さだまさし、後世に与えてきた刺激 14組のアーティストが再解釈した『みんなのさだ』レビュー

 本作『みんなのさだ』において、もっとも強いインパクトを放っているのはMOROHAによる「新約『償い』」(MOROHA)だろう。原曲「償い」は、「交通事故の加害者となった男性が、自分の犯した罪を償うために、被害者の妻に毎月お金を送り続ける」という実話をもとにした楽曲。MOROHAはこの曲を換骨奪胎し、家庭内クラスターで祖父を亡くし、“自分のせいだ”と思い込んだ青年がバンド活動を辞め、もう二度と音楽に触れないと決める姿を描いてみせる。いわば「償い」からインスパイアされて制作された令和版「償い」なのだ。もちろん賛否両論あるだろうが、自らの表現に向き合うMOROHAの姿勢は、歌のテーマを大きく広げ続けてきたさだのキャリアとも重なっている。

『新約「償い」』 MOROHAアフロ×さだまさし 対談ムービー

 さらに、“話すように歌う”ボーカルスタイルをたっぷりと堪能できる「案山子」(槇原敬之)、現代的なR&Bのテイストを取り入れた「風に立つライオン」(三浦大知)、アコースティックギターの弾き語りで楽曲のストーリーを丁寧に紡ぎ出した「雨やどり」(福山雅治)、濃密なブルースをたたえた歌声に心を打たれる「まほろば」(T字路s)、誰もが知る“名メロディ”をクラシカルに描き出した「北の国から〜遙かなる大地より〜」(葉加瀬太郎)、ポップな手触りのバンドサウンドで聴かせる「関白宣言」(wacci)、エキゾチックな音像のなかで、憂いと力強さを併せ持った歌が広がる「防人の詩」(琴音)、そして、“なぜ私は歌うのか”と向き合いながら、神聖なパワーを備えたボーカルを高らかに響かせる「虹〜ヒーロー〜」(MISIA)も収録されている。

 このトリビュートアルバムが証明しているのは、現在の音楽シーンに対する、さだまさしの音楽の影響の大きさだ。核になっているのは、豊かな物語と普遍的なメッセージを含んだ歌詞。日本語の響きを活かしながら、時代的な背景を感じさせつつ、タイムレスな歌へと導くさだの楽曲は、ジャンルや世代を超え、多くのミュージシャンに刺激とヒントを与えてきた。その存在の大きさは、まさに『みんなのさだ』。さだの功績はもちろん、音楽的な可能性も存分に感じさせてくれる優れた作品だと思う。

『みんなのさだ』

■リリース情報
デビュー50周年記念トリビュートアルバム
『みんなのさだ』
10月25日(水)発売
¥3,850(税込)
<収録曲>
01   道化師のソネット/ゆず
02   案山子/槇原敬之
03   秋桜/上白石萌音
04   風に立つライオン/三浦大知
05   雨やどり/福山雅治
06   精霊流し/高橋優
07   主人公/折坂悠太
08   修二会/木村カエラ
09   新約「償い」/MOROHA
10   まほろば/T字路s
11   北の国から~遙かなる大地より~/葉加瀬太郎
12   関白宣言/wacci
13   防人の詩/琴音
14   虹~ヒーロー~/MISIA

■コンサート情報
『さだまさし50th Anniversary コンサートツアー~なつかしい未来~』
スケジュール詳細
https://masasingtown.com/contents/concert

さだまさし 公式ホームページ

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