『コーチェラ 2024』超大物不足でも大健闘 地域性やジャンルを網羅したラインナップ解説

『コーチェラ 2024』ラインナップ解説

確かな存在感を示すアジア人アーティストの台頭

 昨年のコーチェラで「史上初」を実現させたもう一組のヘッドライナーといえば、アジア人アーティストとして初めての記録を打ち立てたBLACKPINKだ。ラテン系アーティストの台頭と同様に、その勢いを止めることなく、多くのアジア人アーティストが主要アクトとして名を連ねているのも今年のコーチェラの重要なトピックと言えるだろう。

 特に、日本からYOASOBIと新しい学校のリーダーズ、初音ミクの出演が決定したのは国内メディアでも広く報じられているのでご存知の方も多いのではないだろうか。今回が初出演となる前二組については、海外市場をも巻き込んだ昨年の大ブレイクが前提ではありつつ、ともに以前から一定数の海外リスナーを獲得しており、88rising主催のフェスティバルといった海外活動などを通して世界での存在感を着実に高めていった経歴の持ち主であることを踏まえると、これまでの取り組みが順当に一つの成果を結んだと言っても良いのではないか。初音ミクに関しても以前から海外での人気を確立しており、元々は2020年の時点で出演する予定だった(同年はコーチェラ自体が開催中止)ため、今回はやっと待ちに待ったステージが実現することになる。演出や選曲も含めて、一体どのようなステージが繰り広げられるのか注目したい。

ATARASHII GAKKO! - Tokyo Calling (Official Music Video)
YOASOBI「勇者」(The Brave) from『Clockenflap』2023.12.01@Central Harbourfront in Hong Kong

 また、K-POPアーティストの勢いも衰えることなく、今年はATEEZ、LE SSERAFIM、The Roseの3組がそれぞれの日程に出演を予定している。いずれもポスター2列目というメイン級の扱いであることからも、その期待値や注目度の高さが窺えるだろう。また、今や世界的人気DJとなった韓国出身のペギー・グーや、88risingとの繋がりも深いベトナム系アメリカ人R&Bシンガーのthuy、さまざまなパンジャブミュージックの大ヒット曲を擁するインド系カナダ人シンガー/ラッパーのAPディロンなど、こちらについても同様に一言では括ることのできない様々なジャンルのアーティストが今回のラインナップをしっかりと支えている。そして、なんといっても注目なのは「88RISING FUTURES」だ。詳細はまだ明らかになっていないが、これまで宇多田ヒカルやaespaのコーチェラデビューを実現させた88risingの枠ということもあり、今年も大きなサプライズに期待したいところだ。

LE SSERAFIM (르세라핌) 'UNFORGIVEN (feat. Nile Rodgers)' OFFICIAL M/V
SUMMER HIGH - AP DHILLON (Official Music Video)

今を捉えたアクトからフレンチエレクトロ勢までが集うダンスミュージック勢

 コーチェラといえば(特にEDMの台頭以降)ダンスミュージックフェスティバルとしても十分に楽しめる存在となっているが、今年は例年以上にその傾向が強いようにも感じられる。その大きな要因の一つとなっているのが、今なお勢いの止まる気配のないハウス界の新たなスターであるドム・ドラとジョン・サミットが揃って出演することだろう。両者はそれぞれ2日目と3日目に名を連ねているが、B2BセットとなるEverything Alwaysとしても初日に出演する予定となっており(しかも全てポスター2列目の表記である)、3日間を通して二人のプレイで踊り続けることができるという、ある意味では影の主役と言っても過言ではない存在となっている。また、ハウスといえば、いまやThe Rolling Stonesから映画『バービー』劇中歌の「I’m Just Ken」まで幅広い大物アーティストのリミックスを手掛ける縦横無尽なディスコハウスの使い手、Purple Disco Machineのステージも注目だ。

Dom Dolla Live @ Red Rocks Amphitheatre, Colorado 2023
John Summit Live @ ARC Music Festival Chicago
Purple Disco Machine - Bad Company (Official Video)

 また、ハウス以外のジャンルにおいても注目すべきアーティストは数多く存在する。特に、近年のUKを中心としたドラムンベース・リバイバルを象徴する大ヒット曲「Strangers」で知られるケニヤ・グレース、ラナ・デル・レイのリミックスやグライムスとの共演で知られ、DJセットというよりもビジュアルエクスペリエンスと形容したほうが良さそうな圧倒的な映像体験で話題を集めているAnyma、UKでは2万人規模の単独公演を即完させるほどのスタジアムアクトへと進化を遂げたBicepの帰還など、今このタイミングでコーチェラの舞台で見ておきたいダンスアクトが揃っている。

Anyma & Chris Avantgarde - Eternity [Live from Afterlife Tulum]

 中でも、ザ・ウィークエンドやカニエ・ウェスト、最近ではリル・ナズ・Xの最新曲「J CHRIST」のプロデュースやソングライティングにも関わったゲサフェルスタインと、最新作『Hyperdrama』に向けてTame Impalaを迎えた新曲が公開されたばかりで、こちらもザ・ウィークエンドとのコラボの噂が流れているJusticeというフレンチエレクトロを代表する2組は、今回のラインナップにおいても特に重要なダンスアクトとして配置されているように感じられる。ともにステージパフォーマンスにおいても定評を誇るため、サプライズゲストの登場を楽しみにしつつ、相当に期待しても間違いではないだろう。

Gesaffelstein & The Weeknd - Lost in the Fire (Official Video)
Justice - One Night/All Night (Starring Tame Impala) (Official Video)

 また、言わずとしれたグライムシーンのレジェンドでありつつ、現在は盟友であるJammerとともに設立した新レーベル Más Tiempoの活動などを通してハウスミュージックにも全力を注いでいるSkeptaや、昨年10年ぶりの復活を遂げたダブステップ界のレジェンド二人によるB2BセットのSkream & Bengaという、異なるジャンルの2000年代UKダンスシーンのレジェンド2組が登場するのも嬉しい限りだ。今年も(配信の)フロアから離れられずに頭を悩ませながら踊ることになるのは間違いないだろう。

Skepta - Can't Play Myself (A Tribute To Amy) (Official Video)

 さて、まだまだ触れたいトピックやアーティストは山ほど存在するのだが、本稿では一旦ここまでにしておきたい。先日、「過去10年で最もチケットのセールスが伸びていない」と報じられた今年のコーチェラのラインナップだが、ここまで書いてきたように、間違いなくその見どころは数えきれないほどに存在する(というか筆者を含め、そもそも「チケットを買う」という選択肢自体、コーチェラに参加する大多数の人々は考えていないのではないだろうか)。ぜひ、あなた自身の注目アーティストを見つけてみてほしい。

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