ミセカイ、ビジュアルを元にした音楽表現の結晶 1st AL『Artrium』を語る 泣き虫と対談も

ミセカイ『Artrium』 インタビュー

 すでに公開されているイラストや写真などのビジュアルを元に楽曲を制作する、男女混声2人組ユニット・ミセカイ。2月7日にリリースされた1stアルバム『Artrium』は、コーラスワークが織りなす深遠な感情表現と、重厚なサウンドスケープが圧倒的な存在感を放つ。まるで、聴く者の心を映し出す鏡のように、様々な情景や感情を喚起する、表現の結晶と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。

 とりわけ、パワフルな歌声とエモーショナルなメロディが印象的な今作のリードトラック「コインロッカーベイビー feat. 泣き虫」は、デビュー曲「アオイハル」を筆頭とした従来の繊細で美しいバラードのイメージを覆す、インパクトのあるフィーチャリング曲と言える。このエキサイティングなコラボレーションは、ミセカイのコンポーザー&ボーカリスト・アマアラシ、ボーカリスト・千鎖と泣き虫の化学反応によって生み出されたもので、今作はもちろん、今後のミセカイの音楽性にも大きな影響を与えていくことだろう。今回のインタビューでは、前半に1stアルバムに至るまでのミセカイというユニットについて、後半では泣き虫を迎えて、コラボレーションの経緯や、楽曲制作の裏側について話を聞いた。(小町碧音)

プロジェクトの存在意義を感じるクリエイターからの言葉

──最初に、ミセカイがどのような経緯で結成されたのか教えていただけますか?

アマアラシ:僕がアマアラシとして音楽を始めた頃からずっとユニットをやりたいと思っていました。自分の声にあまり自信はなかったんですけど、曲作りと世界観の構築には自信があったんです。より深い世界観を表現するためには、僕の声よりももっと高い女性ボーカルが必要だなと感じて、SNSでシンガーソングライターの方の声を探しているうちに、千鎖ちゃんの声に出会ったんです。その声が僕の音楽を完璧に引き立ててくれると確信して、DMで、「一緒に音楽をやりませんか」と連絡したのが始まりでした。

千鎖:私はシンガーソングライターとして活動しているアマアラシさんのことをSNSで知っていて、楽曲の完成度や世界観の深さが好きだったんです。なので、いきなりDMが来た時はびっくりしました。でも、私自身、EGOIST、supercellのように楽曲をいただいた上で歌で曲を完成させるスタンスに憧れていたので、すぐに「やりたいです」と返事しましたね。

──アマアラシさんが惹かれたのは、千鎖さんの歌声のどのような部分だったんでしょうか。

アマアラシ:やっぱり、声が持つ儚さですね。息の入り方と声の艶のバランスが絶妙で、儚いなかにも青色をイメージさせる寂しい色が乗っている感じがあるんです。冷たい雰囲気にもすごく合う声だと思っていました。それに、何を歌っても形になる。純粋な歌の上手さも昔からすごいなって。

千鎖:普通に照れますね(笑)。

──ミセカイはビジュアルにインスパイアされて楽曲を作る男女混声ユニット。このコンセプトはどう決めていったんですか?

アマアラシ:もともと僕は、自分の好きなアニメのビジュアルにインスパイアされて曲を作っていたんですね。いろいろとチームのスタッフと話し合う中で、ビジュアルを前提にして曲を作るユニットは珍しいというお話になり、まだ見たことのない自分に出会えるイメージも湧いたので、そういうアプローチでいこうと。

──普段、楽曲に合わせたビジュアルはどのように選定しているのかについても教えてください。

アマアラシ:昨年は、2カ月ごとに曲をリリースすることが目標だったので、季節に合わせた曲、取り入れたいジャンルを優先していって。それを元にイメージに合うイラストレーターの方に連絡していきました。千鎖ちゃんとはよく、「こんな絵を描く人っていいよね」と話し合いますし、チーム全体でいろんなイラストや写真などのビジュアルを集めていますね。


──なるほど。ある程度のイメージを考えた上でイラストを選定していく、と。ミセカイの世界観を表現する上で心がけていることはありますか?

千鎖:私は歌詞に寄り添って感情を込めるタイプなので、ミセカイでは、イラストの主人公になりきるようにしています。私の歌声を通すことで歌詞とビジュアルがより現実味を帯びたものになればいいなと思っています。

アマアラシ:イラストや写真にインスパイアされて曲を作ると、必ず元のクリエイターの方がいるので、彼らに「この曲が作られてよかった」と感じてもらえるようにするのが、僕にとっては大事なんです。イラストレーターの方にはどんな曲にするかの共有はせずに曲が完成してから初めて聴いてもらうようにしているんですけど、その方の想像を良い意味で超えて、その方の創作力を搔き立てるような曲を作りたい。先日「今まで生きていて良かったなと思いました」というコメントをいただいて、このプロジェクトの存在意義を強く感じましたし、結果として、お互いの成長につながっていると思いました。

『Artrium』ジャケットは初の描き下ろし作品 新しい音への挑戦も

ミセカイ 1st Album『Artrium』クロスフェード

──ここからは、2月7日にリリースされる1stアルバム『Artrium』について聞かせてください。

アマアラシ:まず、‟Artrium”という名前は、芸術の意味を持つartと空間の意味を持つriumを組み合わせた、僕が考えた造語なんです。僕たちはいろいろなジャンルに挑戦してきて、音楽としてもいろんな試みをしています。なので、芸術に向かっていると言ってもいいかなって。そこに、今の自分たちができるところまでの空間を作り上げようというのがArtriumに込めた想いです。

──千鎖さんのなかで特に印象に残っているのはどの曲ですか?

千鎖:私にとって特に印象深いのが、初めてイラストを元に曲を作った「スクレ」ですね。これは、私が初めて作詞と作曲の両方に関わった曲で、特に作曲部分は全面的に担当しました。チームの中で「この曲は3拍子の雰囲気がある」という意見が出て、いろいろ調べながら3拍子の曲に挑戦したんです。いろんなことが初めての挑戦だった中で、最終的にアマアラシさんの編曲の技術で「スクレ」が完成して、ミセカイとして出せる楽曲になったのがすごく嬉しいです。

アマアラシ:千鎖ちゃんに「一度チャレンジしてみよう!」とお願いしたんですが、送られてきたデモを聴いた時は、正直「これで大丈夫かな」と思いました。でも、編曲をする中で不思議と曲にどんどん引き込まれていく感覚が出てきて。最初はちょっと違和感を感じた部分も、編曲を進めるうちに、千鎖ちゃんが作ったメロディを多く活用しようと思えたんです。千鎖ちゃんが挑戦してくれたおかげで、個人的にずっとやってみたかったクラシックのオマージュを取り入れたり、新しい音の使い方にチャレンジできて、とても良い形になりました。

千鎖:アマアラシさんは、感じたことをきちんと伝えてくれる人なので、初見のその反応を聴いて、最初は「私が作って本当に大丈夫かな?」ってかなり心配していたんです。でも、やり取りをしていく中で、私が作った歌詞とメロディを生かしながらミセカイらしくなるような提案をアマアラシさんがしてくれて。それに対して、私は半ば冗談で「それができたら天才だよ!」って答えたんですけど、結果的にアマアラシさんがそれを完璧に作り上げてくれました。そのおかげで私が考えた歌詞やメロディもより楽曲の中で彩られたなと感じています。

──今作の1曲目「{ New World」と最後を締めくくる「World End }」は、メレさんのイラストを元に制作されたインストゥルメンタル曲です。光と影を感じさせる音作りで、物語の中に引き込まれるような感覚を覚えました。

アマアラシ:メレさんは、千鎖ちゃんとの話の中で頻繁に話題に上がるほど、僕たちが最初から一緒に仕事をしたかった方なんです。なので、今回のアルバムに向けて、メレさんには特別に2枚のジャケットイラストを描いていただきました。メレさんは、僕たちの音楽を聴いてくださっていましたし、作られた白と深い青のジャケットイラストには、僕たちの過去の曲と僕と千鎖ちゃんの星座のモチーフが含まれていて、すごく嬉しかったです。普段は既存の作品にインスパイアされて曲を作ることが多い中、今回はゼロから作ってもらったので、僕も新しい音に挑戦する必要があると思って。受け取ったイラストから、陽と陰のような分け方を取り入れる中で、EDMという新しいジャンルにも挑戦しました。

──『デザ魂』とのコラボ企画の中で、楽曲の元になるビジュアルを全国の学生から募集。後に完成した「Re-plica」は、ミセカイの世界観の一部になったプロのイラストレーターの方々とは異なる独自の色彩を持った作品だったと思います。終わりの見えない階段を登る学生の姿が描かれたそのビジュアルはリアルで、強く心に訴えかけるものがありました。

アマアラシ:そうですね。初めて見た時に、イラストとそれを描いた学生さんの思いが文字で添えられていたんですけど、僕はその作品から創作活動における孤独感や絶望感が色濃く表現されていると強く感じて。あとで中学3年生だと知って驚いたんです。自分がその年代でそこまで深く感じたり、創作にその感情を込められたかと思い返すと、そんなことはなかったなって。なので、自分の世界で自分と向き合って戦っている学生がいることに本当に驚きました。それが僕たちに大きな感動を与えて、僕と千鎖ちゃんがこれまで試したことのない語りのスタイルに挑戦するきっかけになったんです。歌と言葉の力で、そのイラストを描いた学生さんに、戦いを挑みにいったような感覚で曲を作りました。

──それってもしかして?

アマアラシ:そうです。冒頭でお話しした「今まで生きていて良かったなと思いました」っていう言葉はこの学生さんからいただいたんです。その時に一般公募で学生限定にした意義をすごく感じましたし、チームのみんなでやって良かったと思いました。

──創作に纏わりつく苦しみという意味では、「浮きこぼれ」の元になっている池上幸輝さんのイラストも、絵を描き続ける孤独な少女の背中にスポットが当てられていることで、似た雰囲気を感じました。

アマアラシ:イラストから寂しさと同時に温かさを感じたんです。池上さんの絵には、繊細さと優しさが常に感じられるんですけど、特にこのイラストでは、少女の背中に差し込む光が印象的でした。それを見た瞬間、ずっと心の奥深くに沈んでいた「浮きこぼれ」という単語が浮かんできて。自分の過去を思い返しながらこの曲を書きました。どんなに良いことがあっても、どこかで絶望を感じがちな自分がいる。その感覚を曲に込めたかったので、大サビで希望を示した後、ギターでマイナーコードを弾くことで同時に絶望感も表現したりして。

【ミセカイ】浮きこぼれ/Ukikobore [Official Music Video]

──千鎖さんが歌以外の制作に関わっているのが新鮮ですね。

千鎖:なかでも、私にとっては「藍を見つけて」という曲がすごく印象深いんです。これは、私が初めて作詞に挑戦した曲で、そのイラストも好きだったんです。アマアラシさんに曲を作ってもらうことになった時、どう書けばいいのか、本当に悩みました。でも、最終的に出来上がった曲は、サビでアマアラシさんの声が追いかけてくるような感じで、すごくいい仕上がりになっていて。自分が書いた歌詞が初めてミセカイの作品として形作られた当時の感動は忘れられません。


【ミセカイ】藍を見つけて/Ai wo Mitsukete [Official Music Video]

──4月20日には、今作を携えた1stワンマンライブ『1st one-man live - Live Artrium -』が開催される予定です。

アマアラシ:アマアラシとして活動を始めてから4、5年経つんですけど、今まで一度もワンマンライブをやったことがなかったんです。その理由は、完璧主義な自分が、ライブという形で表現できるだけの自信がまだないと感じていたから。正直言うと今もライブを開催することには怖さがあります。でも、ここで一歩踏み出せたのは、千鎖ちゃんや信頼できるサポートメンバーと聴いてくれる人たちがいるなかで、ミセカイとして何かを表現する自信が出てきたことが大きいんだと思います。このワンマンライブには、自分自身も大きな期待をしています。

千鎖:私はこれまで弾き語りのライブは経験していましたが、ワンマンライブについては全く想像もしていませんでした。ミセカイでワンマンライブをする話が出た時、最初はかなり怖かったんです。ですが、1年半の活動を通じて、「やってみないことには分からない」と思えるようになりました。今はサポートしてくれるバンドメンバーやチームがいるので、自分らしく歌えたらと思っています。

【ミセカイ】催涙夜 / Sairuiya [Official Music Video]
【 Live Artrium 】

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