『いちばんすきな花』音楽演出を考える 藤井 風「花」、カラオケシーン……『silent』チームの手腕が光るポイント
現在フジテレビ系列にて木曜22時より放送中のドラマ『いちばんすきな花』。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠のクアトロ主演で綴られる、“男女の間の友情は成立するのか”という命題についての物語である。昨年の大ヒットドラマ『silent』(フジテレビ系)の制作チームが再度集結した本作は放送開始前から注目を集めていた。本稿では『silent』でもこだわりが感じられた、ドラマ『いちばんすきな花』を彩る音楽の演出を紐解いていきたい。
本作の主題歌は藤井 風が書き下ろした「花」だ。リラックスしたムードのなかで淡々と情感を積み上げる穏やかな一曲であり、この楽曲が流れるタイミングに制作陣の強いこだわりが感じられる。
第1話ではゆくえ(多部未華子)、椿(松下洸平)、夜々(今田美桜)、紅葉(神尾楓珠)の4人が椿の家に集まり、それぞれの「2人組を作ることができなかった」という過去を語り合ったシーンのあとに「花」が流れた。ゆくえが呟いた「4人全員、余っちゃったひとり」という台詞から間髪入れずにイントロが鳴る。登場人物4人が痛いところを突かれたような表情で、互いの共通項を静かに受け止めているシーンだった。
そして第2話では、ゆくえと夜々の帰路のシーンで流れる。椿の家で繰り広げた4人の会話のなかで、ゆくえの考えにシンパシーを抱いていたことを後出しジャンケンのように明かした夜々が、別れ際に手を振る。そこに後出しジャンケンのようにチョキを出したゆくえが「勝った!」と笑いながら言い、夜々が「負けた」と微笑んだあとで「花」のイントロが鳴る。語り合うことによって互いの心が解けるようなシーンを彩っていた。
ここまでの1話、2話を振り返ると登場人物の心象風景が静かに、しかしたしかに動いたことの合図のように「花」のイントロが流れていることがわかる。得田真裕が手掛ける劇伴がドラマチックで切なげなぶん、「花」の妖しげでスタイリッシュなイントロが空気を一変させるように感じる。登場人物の内側から関係性に変化が生じる、その微細な高揚感を演出するのが「花」の役割なのだろう。
『silent』の主題歌だったOfficial髭男dism「Subtitle」がそのシーンで巻き起こった感情を強く印象づける楽曲だったとするならば、「花」はさりげない感情の変わり目をそっと色づける。淡々とした会話が重ねられる『いちばんすきな花』に寄り添った演出アプローチと言える。〈咲かせにいくよ 内なる花を〉という心の動きにフォーカスした歌詞もまた、回を重ねるごとにその意味合いを深めていくはずだ。