ゆうさり「私の音楽は“わかりやすさ”とは別の場所にある」 独自の美意識を形成した音楽遍歴を辿る

幽体コミュニケーションズとは「運命めいたものを感じる」

――最初に発表された楽曲「汽水」はどのようなイメージから生まれた楽曲だったんですか?

ゆうさり:Predawnの「Tunnel Light」という曲をずっと聴いていた時期があったんですけど、その曲はエレキギターのリフと、清水(美和子)さんが1個ずつ録ってサンプリングしたドラムの音が重なっている曲で。そういう宅録スピリットに触れてすごいと思ったし、そんな曲を自分でも1度作ってみたいと思って作ったのが「汽水」です。全部、宅録で作りました。あと、その頃は「ミッドウェストエモ」と呼ばれる音楽とか、American Football、名古屋のClimb The Mindや京都のcetowというバンド……そういうアルペジオをめちゃくちゃ絡めているけどクリーンで綺麗、みたいな音楽が好きだったんですよね。そういうのもあって、「アルペジオで作りたいな」という気持ちと、Predawnの存在が念頭にあって作った曲だったと思います。

――歌詞に関しては、どのようなことを考えられていましたか?

ゆうさり:私は基本的に詞が先なんですけど、たしか「汽水」は珍しく、ギターのリフが延々と流れているようなデモが先にあった気がします。そのデモを聴きながら、歌詞をくっつけた感じですね。歌詞はいつも思いついたワンフレーズをiPhoneのメモに溜めておくんですけど、「汽水」の歌詞は何から考え始めたか、あまり覚えていなくて。ただ自分でもすごく気に入っている歌詞です。イメージとしては「成仏」というか。俯瞰から見ている景色という感じがします。海があって、船が茫洋とした中をずっと進んでいく、みたいなイメージがあって……それに尽きると言えば尽きる曲ですね。

――具体的な言いたいことというよりは、イメージを捉えようとした言葉というのはすごくわかります。

ゆうさり:いわゆる街のような場所ではない場所で、ある人がずっと進んで行って、段々と「昨日と今日」というような時間軸や、自分の体の輪郭が曖昧になっていく。あと、春って私はぼーっとしてのぼせちゃうんですけど、そういうときの感覚とか、海の景色とか。そんなものが合わさって、段々と内と外がぐちゃぐちゃに混ざっていく。混沌としているというよりはすごく静かに混ざっていくイメージで、だけど、静かではあるけど確かにぐちゃぐちゃなものはある。そういう感覚を書きたかったんだと思います。漠然としたものを漠然と説明してしまって申し訳ないんですけど(笑)。

――いやいや。「汽水」は違ったということですが、先に詞があるという作り方は、ゆうさりさんにとってしっくりくるものなんですか?

ゆうさり:そうですね。曲から作ってみることもあるんですけど、「なんだこれ?」というものになっちゃうことが多くて(笑)。「気持ちを曲に込める」という感じではなく、歌詞が言っていること、その景色や心象風景、印象みたいなものを音で補完していくように曲を作ることが多いと思います。周りの空気を作るイメージで言葉に音を当てていく感じですね。

――ゆうさりさんにとって詞を書くことはどのような行為なんですか?

ゆうさり:私は部屋の片づけをするのが好きなんですけど、それと似ている感じがします。あるべきものがあるべき場所に収まったしっくり感というか。「しっくりくる」ということが大事なんですよね。そのためにやっている感じがします。バイトをしていたり、移動をしているときにハッと思い浮かんだフレーズを溜めているんですけど、その言葉の周りにある世界がなんとなく頭の中にあって、それを自分のしっくるやり方やしっくりくる言葉で整頓したい。そういうこだわりがあります。そうやってできあがったものは、私にとってあってほしいものがあってほしい場所にあるから、嬉しい。ものを綺麗に並べて嬉しいのと似ていますね(笑)。感情との直接的なリンクはあまり考えないし、あまりまだわからないんです。ただ、新しいEP(『ほとり』)に入っている「輪」という曲は、自分の中ではちょっと1歩踏み込んだ感覚があって。いわゆる感情みたいなものを見つめているような感じがするんですよね。でも結局、それも扱いたいテーマが「感情」だっただけで、やはり自分にしっくるやり方で並べて「綺麗に収まったな」と思う、そのゴールは変わらないんです。

ゆうさり(合奏) "輪" (at 東池袋 KAKULULU 2023.06.04)

――音楽を発表し始めて、聴いた人のリアクションが自分に発見や影響を与えることはありますか?

ゆうさり:YouTubeのコメントなどで感想を残してくれる人がいるんですけど、「まだ生まれていない時の感じがした」というのを見たときは「そう、そうなんだよ!」と思いました(笑)。そうやってクリティカルヒットしたときは嬉しいし、ひとりの人が「見て、思う」という順番の中に、自分の曲がピッタリくる状況があるのであれば嬉しいなと思います。例えば「朝の清冽」という曲は、「朝ですよ」というような直接的ことは何も言わずに、朝の印象をつらつらと並べつつ、自分の中と外に関して思ったことを差し込んでいったような曲なんですけど、すごく丁寧にYouTubeでコメントをしてくださった方がいて。そうやって「ちょっと言ったこと」を聴いた方の感覚に照らしてもらえることがすごく嬉しいんですよね。

ゆうさり “朝の清冽” (Official Music Video)

――なるほど。

ゆうさり:私は感覚や印象につい重きを置いて曲を書いてしまうけど、そこを拾ってもらえるのは嬉しいです。私の音楽は、わかりやすさやフックの強さ、引きの強さとは別の場所にあるものだと思うんです。でも、そこを大事にしてくれる人がいるんだなと思うと、嬉しい。

ゆうさり "汽水" with 幽体コミュニケーションズ (at 東池袋 KAKULULU 2023.06.04)

――ゆうさりさんのお名前は以前、幽体コミュニケーションズに取材をさせていただいたときに、吉居大輝さんから出てきたことがあったんです。以前、一緒に企画ライブをやられたこともあるんですよね。

ゆうさり:そうなんです。幽コミには「汽水のコピー」というタイトルのデモCDがあるんですけど、あのCDが出た頃に丁度私も、「汽水」が入った『由来』を出していて。世の中の数ある言葉の中から「汽水」をお互いにチョイスしていたことが、すごっと思って(笑)。

――たしかに。

ゆうさり:そういうのもあって、ちょっと運命めいたものを感じますね。幽コミとは、歌詞の一単語が被る、みたいなことが多くて。直接喋らなくても「わかるよ」と言い合っているような感じがします。お客さんともそうだし、同じように作っている人とも、そうとは言わなくても独特の信頼感が生まれることは、すごく幸せというか、プラスな気持ちが溜まっていく感じがします。

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