Mr.Children 桜井和寿が描く“男”の手放せないものへの葛藤 『miss you』で剥き出しになった青さの正体

 かまってほしいという願望は、肥大すれば孤独の大きな要因となり、深い闇に突き落とすほどの威力を発揮する。好きな人に愛されたいとか、何者かになりたいとか、賞賛されたいとか。こうした欲求が満たされずに焦燥したり不安に駆られることはあるが、その欲求の核を辿っていけば大概が「かまってちょーだい!」というシンプルな感情だったりするものだ。もちろん悩みの大小はそれぞれ違うし、決してその悩み自体を軽んじているわけではないのだけれど、だからこそ人間の中に潜むかまってほしいという欲望を舐めてはいけない。

 Mr.Childrenを聴きながらそんなことを思っていた。なぜなら桜井和寿が歌詞にしてきた“男”は、極度のかまってちゃんだから。特に90年代後半〜00年前半、アルバムでいえば『深海』『BOLERO』『DISCOVERY』『Q』『IT'S A WONDERFUL WORLD』あたりは目を見張るものがある。社会に中指を立てながら労働をこなし、警戒心は強いわりに愛されたい願望もそれなりにあって、いろんな女に出会っては、散々セックスして、本物っぽい恋愛を見つけたと思ったら、他に浮ついて、浮つくどころか本当に心変わりしちゃったりして、そしてまた真実の愛を渇望する。承認というより、“かまってちゃん”もしくは“かまちょ”の方がしっくりくる感じの欲求だ。大人になっても(というかだからこそ)自分を認めてくれる相手から何かとかまってもらえることは、生きるモチベーションすら上がるものなんだろうなと、ミスチルから学ぶ。

 しかし、女サイドで聴けばとても冷静ではいられない。「めんどくさい男!」と憤って終われるならまだいい。が、〈償うことさえできずに今日も傷みを抱き〉(「Tomorrow never knows」)や〈あと どのくらいすれば忘れられんのだろう?/過去の自分に向けた この後悔と憎悪〉(「NOT FOUND」)という一節からは十字架を背負って生きていることも匂わせるし、感傷的だし、陰鬱としてるし、ひとりにさせたらどうなるかわからないウサギのような男でなんだか見放せない。それどころか、自分の中にある小さな母性がくすぐられてしまうから困る(同時にそんな自分の愚かさに途方に暮れる)。これもミスチルマジックなのだろう。

Mr.Children 「Tomorrow never knows」 MUSIC VIDEO
Mr.Children 「NOT FOUND」 MUSIC VIDEO

 だが、そんな男もまた時間の流れとともに大人になるようだ。アルバム『HOME』(2007年)以降に出てくる登場人物は、まるで裏漉しされたかのごとくきめ細かくて雑味がない。〈僕のした単純作業が この世界を回り回って/まだ出会ったこともない人の笑い声を作ってゆく〉(「彩り」)とか〈世知辛い時代だとアナウンスされてるけど/君と過ごした時間があるから 僕は恵まれてるって言える〉(「やわらかい風」)とか〈Wow… Oh Wow/君にエールを!/Wow… Oh Wow 立ち止まってないで先に進もう〉(「Happy Song」)とか〈飛び込んでくる嫌なニュースに心痛めて/また時にはちっちゃな事で笑い転げて/一緒に生きていく日々のエピソードが特別に大きな意味を持ってる〉(「Your Song」)とか。かつてとは異なる、老若男女から愛されそうな大衆性の高さ。

Mr.Children 「彩り」 MUSIC VIDEO
Mr.Children「Your Song」MV

 過去作を聴いている身からすれば「遊び尽くした末に家族を築いて人生を落ち着かせたアラフォー男」という感じだ。“社会”とか“人間”とか“愛”とかそういう大きなものではなく、生活の中で目に入るささやかな事柄や人に目線が向いていて、そういったあたりからも人生をひと区切りさせた人間ならではの余裕を感じる。若気の至りがなくなったというか、横暴さがなくなったというか。

 いつまでも青いままではいられないのもわかるし、他者のことを思いやれる上にポジティビティも手に入れたこの男の成長には感嘆するが、本能では「もっとエゴ全開にしてこちらを突き放してほしい……」とあの頃を求めてしまうのも事実。

 そう思っていたら、久々にガツンと動揺させてきたのが最新作『miss you』だった。

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