ザ・リーサルウェポンズ、理想全開にした新たな試み “陰キャ界の陽キャ”な実体験と連動させた仕掛けも
ザ・リーサルウェポンズがついに本性を現してきた、のかもしれない。約1年7カ月ぶりのニューアルバム『OKシンセサイザー』は、前作で展開したハードロック寄りのバンドサウンド路線ではなく、Radioheadのオマージュでもなく、キーボード中心に組み上げた極めてポップでカラフルな歌ものアルバム。策士アイキッド(Producer)のコンセプチュアルな曲作りと、サイボーグジョー(Vo)のパフォーマンスの進化は明らかで、フィーチャリングゲストを招き、外部作家に作曲を依頼するなど、新たな試みもたっぷりと仕込まれた。「陰キャ界の陽キャ」「体育会系のふりをした文科系」を自称し、日本中に隠れた同志を集めながら巨大化を続ける2023年の“ポンズ”の現在位置について、二人に話を聞いてみよう。(宮本英夫)
音楽性と制作スタイル、ともに新たな試みに挑んだ理由
――いいアルバムです。1年半以上待った甲斐がありました。前作ともまた、かなり違う顔を見せてくれていますし。
アイキッド:前回がわりと寄せ鍋というか、ギターも結構前に出してたんですけど、実はシンセのほうが好きだったりするので、今回は自分の好み全開な感じです。もともとコンビで売り出すことになった時、だいたい80年代のボーカルは隣にギターヒーローがいるんで、その役回りを演じようということで、無理してギターを弾いてたんです。でも今回はほぼシンセを弾いてるので、気が楽ですね。後ろでこういふうに(キーボードを弾く手振り)やってるのが一番楽しい。こういうフィーリング(ギターを弾く手振り)は、ないですから。
サイボーグジョー:ギター、上手になったね。
アイキッド:そうかな。
――ジョーさんもうまくなりましたよ。
サイボーグジョー:ありがとうございます。それは先生の命令だよ。「早く上手になって!」って。
アイキッド:最低限ってあるじゃないですか。そんなに期待してなかったんですけど、うまくなったし、私はギターまでうまくなった。
サイボーグジョー:ギターヒーローになったよ。
アイキッド:ギターヒーローにはなってない(笑)。なるつもりがない。
――ざっくり言うと、前作がギターをフィーチャーしたハードロック味の濃いアルバムだとすれば、今回はシンセがメインのポップアルバムです。
アイキッド:そうですね。アウトロも削ってコンパクトにして、シンセとボーカルに特化した感じです。ドラムも、リズムマシーンっぽさを思い切り出してますね。前回は、ハードロック寄りにしなきゃいけないかな? と思った時もあったんですけど。
――それは周囲からのリクエストで?
アイキッド:いや、自分の判断です。ギターを前に出そうと思ったら、どうしてもドラムは激しくなるんですけど、今回ギターが薄いので、普通のリズムボックスでもできましたね。私の理想はこっちのほうです。
――時間を遡ると、すでに1年前に「ねこねこヘヴン feat.上坂すみれ」「サムライディスコ feat.眉村ちあき」「シューティングスターレディオ feat.宇多丸、スーパー・ササダンゴ・マシン」のフィーチャリング三部作は出ていたわけで。あれを作ってる時って、もうアルバムのことは考えていましたか。
アイキッド:あの時は……いや、どっちかというと、その三部作に引っ張られて、アルバムがシンセ寄りになった感じですね。あれは「シンセウェイヴ三部作」で、あれに引っ張られて、結果的に本当に良かったなと思います。
――しかもあの三部作って、作曲も他の方に任せてましたよね。「ねこねこヘヴン」がShinnosuke(ex. SOUL'D OUT)さん、「シューティングスターレディオ」が齋藤真也さん。
アイキッド:「サムライディスコ」だけは自分で書いてますけど。ボーカリストとコラボするんだったら、作曲家さんともコラボしたかったので、自分は作詞しかしてないです。
――全部自分で、というこだわりは特にないと。
アイキッド:まったくないですね。自分はプロデューサーなんですよ。企画屋というか、音楽業界の人間かどうかも、あやしいところがあるので。作曲は全然好きじゃないので、できるんだったら、そのジャンルで自分より向いてる人に頼んだほうがいい。今まで他人と共作という経験がまったくなくて、MVも全部自分で作ってきたので、今回は人間的な成長というものができたと思います。
――それは大きい変化ですね。
アイキッド:大きいです。作家さんとメールでやりとりしながら、「こういうふうにしたいんですけど」っていう言い方も、うまくできるようになった気がします。
――ジョーさん、アルバムの中でどの曲が好きですか。
サイボーグジョー:たぶん「ウェザーリポート」が一番好き。
アイキッド:ちなみに私もそうです。
――「ウェザーリポート」、いいですよね。甘く切ない、学生時代の恋の思い出を歌うポップチューン。
アイキッド:ワインを飲む時の、チェイサーの水代わりに作った曲なんですけど、なぜか名曲が生まれてしまった。もともと2010年頃、とあるアイドル用に作った曲なんですけど、そのアイドルグループが解散しちゃって、13年間ずっと宙ぶらりんだったんですよ。どこかで供養しなきゃいけないと思って、今回差し込んでみたら、ピタッとハマりました。
サイボーグジョー:MVも大好き。
アイキッド:疲れたけどね。私の運転でロケに行ったんですけど、帰りは疲れきっちゃって。
サイボーグジョー:セーラー服でね。
――セーラー服で運転してたんですか(笑)。MVの衣装のまま。
アイキッド:対向車がみんな二度見してました。
――さすがです。そしてアルバムの曲の中で新しい展開と言うと、「仮想通貨サンバ」という、その名の通りサンバのリズムが楽しい曲があって。
アイキッド:サンバを作りたかったんですね。もともと、彼(ジョー)が仮想通貨(暗号資産)を買って、それが値下がりしたんですよ。
――実話でしたか(笑)。それ言っていいんですか。
アイキッド:いいんです。基本、ポンズはほぼ実話ですから。2021年の秋に、一番高いところで買ったあと、急に下落して、そのあとウクライナの戦争があったんで、もう全然上がらない。そんな時に彼が毎日コインチャートを見てて、仮歌を歌う時も全然気が抜けてるから、これはいけない、「よし、歌にしよう」と。
サイボーグジョー:あはは。
アイキッド:速攻書いて、「これを歌いなさい」と。これを一生歌うことによって、次に仮想通貨を買おうとする時、入金する寸前に思い出して、思いとどまってくれたらいいなと。「よく考えなさい。今でいいの?」と。
――なんて深い歌。戒めですね。
サイボーグジョー:もっと下がるよ(笑)。
アイキッド:わかんないよ。
――次のアルバムに「仮想通貨バンザイ」みたいな陽気な歌が入ってたら、あ、上がったんだなと。
サイボーグジョー:それやったら、また同じことするじゃないですか。
――そうか(笑)。焚きつけちゃいけない。