玉井健二、『ガールズバンドクライ』の隠れテーマは打倒K-POP? プロジェクトを越えた、世界で勝てるバンドの可能性
立ち直れないぐらいの失敗を今のうちにしておいてほしい
ーー昨年9月に行った公開練習ライブの様子は、玉井さんの目にはどう映りましたか。
玉井:二つありまして。ひとつは、あの公開練習ライブが初めて人前でライブをするタイミングでしたが、想定していたよりも圧倒的にトラブルが少なかった。簡単に言うと、この人たち“持ってる”なと。普通は初ライブなんて、シャレにならないぐらいのアクシデントがたくさん起こるはずなんです。ギターの弦が切れたり、ドラムのスティックが折れたり、アンプから音が出なくなったり、もっとドタバタするはずなんですが、そういったトラブルがほぼなかった。そしてもうひとつ。とは言いながら、5人ともとんでもなく緊張して舞い上がっていたから、厳密に言うといっぱいやらかしてはいるんだけど、それでもライブとして成立するぐらいの鍛錬をこの人たちなりに積んできたんだなと、あの瞬間に確認できました。「練習しています」という言葉が嘘じゃないとあのときわかったので、この二つを確認できたことは大きな収穫でしたね。
でも正直に言うと、ちょっと凹むぐらい、しばらく立ち直れないぐらいの失敗を今のうちにしておいてほしい気持ちもあります。3月のワンマンライブはもちろん大事だし、4月からテレビアニメが始まったらさらに色々な目が増えるわけで、その段階でアクシデントを迎えるよりは早めに経験しておいてほしいのに、なかなかそういう場面が訪れない(笑)。逆に怖いですよね。
ーーそんな彼女たちの日々が、生まれてくる楽曲やプロデューサー目線で選ぶ楽曲を左右することはありますか。
玉井:メンバーが定まって以降は、それぞれの個性とキャラクターと演奏者としての特徴に全部引っ張られています。特に編曲においては、「このぐらいのハードルは超えられるだろう」という想定のもとでアレンジを組み立てています。加えて、これからトゲナシトゲアリとしてやっていく中で、音楽性の幅を今のうちにどれだけ拡げていけるかも重要で。
ーー確かに、2月28日に発売される5thシングル『運命に賭けたい論理』を含むこれまでに発表された10曲は、どれも違った色合いを持っています。と同時に、彼女たちが歌って演奏することでトゲナシトゲアリらしいカラーも出せている、そういった統一感も伝わります。
玉井:5thシングル用に「運命に賭けたい論理」と「サヨナラサヨナラサヨナラ」の2曲を新たに作ったんですが、これらはまさに音楽性の幅を拡げようとして作ったもの。ギャグみたいな本当の話なんですが、「運命に賭けたい論理」はあんなに悲しい曲なのにトゲナシトゲアリの中ではクリスマスソング扱いなんです(笑)。
ーーえっ?
玉井:この曲は12月18日に配信されたんですが、世の中がクリスマスで賑わっている時期にトゲナシトゲアリのメンバーはあんな嘆き節を歌っているという。そこから年明けにどんな曲が出るのか期待している中、今度は「サヨナラサヨナラサヨナラ」。歌謡テイストもあるんだけど、ジャジーでロックで高速ビートな曲を、テレビアニメが始まる前のこの段階にやっておきたかった。というのも、これから長尺のライブをやることになれば色々なバリエーションの曲が必要になってくるわけで、そういった意味でもこのタイプの2曲を持っておきたかったんです。
ーーこの2曲がセットリストに加わるだけで、ライブの雰囲気もかなり変わりそうですね。「運命に賭けたい論理」は、サウンド的には王道感の強い、今後キラーチューンになりうる一曲ですし、「サヨナラサヨナラサヨナラ」は間違いなくライブで威力を発揮する曲だと想像できました。そうやって、テレビアニメが放送されるまでに必要なピースをどんどん埋めていくわけですね。
玉井:そうです。どちらの曲も普通のバンドマンがギリギリ演奏できるかどうかの難易度を用意していて、「サヨナラサヨナラサヨナラ」に至ってはトゲナシトゲアリなりの「紅」(X JAPAN)だと思っていますから(笑)。
ーーテレビアニメの放送が始まると、物語に沿って用意された新たな楽曲も出てくると思います。
玉井:劇中楽曲はトゲナシトゲアリとして発表している曲よりも前に着手しているので、手探りなところもありました。ただ、頼りになったのはやはり河原木桃香の設定と(理名が演じる)井芹仁菜の設定、この二つが大きくて。「この人たちが出会って曲を作るとこうなるであろう」という想定のもとに作っているのですが、その度合いでいうと劇中楽曲のほうが多いんです。
ーー楽曲の作詞・作曲を手がける作家さんの年代は幅広いのでしょうか。
玉井:メンバーの年代に近い人もいますが、かなりバラバラですね。うち(agehaspringsグループ)の場合、特色として元アーティストの人が多いんですが、その人たちから上がってきたデモをカスタムしていくことになる。そのカスタムにおいても、「『ガールズバンドクライ』のためのカスタム」と「トゲナシトゲアリに向けたカスタム」があるんですが、デモの段階では最初に話したように「いい意味で偏ったもの」じゃないとバンドの曲にはならない。それでいうと、年代はバラバラでも「本人がアーティストやバンドマンだった人が多い」というのは強みなのかなと思います。
普段の僕は、自作自演ではないアーティストのサウンドプロデュースを委託されたときのやり方として、作詞と作曲、アレンジをそれぞれ別々の方と共作することが多いんです。トータルのコンセプトをきちんと細かく立てて、そこに向けて構築していく、といった作り方のほうが圧倒的に成功率が高くて。今までずっとその方法を選んでやってきたんですが、『ガールズバンドクライ』では「歌詞も曲も最初のデモからなるべく活かす」ということも大きな特徴かもしれません。
ーーそれは、デモの段階で作家さんが作曲のみならず作詞も手掛けているということでしょうか。
玉井:はい。最初のデモの温度感を大事にしているんですが、僕が携わるプロジェクトの中ではわりと珍しいかもしれません。特に今回は、たまたまデモにあった仮の歌詞が良い場合もたくさんあって、それが最後まで生きているというのが多いです。
ーー確かに、これまでの楽曲の大半が、作詞・作曲を同じ方が手掛けていますね。
玉井:「作詞を別の人に変えないほうがいい」と思うぐらいの音楽的な個性を最初に選んでいるんでしょうね。それを最後まで残すプロセスに結果的になっているんだろうなと自分でも思います。
ーー3月16日にはトゲナシトゲアリの1stワンマンライブ『薄明の序奏』開催、4月からは『ガールズバンドクライ』のテレビアニメが放送開始。改めて今後の『ガールズバンドクライ』というプロジェクトやトゲナシトゲアリに期待することを伺えますか。
玉井:『ガールズバンドクライ』では、相当なクオリティの追求の仕方をあらゆる要素に求めていて、ここまでこだわっている作品というのはそうはないんではないかなと。だから、『ガールズバンドクライ』に期待することは、これをどれだけ多くの人に観てもらえるかに尽きます。トゲナシトゲアリの5人には常に色々なことを言っているけど……まだこれからやることがたくさんあって、「大変って楽しいね」と言いたいですね(笑)。おそらく、彼女たちはいま日本で一番大変な5人じゃないですかね。だからこそ壁を越えたら想像もしていない未来が待っているはずなので、今はただ頑張ってほしいです。
■リリース情報
5thシングル『運命に賭けたい論理』
2024年2月28日(水)リリース
CD+DVD:¥2,960(税込)
CD+Blu-ray Disc:¥3,960(税込)
詳細:https://www.universal-music.co.jp/togenashitogeari/discography/
■ライブ情報
トゲナシトゲアリ 1st ONE-MAN LIVE『薄明の序奏』
開催日時:2024年3月16日(土)
開場/開演:17:00/18:00
会場:横浜・1000 CLUB
チケット:¥8,800(税込)
※ドリンク代別途必要
詳細:https://girls-band-cry.com/live/post-1.html
■アニメ情報
オリジナルアニメ『ガールズバンドクライ』
2024年4月よりTOKYO MX、サンテレビ、KBS京都、BS11にて放送