伊藤美来×坂部剛、「ワタシイロ」での出会いから「点と線」での再会 共鳴した“ポジティブさ”
伊藤美来が、11thシングル『点と線』をリリースした。表題曲はアニメ『星屑テレパス』のオープニング主題歌を担当。作曲・編曲を坂部剛、作詞を渡部紫緒が手掛けている。
坂部剛と渡部紫緒は、伊藤美来が2017年にリリースした記念すべき1stアルバム『水彩 〜aquaveil〜』収録の「ワタシイロ」も制作したコンビ。同曲は歌手デビュー初期の彼女の等身大の姿を感じられる一曲で、リリースから現在までライブでも大切に歌われてきた楽曲となる。
リアルサウンドでは、伊藤美来と坂部剛の対談を企画。「ワタシイロ」での出会いから、久々のレコーディングとなった「点と線」の制作エピソード、坂部が感じた彼女の歌手としての成長についてなどを語り合ってもらった。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報】
年齢を重ねていく中でメロディラインの意味が沁みてきた(伊藤)
ーーまずは、6年前に発表された伊藤さんの1stアルバム『水彩~aquaveil~』に収録された、坂部さん作曲・編曲の「ワタシイロ」についてお話を伺わせてください。当時、坂部さんはどういった経緯で伊藤さんに楽曲提供することになったんですか?
伊藤美来(以下、伊藤):ああ、知りたい。そういうお話は聞いたことがないので。
坂部剛(以下、坂部):まず、伊藤さんのディレクターさんからお話をいただきまして。僕自身、同じレーベルに所属する内田彩さんの楽曲を過去にいくつか手がけていたり、2013年に放送された『デート・ア・ライブ』というアニメのサウンドトラックで伊藤さんのディレクターさんとご一緒したことがあったんです。アルバムの制作に際して、そのリード曲とメロディを用いたBGMが必要ということで、お声掛けいただいたようです。
ーー当時、伊藤さんのことは存じていたんですか?
坂部:実は知っていました。
伊藤:えっ?
坂部:僕、『帰宅部活動記録』(2013年7~10月放送)というアニメの音楽を手がけていまして。
伊藤:あ、私(その作品に)朱雀役で出ていました! 私のアニメデビュー作なんです!
坂部:そうだったんですね。僕はあの作品がすごく好きだったので、楽曲提供のお話をいただいたときに「名前を聞いたことがあるな……」と思ったんです。
伊藤:そんなところでつながっていたなんて、うれしい。しかも、知ってくれていた上でオファーを受けてくださったんですね。
ーー伊藤さん自身、1stアルバム『水彩~aquaveil~』制作時はどんな作品にしたいなと考えていましたか?
伊藤:当時はアーティストデビューしてまだ1年経っていなかったので、右も左もわからないまま時間が過ぎていった感じで、スタッフさんたちが思い描いてくれている伊藤美来の音楽像についていこう、みたいな気持ちが大きかったです。なので、自分から意見を出したりというよりは、自分を固めるために皆さんの意見を取り入れて、まずはそこをクリアしていこう、ちゃんと歌おうという気持ちで向き合ったアルバムでした。
ーー坂部さんは「ワタシイロ」制作に対して、スタッフさんからどんなオーダーがあったか覚えていますか?
坂部:先程お話ししたように、アルバムのリード曲になることとMVを制作する予定があるとお聞きしていました。確か「等身大の伊藤美来」を表すような楽曲というお話で、その上でポップでテンポもそこまで速くなく、お客さんと一体感が作れるようなものということで、リファレンスとなるような既存のヒット曲をいただいたんです。
伊藤:「ワタシイロ」をいただいた頃の私はまだ20歳で、まずこの難しい曲をレコーディングで歌うことに対して心臓がバクバクで(笑)。それしか考えられなくて、歌詞を一度自分で書き写して意味を考えてみたりしたけど、全然理解できていなかったんです。でも、年齢を重ねていく中でやっと、坂部さんが作ってくださったメロディラインの意味が沁みてきたというか。そういうことをライブで何度も歌わせてもらっていくうちに深く理解できたかなと思います。
ーー実際、ライブでお客さんとの一体感を作るという意味では、そういう曲になりましたものね。
伊藤:そうですね。今もスタッフさんと一緒にライブのセットリストを考えるとき、「ワタシイロ」は大体最後に置く楽曲になっていて。歌うだけで聴いてくれているお客さんたちがフワーっと、何かが浄化されていくような雰囲気というか……私も含めてですけど、聴いたみんなが自分自身と向き合いながらもしっかり前を向けるメッセージ性のある曲になっているんじゃないかと思います。
ーー坂部さん、実際に完成した「ワタシイロ」を聴いていかがでしたか?
坂部:伊藤さんの等身大の部分がしっかり表れていて、いい曲に仕上がったなと思いましたよ。
伊藤:よかった。安心しました(笑)。私自身は年齢を重ねているはずなのに、今も飾らず等身大で歌えますし、その時々によって感じ方も変わる楽曲だなと思います。かつ、『水彩~aquaveil~』を完成させて、伊藤美来がアーティストとして活動していく上でのひとつの軸というか、こういうコンセプトでやっていけたらいいなというものが見えてきたタイミングでもあったので、それを手助けしてくれた楽曲たちの中では「ワタシイロ」が一番「これでいいんだよ」と言ってくれた楽曲だったと思います。
坂部:うれしいですね(笑)。作家冥利に尽きます。
ーーそこから6年を経て、作詞を渡部紫緒さん、作曲・編曲を坂部さんという「ワタシイロ」と同じチームで制作されたのが、今回の新曲「点と線」です。
坂部:伊藤さんのディレクターさんから、「再び『ワタシイロ』のチームで、今度は『星屑テレパス』というアニメのオープニングテーマを作ってもらいたい」という連絡をもらったんです。
ーー楽曲のテーマやイメージについて、何か話し合いはありましたか?
坂部:アニメの制作側から、「女子高生が朝目覚めて夜寝るまでの日常の流れを表現してほしい」という話がありました。
伊藤:なるほど。確かに、最初は明るくフワッとした朝陽みたいな感じから始まりますし。
坂部:かつ、僕は宇宙がすごく好きで、『星屑テレパス』も宇宙が題材となっているので、そこを表現できたらなと思ったんです。原作を読ませていただくと、主人公は伝えたいことをたくさん抱えているんだけどコミュニケーションをとることが苦手で、でも宇宙人となら話せるはずだという気持ちを持っている。そこを曲冒頭のモールス信号のようなサウンドで表しているんです。
ーーなるほど。エレクトロテイストのミニマムなサウンドから、曲が進むにつれてストリングスが加わって壮大に変化していくアレンジは、確かに1日の流れを表したものにも感じられます。
坂部:ありがとうございます。宇宙に対して呼びかけているわけですが、実際にはこの子たちは自称宇宙人。なので曲の作り方としては、その呼びかけが届いているということを表現しようと思って、基本的に裏にオーケストラサウンドをレイヤーしていて、ふとしたところでそれが出てくるという作りにしています。急に壮大になったりすることで、ちょっと宇宙とつながっちゃったと感じられるような、そういうことをやってみたくて作った曲でもあります。
伊藤:こういう意図で作られていたんだということを知ると、以前とはまた違った楽しみ方ができそうですね。でも、作曲素人の私からすると、宇宙を音楽で表現することすら「どうやって?」となるのに、その方法がちゃんとあるんですね。