45億回再生のヒットを生んだSHAUNが追求した“イージーさ” 日本EP『For a While』までの道のり

 少女時代やBTS、SHINee、EXO、EPIK HIGHといった名だたるK-POPアーティストの楽曲参加やプロデュース等を手がけながら、シンガーソングライターとしては2018年に発表した「Way Back Home」が韓国内の全チャート1位席巻し、さらに国内だけでなく世界的なヒットを記録。同年、「世界で最もストリーミングされたソロK-POPアーティスト」に選ばれたSHAUNが、昨年の「Way Back Home(Japanese Ver.)」のリリースを経て、ついに日本オリジナルEP『For a While』をリリースした。

숀 (SHAUN) - 웨이백홈 (Way Back Home) [Lyric Video]

 プロデューサーとして、シンガーとして、どのような視点に立ち、今作を作ったのか。「自分の名刺になるような作品が必要だと思った」と語っていたように、SHAUN自身の具現化、それを日本作品としてどのようにして昇華させたのか、一つひとつ丁寧に語ってくれた。(編集部)

“引っ掛かり”を作るためには曲自体がイージーであるべきだなと思った

――去年から日本での音楽活動をスタートされて、ついにEP『For a While』がリリースされます。

SHAUN:昨年10月に「Way Back Home」の日本語詞となる「Way Back Home (Japanese Ver.)」をリリースして以降、もっと日本で活動したいという欲が生まれまして。そのためには、自分の名刺になるような作品が必要だと思ったんです。SHAUNとしてこれまで歩んできた道を整理するとともに、新曲を通して最新の自分もお見せしながら、今後の姿も見せるきっかけになればと思い、制作に入りました。

――早速『For a While』収録曲について伺います。「Terminal (Japanese Ver.)」はしっとりとした夜を感じる雰囲気ですけど、この曲を作ったきっかけは?

SHAUN:原曲をリリースしたのは、2019年です。当時、僕が作る曲はシティポップやディスコサウンドが多かったんです。そんななか、「ミディアムテンポの曲もできたらいいな」と思って作ったのが「Terminal」でした。モノクロっぽい雰囲気で、僕としてもお気に入りの曲で。今回、日本の曲として再レコーディングすることになって、さらに自分のなかでも愛着が湧きましたね。補足をすると、僕がすごく好きなRoller Coasterという韓国のバンドがいまして。彼らの歌は過激すぎず、むしろ淡々としているけれど、そのなかにはしっかりと感情が込められている。そういった要素を自分なりに具現化したいと思ったんです。

숀 (SHAUN) - 습관 Bad Habits [Official MV]

――「Terminal (Japanese Ver.)」と対照的に「Bad Habits (Japanese Ver.)」は、サウンドにアクティブさがあって、イントロからメロディアスで引き込まれたのと、歌い出しもかっこよかったです。

SHAUN:これも2019年に作った曲ですね。一時期、映画音楽にハマっていまして。映画『インセプション』の挿入歌として作られたハンス・ジマーの「Time」を聴いた時に、自分のなかでメロディが降りてくる感覚があったんです。聴いてくださる皆さんが聴き飽きないように、最後に転調させたりして最終的にこの形に持っていきました。

숀 (SHAUN) - 터미널 Terminal [Official MV]

――今回「Terminal」と「Bad Habits」の日本語バージョンを制作された理由は何だったのでしょう?

SHAUN:「Bad Habits」については、日本でのストリーミング数がよかったのが大きいですね(笑)。「Terminal」に関しては、たとえば楽曲全体に悲しみがあるとして、その悲しみを感情的に訴えるよりも、淡々と訴えたほうがもっとディープに伝わるんじゃないかと思ったんです。“いっぱい泣く”とか“いっぱい怒る”よりも、「こう言っているんだよ」「こういう気持ちなんだよ」と諭すように歌うほうが感情の起伏に作用するだろう、と。その情緒は日本の持つ奥ゆかしさにも通じる。だからこそ日本語の音楽にすることで、日本のリスナーの方がより楽曲のイメージを掴めるんじゃないかな、という理由で選びました。

――今作にも収録されているSHAUNさんの代表曲「Way Back Home」についてですが、2018年に韓国でリリースすると瞬く間に話題が広がり、全世界で50億回以上のストリーミング再生を達成されましたね。

SHAUN:え!? 50億回再生ですか!?

――そうなんですよ!

SHAUN:すごい(笑)。かなり前の話に遡るんですけど、以前ジェジュンさんから楽曲制作の依頼を受けて、楽曲のベースとなるコードとメロディだけ作っておいたんです。ただ、彼の楽曲としてリリースされる話は最終的になくなってしまって、そのままPCのハードディスクに埋もれていたんですね。それから数年が経ち、ある日、頭のなかでこの曲がずっと流れるようになって。あまりにも気になるから、ちゃんと形に仕上げようと思い、それで生まれたのが「Way Back Home」なんです。

 これは後日談ですけど、「原曲はどんな感じだったかな?」と思って、「Way Back Home」を作ったあとにハードディスクのデータを聴いてみたところ、僕のイメージとはまったく違う曲だったんですよ。つまり、気づかないうちに自分のなかで再構築/再構成されて、新しく生まれ変わっていた。僕は記憶力が悪いほうなんですけど、それがうまく作用しましたね(笑)。

――はははは(笑)。「Way Back Home」が世界的にヒットした要因は、ご自身では何だと思いますか?

SHAUN:初対面の人と会った時、最初に相手の印象が大事になると思うんです。とはいえ「目がこのへんにあって、鼻がここにあって……」とか「何色の服を着ていて……」とか、そういう視覚的なことではなく、それよりも感覚に頼って人を認識することがあると思うんですね。言わば、人間とは2種類以上の個体の細胞が1個体に混在している“キメラ”のような存在に近い。それと同じ概念として、音楽はあると思っていて。たとえば音楽も「この曲はギターがいいな」「ベースがいいな」もしくは「これは歌詞がいいな」と判断をするよりも前に、曲自体が人のなかへディープに入っていく必要があると思うんですね。

――たしかに、初めて楽曲を聴いた時に歌詞全体の意味まで考えることって少ないかもしれないですね。何か自分のなかで引っ掛かるものがあって、何度か聴いていくうちに「ああ、こういうことを歌っているんだ」と気づく。

SHAUN:そうなんですよね。その“引っ掛かり”を作るためには、シンプルなメロディだったり、すぐに理解できる簡単な歌詞だったり、曲自体がイージーであるべきだなと思うんです。その単純さを意識しながら、印象が残るような楽曲を作ろうと形にした思い出があります。

――シンプルでわかりやすいからこそ大衆に広がっていく、と。

SHAUN:そうなんです。なかには派手な舞台装置を使って、観る人にインパクトを与えるステージもありますが、それよりも何もない空っぽのがらんとしたコンサート会場で、照明もまったくない真っ暗なところで、誰かがついた一回のため息が何よりも強力な印象を与えることがあると僕は思うんですよね。そういったシンプルさが、「Way Back Home」がヒットした大きな要因なのかなと思います。

――そういえば、海外ツアーをされたときに「Way Back Home」のフレーズをタトゥーに彫っていたファンがいましたね。

SHAUN:よくご存知で! 2023年の北米ツアーでトロントへ行った時、コンサートが終わって挨拶して帰ろうとしたら、「この曲が大好きすぎて歌詞をタトゥーにしました」と言ってくださったファンの方がいました。ただ、その方は女性だったんですね。しかもタトゥーを彫られたのが胸の辺りだったんですよ。それだと「見せてください」とは言えないじゃないですか(笑)。そうしたら女性のマネージャーにそのタトゥーの写真を撮っていただき、あとから見せてもらいました。あの時のことは、僕もよく覚えています。

――それだけ国境を越えて、歌詞が多くの人の心に刺さったわけですね。

SHAUN:歌詞の話で言うと、YouTubeのコメント欄に「歌詞をよく読んでみると、きっとSHAUNさんは好きだった彼女と死別してるんじゃないか? あの世に逝ってしまった人に捧げた曲なんだろうな」みたいな書き込みがあったんです。そのコメントを踏まえて「Way Back Home」の歌詞を読んでみたら、確かにしっくりくるんですよ。「Way Back Home」にしても他の楽曲にしても、事実はどうであれ、そうやってそれぞれの解釈を持っているから、僕としては「そうじゃないよ」と言わないようにしてます。

関連記事