関取 花「ようやく理想の曲作りができた」 フォークからオルタナまで“好き”と向き合えた手応え
「今までの曲が自信や誇りに変わっていくのを体感できた」
ーー次は「ナナ」の話を聞きたいんですけど、この曲も写真集『Nana』にインスパイアされて作るという、初めての作り方だったんじゃないでしょうか。
関取:そうですね。 きっかけは『Nana』を撮った大畑陽子さんのお家に遊びに行ったことで。もともと媒体の取材の時に撮ってもらったフォトグラファーさんで、写真も人柄もすごく素敵な方だったので、メジャーデビュータイミングでも「もう1回撮ってもらいたい!」と言って、撮影していただいたりしたんです。お家に遊びに行ったのはちょうど『Nana』を出された直後のタイミングだったので、大畑さんの手から直接買わせてもらって、持って帰って家で見たんです。そしたら、もう涙が溢れ出てきてしまって。パッと閉じて、気づいたら机の横にあるギターを持って歌詞が出てきた感じですね。
ーー『Nana』から受けた衝撃ってどういうものなんでしょう?
関取:もう写真集を見てほしいに尽きちゃうんですけど……大畑さんのご近所に住んでるナナちゃんっていう女の子がいて、一緒に育ってきた17歳も年が離れた友達なんです。大畑さんがプロになる前から撮ってきたナナちゃんの姿が写真集になっているんですけど、年の離れた友達っていう絶妙な距離感だからこそ、逆にリアルに写っているのがすごく面白くて。ナナちゃん、最初はカメラの前でもふざけたりして無邪気なんですよ。でもページをめくっていくたびに、少しずつ成長して、カメラに向かって笑うのに照れが出てきたりするんですよね。カメラを見る時もちょっと顔が決まってくるようになったりとか。途中で白紙になっている見開きのページがあるんですけど、そこまではまだ、無邪気な“少女”なんです。でも、その白紙のページをめくると、もう制服を着て、きっと髪も自分でセットして、メイクもしているんだろうなっていう“女性”に変わっていくんです。すごく美人さんなんですよ。でも、こんなに綺麗な女性になったんだっていう喜びの一方で、「あのナナちゃんいなくなっちゃった……」って寂しく思う自分もいて。それで、「ナナちゃんの中に自分の姿を見ていたんだ」ってことに気がついたんです。
ーーなるほど。
関取:レコーディング現場にもその写真集を持っていったんですけど、りっちゃん(岡田梨沙/Dr)はすぐに私の感覚をわかってくれて。でも、これって女の子特有の共感なのかな? と思ったら、男性陣(加藤綾太/Gt、藤原寛/Ba)もすごく共感してくれました。男性もきっと何かを捨てて“男らしさ”的なものを得てきたんだと思うんですけど、そういう人生の美しい切り取り方の中に、やっぱり自分を見てしまうものなんですよね。
ーーその感覚は、最後1行〈ナナ 君は誰だったの〉に強く表れていますね。
関取:はい。ナナっていう女の子の物語に徹するなら、〈名前も知らない木の下で〉で終わらせた方がわかりやすいんですけど、何かを通して自分を見ているっていうことにハッとしてほしいなと思ったので、最後の一行まで入れたいなと。そういうことに気づけた自分が好きだし、気づかせてくれる作品や人に出会えたこと、写真集を見た衝撃まで残しておきたくて、いろんな意味を込めて最後の一行をつけました。
ーーしかも「ナナ」っていう固有名詞がタイトルになることで、逆に普遍性を際立たせていてますよね。具体的な街の曲を聴いていて、その土地のことは全く知らないのになぜか自分の街の歌に聴こえてくる感覚と似てるなって。
関取:確かにそうですね。それこそ去年「明大前」を歌えたのが大きいんだと思います。明大前駅の線路の風景や、踏切のなかなか開かない感じとかを知らない人にもちゃんと伝わるものは伝わるんだっていう実感があったから、臆せず「ナナ」が書けたのかなって。
ーーそして「メモリーちゃん」はドラマ『カメラ、はじめてもいいですか?』あってこその曲だと思いますが、過去の話をしてるのに、今の曲にしか聴こえてこないっていう面白さがありました。
関取:まさにそうなんです。過去の話は過去形に、現在のことは現在進行形にしちゃった方が解像度が高くなってわかりやすいのかなって思ったんですけど、なんとなくどちらにもしたくなくて。「あの頃から今まで、ずっとそうだよ」っていう感覚で、英語で「have been」で表現するような現在完了形に近いニュアンスで書いていきました。
ーー例えば、「今をください」は“今”というニュアンスをちゃんと楽曲に落とし込むことで自然と未来に向いた歌になっていましたし、「明大前」では“現在から見た過去”という視点が面白かったと思うんです。だからこそ現在完了的に、過去から今にかけてをひっくるめてスッと出している「メモリーちゃん」はさらに新しいなって思いました。
関取:やっぱりそれも、今をちゃんと愛せるようになったから書けたのかなって思います。今の自分にちょっとでも自信がないと、どうしても過去のことを歌うしかなかったり、自分の中で物語として繋がらなかったりするんですよ。けど、そういう迷いを取っ払えて視界がクリアになったことで、目で見たものをそのまま書くことが一番クリティカルなんだって思えたんです。「そのまま書く」って、なんとなく努力していない、頭使うことをサボってるような気がしていたので今までできなかったんですけど、それもちゃんと自分らしい曲作りとしてできるようになりました。
ーーきっと過去のディスコグラフィが説明材料になってくれてるのも大きいんじゃないでしょうか。
関取:それはありますね。弾き語りツアー(『関取独走』)を4〜7月まで回って、かなりの曲数を網羅して歌ったんですよ。改めてお客さんの前で“あの頃の自分”を歌ってみて、「そうそう、この曲があるから今の自分があるんだな」ってことを歌いながら実感できたんです。信太さん(インタビュアー)がおっしゃった通り、今までの曲が自信や誇りに変わっていくのを体感できたのは大きかったです。やっぱり、歌うとわかるものなんですよね。
UKロックやNirvanaなどの“原点”から生まれたサウンド
ーーそういう意味でもライブって大切なんですね。あえて聞きますが、「メモリーちゃん」で一番歌いたかったことを言葉にしてみると何だと思いますか?
関取:“言いたいことがない”ってことを言いたかった気がしますね。カメラをテーマにしたドラマの主題歌ですけど、だいぶ前に私も、近所の不思議なおじさんがやってる小物屋さんでフィルムカメラを買って、いまだに友達と遊びに行く時に持ち歩いたりするんです。フィルムでパシャパシャ撮って、スマホで撮った写真と見比べたりしてるんですけど、スマホの方が意外と表情が良くないんですよ。たぶん撮ってすぐ確認できちゃうから。でもフィルムって現像するまでわかんないからこそ特別なものが撮れるし、何枚も同じものを撮ったりブレてるくらいの方が、「なんか、こんな感じで遊んだ日あったな」って思い出せるというか。いいポージングを決めるとか、何かを学んだとかそういうことじゃなくて、その日に流れてた曲とか、風の匂いとか温度とか、そういうものを思い出せるのが、私にとってのカメラの良さなので。その一番愛しい部分をそのまま曲にしようと思ったんです。
ーー「メモリーちゃん」は80年代UKのニューウェイブっぽいギターサウンドになっているじゃないですか。きっとそれは関取さんの記憶の中にある“キラキラした思い出のサウンド”を具現化したからなんじゃないかって思ったんです。
関取:ああ、まさにUKっぽくしたいって話してました! ギターの加藤くんはTHE 2やポニーテールスクライムのギタリストですけど、そういうバンドの音がやっぱり好きで。加藤くんとは10代の頃に知り合っていたんですけど、去年彼のライブを観て、なんて素晴らしいギタリストなんだろうと感動して、ぜひ一緒にやりたいなっていう流れになって連絡したんです。
ーー関取さんのルーツの中で、実はロックバンドって大きいですもんね。
関取:そうそう。取材だと「今やっている音楽のルーツは何ですか?」みたいな聞かれ方が多いから、意外と話す機会は少なかったんですけど、音楽を夢中で聴く入口になったのはバンドの曲なので。けどバンドサウンドって、アコースティックギターを持って一人でイベントに出ることが多かった私としては、明らかに再現できないものだったんですよね。そうなると「やりたいことよりもやれることを突き詰めなきゃ」っていう思考で、ジョニ・ミッチェルとかキャロル・キングとか、シンガーソングライターの曲をよく聴くようになって。もちろん「こんな音楽があったんだ!」と思ってめちゃくちゃ夢中になって聴き込んだんですけど、ある意味、そういう自覚がある状態で聴いていったルーツではあるんです。全く無自覚だった頃、放課後に友達とマックでポテト食べてたみたいな時期に何を聴いてたかというと、UKのバンドの音楽なんです。やっぱりThe Stone Rosesとか大好きですし。
ーー「ナナ」も「メモリーちゃん」と同じ編成ですが、もう少し90年代のオルタナ寄りなギターサウンドですよね。喪失の匂いもする、少し不穏さを含む曲だから、「ナナ」にはこのギターの音色がすごく合ってるなと思いました。
関取:嬉しいです。オルタナっぽいイメージはまさにあって、この曲を作ってた時期はNirvanaとかをよく聴いていたんです。少ない音数で表現できるバンドサウンドってやっぱりかっこいいし、3ピースで鍵盤のないロックバンドの曲をもうちょっと聴こうって思ったりしていたので。そしたら、サポートメンバーも欲しかった音をちゃんと鳴らしてくれたから、歌入れまでスムーズで。「ナナ」も「メモリーちゃん」もレコーディングで2回しか歌ってないんです。
ーーあらゆる面で“やりたいこと”を具現化できた制作だったんですね。冒頭で、自分のことを好きになれるから音楽を作っているという話もありましたけど、『メモリーちゃんズ』ができたことで、自分のどんなところを好きになれたと言えそうですか?
関取:うーん……答えになってるかわからないですけど、私は今回、めっちゃ自分のファンだなって気づけました。今までは、自分の頑張りを知ってるから、それを肯定してあげることで自分を好きになれていたんです。でも、リスナーとして自分の曲を聴いてみた時に、どんな過去を持ってる人なのかよく知らなくても、「この人の曲めっちゃ好きだわ!」って言えるなって思えたのは大きいですね。その感覚は意外となかったかもしれない。
ーーだって新曲もライブ音源もMCも入っていて、“全部盛り”なEPですからね。ある意味ファンじゃないと作れない作品ですよ。
関取:確かにそうですね(笑)。
ーーそれを迷いなく出せたことが素晴らしいなと思います。
関取:自分でもすごくいいモードだと実感しています。実はストックの曲が何曲もあるっていうのは、私のキャリアを見渡してもなかなかなかったことなので。これから出ていく曲も楽しみにしていてほしいですね。
■リリース情報
『メモリーちゃんズ』
2023年11月15日(水)発売
PROS-1029 ¥1,500(税込)
※ユニバーサルミュージックストア、およびライブ会場限定販売
※紙ジャケット仕様
予約:https://store.universal-music.co.jp/product/pros1029/
<収録曲>
1.メモリーちゃん(ドラマ「カメラ、はじめてもいいですか?」主題歌)
2.ナナ
3.すきのうた
4.障子の穴から(関取独走 ver.)
5.明大前(関取独走 ver.)
6.おまけMC
■ツアー情報
『関取 花 2023 ツアー “関取二人三脚”』
出演:関取 花、谷口 雄
【チケット料金】
全自由:¥4,500(税込)
当日券:¥5,000(税込)
※ドリンク代別
【チケット情報】
一般発売受付中
※発券は電子チケット・紙チケットにて、公演の一週間前を予定。
※1人4枚まで。3歳以上チケット必要。(入場に関する年齢制限なし)
【公演日程/会場】
11/25(土)開場 17:00/開演 18:00
会場:ダンスホール新世紀
〒110-0003 東京都台東区根岸1丁目1番14号
http://bossiweb.com/shinseiki/
12/9(土)開場 17:00/開演 18:00
会場:京都磔磔
〒600-8061 京都府京都市下京区筋屋町139−4
http://www.geisya.or.jp/~takutaku/
12/10(日)開場 17:00/開演 18:00
会場:名古屋JAMMIN’
〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄2-7-1東洋パーキングビル1F
https://www.nagoya-jammin.com/