『山人音楽祭 2023』、人と人のつながりに居場所を築くロックの祝祭 G-FREAK FACTORYが“反骨と愛”で守り抜いてきたもの
G-FREAKが26年間守り抜いてきたものが形になった瞬間
山人のステージは赤城だけではない。榛名ステージでよりライブハウスに近いライブが行われていたことも「山人が帰ってきた!」と実感できた要因だった。雨バンド仲間としてG-FREAKやBRAHMANにイジられ続けたlocofrank、初日のトリを務めたことに最大限の感謝を示したTETORA、感情を全解放して爆走したAge Factory……など、どのライブも最高だったが、榛名の面白いところは思いがけないレジェンドのライブを観られることだろう。過去に山人への出演歴もあるフラワーカンパニーズはもちろん、特に驚いたのは亜無亜危異とSHERBETSが初出場でラインナップされていたことだ。「パンクロックの奴隷」をはじめ、空虚な思想や制度に惑わされることなく、個々の意志で突き進むことを鳴らす亜無亜危異のオリジナルパンク精神は、今こそ響くものがある。また、心から信じたものにこそ光や温もりが宿るのだと歌う「わらのバッグ」などを届け、浅井健一(Vo/Gt)を中心に独創的なセッションを聴かせたSHERBETSのライブも圧倒的だった。パンクやオルタナティブのど真ん中を駆け抜けてきたレジェンドが若手バンドと並列にラインナップされているのも、G-FREAKが“受け継いだもの”をリスペクトしている何よりの証だ。
そして、全てのバトンを受け取った大トリ G-FREAK FACTORYのステージは、両日とも“4年ぶりに戻ってきた”という感慨と祝祭感をしっかり伝えてくれるものだった。特に2日目、まだMC前の「らしくあれと」で〈来年も山人やるから 隠れないで帰ってこいよ〉と歌詞を変えて叫んでみせたり、「Too oLD To KNoW」で例年以上に大きな声を求めたりと、G-FREAKにとってこの舞台がどれだけ大切なものかが伝わってきた。もちろん、新曲「RED EYE BLUES」ではダブのビートに乗せて、ぐらついた日本で生きることの危機感を喉元まで突きつける。だが、世の中に中指を立てること、すなわちレベルミュージックを鳴らすことは、確かな手触りのあるものや大切な仲間を守ることと同義。だからこそ、26年間守り抜いてきたものが形となった『山人音楽祭』という居場所に、誰よりもG-FREAK自身が救われているのではないかとも感じた。
それを踏まえて印象的だったのは、2日目の「ダディ・ダーリン」。G-FREAKにとって最も大切な曲の1つである同曲には、OAUのMARTIN(Vn)とKAKUEI(Perc)、BRAHMANのTOSHI-LOWと10-FEETのTAKUMAも参加した。ここまでは予想がついたが、この後まさかの珍事が発生する。本来はエモーショナルに歌い上げるはずの2サビ終わりから、いきなり茂木とTOSHI-LOWがポエトリーリーディングのように歌詞を朗読し始め、TAKUMAが後ろで「フッフー」とコーラスを入れる……という謎展開に突入。そして自然と演奏が止まると、その静寂とシュールさに客席から笑いが起きた。まさか名曲「ダディ・ダーリン」で笑いが起きるとは思わなかったが、その光景を見て、ふと本稿でも書き連ねてきた大切なことを思い出した。今あるこの楽しさ、一緒に笑える仲間がいるという喜び。苦難を耐え抜いた先で、そのことを再確認できる場所が『山人音楽祭』なのだ。「ダディ・ダーリン」で歌われているように、そんな平和がいつか破られてしまうかもしれないし、この瞬間はただの奇跡なのかもしれない。だからこそ、そんな一瞬の奇跡をたくさんの人々と分かち合う素晴らしさをロックは歴史の中で体現してきた。今年の『山人音楽祭』に出演した全てのバンドに通ずるアティテュードである。一見すると、前述の「RED EYE BLUES」はセットリストで浮いているように感じられたかもしれないが、こうして「ダディ・ダーリン」まで一直線でつながったことこそ、反骨と愛を鳴らす『山人音楽祭』の意義そのものである。
2日目はその後、灯してきた火で自らを焚きつけるような渾身の「Fire」と、多くの出演アーティストと共に歌い上げる「日はまだ高く」で大団円。茂木はMCで、感慨深そうに「いいフェスになったよ」と語っていたが、コロナ禍を耐え抜いた先で、自然と仲間が集まってくる居場所を群馬に作れたことで、“ローカルでやり続ける覚悟”が報われた感覚があったのではないだろうか。
音楽以外にもたくさん見どころがあったことも紹介しておこう。グリーンドームに戻ったことで、フードエリアが川沿いの絶景スポットに展開され、憩いの場・集いの場としての山人が帰ってきたことも嬉しかったし、雨バンド揃いの2日目がしっかり快晴になったことも最高だった。上毛かるたをモチーフにした、各バンド入場時のオープニング映像もクールで、バンドの特徴を踏襲した絵柄の作り込みぶりに思わず感嘆した(BRAHMANがそのまま鬼の絵柄で笑ってしまったが)。また、四星球のステージで強制的に「フォー!」と叫ばされた吉橋“yossy”伸之(Ba)や、マキシマム ザ ホルモンお決まりの掛け声アクション「麺カタ・コッテリ」の後に「YAHMAN!」と叫ばされる原田季征(Gt)など、普段は見られない“イジられるG-FREAK”も山人名物。加入したてのLeo(Dr)がアグレッシブなドラミングを貫いていた一方、優しさ溢れる笑顔がメインモニターによく抜かれていたことも思い出深い。
徹底したG-FREAKのローカルマインドがもたらした『山人音楽祭 2023』の成功。どんなに辛い時も、歯を食いしばって1つでも大切なものを守れれば、それが10年後、20年後の居場所になっていく。生きづらい時代こそ、ローカルなロックフェスの重要性は再認識されるべきだし、山人から何かを受け取った人たちが“誰かにとっての居場所”になっていければ、未来は少しでも良い方へ向かうかもしれない。そんな希望を信じたくなる、かけがえのない2日間だった。
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