ブルーノ・マーズ、ファンクの渦でドームを満たした極上体験 前回を超える日本愛も大爆発

日本愛に満ちたファンサービスも

 ここまでの内容でも十分すぎるほどにファンサービスが満載なのだが、これで終わらないのがブルーノ・マーズである。1月11日に自身のInstagramに投稿された「I♥JAPAN」(※2)と書かれたTシャツを着て、右手にハローキティのぬいぐるみを抱え、ピカチュウの着ぐるみ帽子を被り、自動販売機の前で『呪術廻戦』の25巻(当時の最新刊)を読むという全体的に隙のない(?)ショットが示すように、今回の公演においてもいわゆる「ちょっとしたファンサービス」の範囲を大いに超えたパフォーマンスの数々が繰り広げられていた。

 (演奏しなかった日もあったようだが)電話の小道具を使ったドラマティックな演出が素敵な「Calling All My Lovelies」では、2018年の来日公演以来となる、歌詞の一部を〈君に会いたいよ/とても〉と日本語に置き換えたバージョンを披露。以前よりもさらに言葉のキレやハーモニーの美しさが仕上がっており、もはや最初からこういう曲だったのではないかと思うほどだ(バンドメンバーによる「日本語が話せるって言っただろう?」というドヤ顔も心なしかますます堂々としていた気がする)。

 また、セットリスト後半のバンドメンバーによるピアノソロの場面では、意外な選曲として宇多田ヒカル「First Love」のメロディが奏でられ、美しい音色とともに会場を驚きと喜びの合唱で満たしていた(別の日には米津玄師「Lemon」が選ばれることもあったようだ)。とはいえ、“意外な選曲”という点では「Marry You」の後半でシームレスに挿入されたAKB48「ヘビーローテーション」以上のものはないだろう。すでにSNSなどでご存知の方も多いかもしれないが、今回のカバーはちょっとしたワンフレーズ程度のものではなく、あのキャッチーなイントロからしっかりと再現された極めて本気度の高いもの(かなり転調するためか、切り替わる直前にはさすがにブルーノも緊張感のある表情を見せていたのが印象的だ)。しかも、ライブのハイライトを飾るほどの圧倒的な幸福感に満ちた「Marry You」のアレンジをしっかりと引き継ぎ、観客の凄まじい大合唱によってそのエネルギーを何倍にも増幅させてしまうという離れ業を決めてみせた(サビのレスポンスパートを完全に観客に任せるつくりになっていたあたり、おそらく観客の大部分が「このパートを歌う」ということを前提にして組み込まれているのが凄まじい)。まさに、ブルーノの日本への愛情と理解、何よりエンターテイナーとしてのプロフェッショナルぶりの全てが極めて高い次元で結びついた瞬間であると言っても過言ではないだろう。

 また、細かな配慮として印象的だったのは、後半に用意された、自身がソングライティングや客演で関わった楽曲のピアノ弾き語りコーナーにおける導入部分である。この時間はちょっとしたゲーム形式となっており、ブルーノが演奏する楽曲を観客が歌えたら観客側に1ポイントという流れで進んでいくのだが(もちろん審判はブルーノである)、前回はそのルールを英語で丁寧に説明していたのに対して、今回はまず最初に「ブルーノ・カラオケ!」とコーナータイトルを告げてから行われたのである。身も蓋もない言い方をすれば、このコーナーの目的は自身のヒット曲を観客に歌ってもらうことにあるわけだが、「カラオケ」という言葉を使うだけで、仮に説明が(言語的な要因で)わからなかったとしても、やりたいことがぐっと伝わりやすくなり、会場全体のギャップが生まれにくい状況を作っているということに感心させられたし、これもおそらくは、前回の公演の反応を踏まえて検討されたものなのだろう。そうした工夫も相まってか、コーナーの1曲目を飾るシーロー・グリーン「F**k You」では見事な大合唱が東京ドームに炸裂していた(しばらくの間はこれ以上のボリュームのFワードを聞くことはないだろう)。また、同コーナーで名曲「Grenade」が披露された際には「ちょっと待って。この曲にはスモークが必要だ!」とわざわざ弾き語りにも関わらずスモークを大量に焚いてから歌い、観客に笑いをもたらしてくれたのもブルーノらしいユーモラスな瞬間だった(実際に歌い始めると一瞬でその世界に引き込まれてしまうのだから末恐ろしい)。

 ここまで主にファンサービスについて取り上げてきたが、改めて念を押しておきたいのが、こうした嬉しいサプライズの一つひとつが、スター性と親しみやすさの間のスイートスポットを射抜く驚異的なバランス感覚と、圧倒的なアーティストとしてのスキルに基づいて成立しているということだ。日本のアイドル文化が生んだJ-POPの名曲を世界最高峰のバンドメンバーとともに本気で披露し、「Calling All My Lovelies」の日本語バージョンを原曲と同様の熱量でエモーショナルに歌い上げ、ライブの後半にはJ-POPの名曲のメロディで観客を癒やす。しかもそれが、「24K Magic」や「Finesse」といった世界最強クラスのファンクポップの名曲たちのパフォーマンスと共存している。本人は悠々とやってみせるが、明らかにとんでもないことをやっている。言わば、今回の来日公演は「ブルーノ・マーズの日本公演」という命題に対する、ブルーノ自身が出した最適解だ。

高まり続けるであろうエンターテインメントとしての圧倒的な強度

 そんな凄まじいライブのクライマックスを飾るのは、やはりこれまでと同様に「Locked Out Of Heaven」と「Just The Way You Are」というキャリア屈指のキラーチューン2連発であり、もしかしたら、この場に集まっていた人の多くはその後にさらに「Uptown Funk」の炎が飛び交う特大ファンクパーティが待っていることを知っていたかもしれない。だが、本編の弩級のエンターテインメントをこれでもかと浴びた上で、さらにこのポジティブさを誇るアンセム群を浴びると、あまりの快楽ぶりに果たしてこれ以上の体験があるのだろうかと感じてしまう。

 正直に言えば、今回の来日公演に参加するまでは「前回とは違った演出やセットリストだったらいいな」と願望を抱いていた部分もあった。だが、「Uptown Funk」で汗だくになった身体を規制退場をのんびり待ちながらクールダウンしていた頃には、そんなこともすっかり忘れてしまっていた。改めて考えてみると、数年にわたって続けられてきたフォーマットや、一つの会場を中心に長期間披露されるスケジュール、日々のフィードバックを経て少しずつ調整されていくスタイル、観るごとに新たな発見のある楽しみ方、あるいは話題が話題を呼んでどんどん規模が大きくなっていく構図など、さまざまな意味において、今のブルーノ・マーズのライブはいわゆる「ポップミュージックのコンサート」というよりも、ミュージカルや舞台の名作に近いものであることに気づかされる。言わば、そこにあるのは長く人々に愛される圧倒的な強度を誇るエンターテインメントだ(さらに言えば、長期間のスケジュールを完遂できる体力と、多くの公演をこなしても演者自身に過度な負担を強いられることのない持続可能性も強調しておきたい)。今回の来日公演を通して感じたのは、もしかしたら今のブルーノ・マーズには、それに近いことができてしまっているのかもしれないということだ。

 筆者はこれまでに色々な海外アーティストの来日公演を観てきたが、もし普段洋楽を聴かないという人に一つライブを勧めるのであれば、まず間違いなくブルーノ・マーズを選ぶだろう。理由は、誰もが馴染めるであろう間口の広さや親しみやすさがあり、それでいて掘り下げがいのある奥深い魅力があり、そのバランスが極めて優れていて、時代を問わない普遍性があり、常にパフォーマンスが高いレベルで安定しているから。ブルーノ・マーズとは、まさに究極のエンターテイナーなのである。

 ……いや、せっかくなのでここでは22日のXにも投稿されていた、「True Kawaii King」(※3)という称号を授けたいと思う。きっとそんな称号を持つ存在は、上記で書いたような性質を満たしているのではないかとも思えるからだ。このXの映像を観ていると、それほど遠くない未来に、もっともっとたくさんの観客を見事に魅了してみせるブルーノ・マーズの姿が想像できてしまうのは、筆者だけではないだろう。

※1:https://realsound.jp/2022/11/post-1164547.html
※2:https://www.instagram.com/p/C18QFJvvzUn/
※3:https://twitter.com/BrunoMars/status/1749253997624697257

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