YOASOBI「勇者」「アイドル」……曲名なぜ短い? Ayaseの“要約能力”のすごさ

 言い換えれば、Ayaseのタイトルセンスとは、つまりコンテンツの最重要点を捉えることに突出して長けた主題要約力になる。そのすごさを実感するには、日頃の自身の言動を顧みるのがいちばん早い。大勢に伝わるように物事を要約する。要点のみを端的に伝える。いかにそれが難しく、レベルの高い能力であるか。一度社会経験を積んだ人間ならば、多くの場合それを痛感するシーンにこれまで何度も直面していることだろう。

YOASOBI「アイドル」(Idol) from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』2023.6.4@さいたまスーパーアリーナ

 とはいえ、このAyaseの――ひいてはYOASOBIの制作手法は、言うなれば非常に“二次創作的”な音楽の作り方でもある。オマージュ、パロディ、インスパイア……さまざまな呼称はあれど、要は0を1にするのではなく、1を10や100にする手法だ。音楽に限らず創作の世界は、大前提として完全オリジナル/一次創作こそ至上とする考え方が根底にある。二次創作的なものづくりは極論、虎の威を借る狐でしかない。そんな価値観を持つ人々も、きっと少なからず居るのではないだろうか。

 しかし、AyaseがYOASOBI楽曲でここまで類稀な才能を発揮し、加えてそれがこんなにもワールドワイドな社会現象を巻き起こす様を見ると、創作の次元の差に優劣などないということを強く実感する。発想のアプローチひとつをとっても、必要とされる能力の質がこれだけ違う。同じ創作といえど、それらは完全に別物として取り扱うべき事象だということがよくわかるからである。

 加えて二次創作的な制作を行うとしても、それが公式作品として作られる以上、独り善がりな自身の趣味嗜好に準拠する解釈はご法度だ。コンテンツに対し大衆的に理解と共感を呼ぶ普遍的な解釈と独創性ある視点を両立させたうえで、創作を行う。その難しさを知る人々からすれば、そういった点でもAyaseのずば抜けた才能は充分評価に値するものだろう。そして、それこそが現代の日本の音楽シーンにおいてYOASOBIというユニットがここまで大きな特異点ともなった理由のひとつなのかもしれない。

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