AA=が爆発させるパンデミックが明け解放された喜び オーディエンスが上田剛士に寄せる信頼

 『AA= SPRING HAS COME TOUR_Chap2』最終東京公演である。昨年11月19日に予定されていたものの、前日の上田剛士の急病という不測の事態を受け延期されていたものの振替公演だ。「SPRING HAS COME」とは、パンデミックという長く厳しい冬の期間をドラマティックに表したアルバム『story of Suite #19』の最後、冬の終わりと春の訪れを歌った楽曲「Chapter 9_SPRING HAS COME、取っ手のない扉が見る夢、またはその逆の世界」からとっている。つまりここでAA=はパンデミックが明け解放された喜びをライブの場で爆音を響かせることで祝福しようとしたが、肝心の上田のコロナ罹患という笑えるんだか笑えないんだかわからない皮肉なアクシデントで、本当に「SPRING HAS COME」なタイミングでの開催になってしまった。そしてこの延期で、AA=の東京単独公演は約1年半という長いブランクを置いてのものになった。こうなれば飢餓状態に置かれた観客の過熱ぶりはやる前から容易に想像がつこう。私は昨年6月に行われた『SPRING HAS COME TOUR_Chap1』の横浜公演を観ているが、その時の観客のテンションの高さも笑えるぐらいすごかった。客のテンションが高ければ高いほど、ロックのライブは面白くなるに決まっている。そしてこの日もそうだった。

 この日のライブはその「SPRING HAS COME」で始まった。高らかに長い冬の終わりと春の訪れを告げた爽快なる轟音は、AA=という解放区へとオーディエンスを誘う号砲だ。代官山の地下の地下のそのまた地下へと潜っていく密室に広がる熱気は、まさにロックファンのための魂と肉体の解放空間そのものだった。東京というだだっぴろく平面的に広がる冷たく無表情な都市の中で、確かにここにいる者たちは繋がっている。そんな実感が感じられるからこそ、アーティストも観客も笑顔が絶えない。いつもはその都度の政治的・社会的イシューに照らし合わせたシリアスなメッセージをライブ全体のテーマに込めることの多いAA=だが、この日ばかりはただその場を楽しめばいい。そんな風にも思えた。もちろんそれは長く厳しい冬を耐え抜いてきた経験があってこその歓喜であって、個々の曲にはその陰影が刻まれ、それぞれのメッセージがある。All Animals Are Equalというバンド名を選んだ時点で、AA=の通奏低音として政治性は常に流れている。それは大前提である。ライブという非日常空間の中にあってなお、そうしたざらざらとした現実のリアルとの接点を決して手放さない。それがAA=の凄さだ。

 この日の個人的ハイライトは「BATTLEFIELD」だった。上田がサンプラーからノイジーなビートを繰り出し、この日のドラマーだったYOUTH-K!!!とガチで対峙し火花を散らす。YOUTH-K!!!のプレイはパワーに加え、しなやかさやグルーヴも兼ね備えてきたように思える。手数の多いドラミングからはすさまじいエネルギーが放射され、それは春の訪れと共に全開となったAA=の勢いをさらに加速していた。今回のツアーのドラマーが金子ノブアキでもZAXでもなくYOUTH-K!!!になった理由は単にスケジュールが合ったのが彼だったということなのかもしれないが、今の蛇口全開になったAA=の煮えたぎるようなテンションを受け止めてさらに加速できるのはYOUTH-K!!!だし、今のAA=は彼のドラムが原動力になっている、という印象すら持った。6月から始まる新ツアーのドラマーに再びYOUTH-K!!!が抜擢されたのは当然と思える。

 そうして加速したAA=のエネルギーを受け止め何倍にもして返すのがオーディエンスだ。マッド(THE MAD CAPSULE MARKETS)時代からの筋金が入った古参から、まだ20代と覚しい若者まで、客層は驚くほど広い。そんなオーディエンスのモッシュ、サークルピット、ダイブ、クラウドサーフとフルコースに湧くフロアのテンションは、最近観たどのライブよりも熱い。

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