作風になっていたら、素敵だなとは思います。でも、ニヒルな感じや仄暗いイメージがすごく好きだから、そっちよりのテイストになりやすいのかなと思います。

――精神状態が作品に影響を及ぼすとのことで、ネガティブなとき、ポジティブなとき、どちらのタイミングで描きたくなりますか?

吉井:今回はお仕事だったので、ネガティブという意識はなかったです。でも、僕は自分のことを“ポジティブ鬱”だと思っていて(笑)。鬱になっても、決してネガティブな方には捉えないというか。例えば、10代の頃は「死にたい」とか、口に出していたんですけど、今はしんどい時でも「死にっ…!!」みたいに止めるんです(笑)。「死にたい」と言い切る前に、それを他のもので補えないだろうかと考えます。そういうネガティブな感情を作品にできたら、すごく得だし、必ずいいものができるはずだと思うから。もったいないからアートにしちゃえみたいな感覚に近いのかもしれないです。しんどい部分をそのままにして蔓延させるくらいだったら、作品に昇華したほうがいいのかなと。だから、本質的にはネガティブだと思うんですけど、ポジティブに生きようとしている鬱ですね。

――表現というはけ口を確立できたんですね。

吉井:そうですね。それを許してくれる場所に巡り会えて、本当に良かったなと思います。

――ちなみに、どういう時に落ち込むんですか?

吉井:自分への自己嫌悪……僕、自己肯定感というものが本当に低くて。困るぐらい低くて。それを上げていこうというか、このままじゃだめだと思ったから、モデルの仕事を始めました。絵に関しても、描いた後に「まじで……」となることが多くて。要は自分の精神面が反映されているものなので、見返してしんどくなることも多いんです。あとは単純に作品の粗を見つけて落ち込んだりもします。何かきっかけがあって落ち込むというよりは、常に自己嫌悪がある人間なので、それを何かで隠せるように、絵を描いたり、おしゃれをしたりしているのかなと思います。むしろ、周りの人や環境はすごく恵まれているし、生きていて素敵なことばかりなので。今こうやって自分のことを正直に話せているのも、表現活動ができているおかげだと思っていて。もしモデルをメインにバリバリやっていくぞという感じだったら、こういうことすら言えていなかったと思います。

――自分で作品を描くときに、絶対にこれはしない、ここは譲れないみたいなものは何かありますか?

吉井:僕には変なところがあって。本当によくできた作品はどこにも載せないです(笑)。

――なんでですか?

吉井:学生時代とかに「好きな曲なに?」と聞かれても、2〜3曲くらいしか知らないバンドの名前を言って、本当に好きなバンドは言えなくて。自分を知られるのが怖いわけではないけど、見られたくないという気持ちが人一倍強いんです。でも、本当は見てほしいという気持ちも強かったりして、自分でもキモいなと思います(笑)。そういう性質上、核心に迫っている作品ほど、好きなものでも、作ったものでも発表できなくて。

――趣味趣向を伝えると、自分を測られてしまうかもしれないと。

吉井:それが許せないわけではないんです。でも、その壁を打ち破りにいく強さが僕にはなくて。そういう部分をさらけ出せるようになったら、最強だとは思うんですけど……。

ーーなんとなくですが、吉井さんは細かい部分へのこだわりが強そうですね。

吉井:強いです(笑)。こだわりは本当に強いですね。

――ちょっとでも違うなと思ったら全部見直すみたいな(笑)。

吉井:全部消して一からやり直しますね(笑)。今回の作品も7枚同時進行で描いているのですが、その時々によって描く時の気分がガラッと変わってしまうので、1つずつ仕上げてしまうと次の絵を描く時に雰囲気が微妙に変わってしまうんです。だからまずは7点すべてラフで書き上げて、細かいところを調整しながら並行して完成させていきました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる