女性アイドルに歌唱力は必須の時代? ライブシーンでは“歌うま”が大きな武器に

 このような流れの一つのターニングポイントになったのは、2020年のコロナ禍による変化だろう。当初、有観客ライブの開催が事実上不可能になったことで代替的に配信ライブが増加したが、アイドルファンはライブや特典会の現場において“生で体験する”ことを重視する層が少なくなく、コロナ禍はアイドルシーンにとって大きなダメージであった。そんな中、画面を超えて伝わるような説得力のあるパフォーマンスは、配信でも観る価値があることを示す大きな武器となった。その後ライブの開催が可能になってからもしばらくは観客同士が間隔を空けざるを得ない時期があり、客席における声出しに関する制限も長く続いた。以前のように密になって盛り上がる一体感が生まれづらい状況において、歌で観客の心を揺さぶることができるアイドルは相対的に有利に働いたと思われる。この時期にシーンを駆け上がっていったタイトル未定は、まさにその代表例と言えるだろう。

タイトル未定-花(Music Video)
私立恵比寿中学 - なないろ / THE FIRST TAKE
=LOVE - あの子コンプレックス / THE FIRST TAKE

 また“おうち時間”が増加したことで、動画コンテンツの人気がますます拡大。一発撮りパフォーマンスでおなじみのYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』が広く知られるようになったのもこの頃からで、今では登録者数890万人を誇る人気コンテンツとしてすっかり定着した。アイドル界からは坂道グループのメンバーがソロや少人数編成で普段とは異なる魅力を届けたほか、私立恵比寿中学や=LOVEも出演。歌に特化した“聴かせる”パフォーマンスは自らの歌唱スキルを示す場となり、新たなファン獲得の機会ともなっている。他にもオーケストラとの臨場感溢れるセッションが見所のYouTubeチャンネル『With ensemble』にはフィロソフィーのダンスが登場。それぞれのグループの公式チャンネルで名曲カバーの「歌ってみた動画」を発信するアイドルもいる。

フィロソフィーのダンス – シスター | With ensemble

 歌を武器にしたアイドルの活躍の場は、ここ数年さらに広がっている。アイドルシーンを代表する大型フェス『TOKYO IDOL FESTIVAL』では「うたチャン」や「アイドルカラオケバトル」といった歌をフィーチャーした企画を開催。普段はグループ活動を行うアイドルがソロ歌唱に挑戦し、新たな魅力をファンに届けている。『@JAM EXPO 2022』でも「DIVAチャン!~アイドルで一番歌がウマいのは誰?~」という“歌うま”アイドルによる熱戦が展開され、“ゴリゴリのゴリ”の異名を持つパワフルボイスが魅力のフィロソフィーのダンス・日向ハルが優勝した。また、バラエティ番組で近年増加傾向にあるカラオケ企画や、不定期放送される『オールスター合唱バトル』(フジテレビ系)など、歌唱力によって地上波への露出に繋がるケースもある。

 思えばひと昔前の風潮としてあった「アイドル=実力がない」といった先入観を持つ人は以前に比べると少なくなってきたように感じるが、アイドルは各々が得意とする分野が多岐にわたり、歌唱力について必ずしも高いスキルを持っているわけではない。だからこそアイドルの武器として歌唱力は今なお有効なのである。歌が上手ければ売れるわけではないのが難しいところでもあるが、歌唱力の高さはグループ外の仕事やグループ卒業後のキャリアの幅を広げることにも繋がりやすく、今後も“歌うま”アイドル達の活躍をさまざまな場面で見ることができそうだ。

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