Ken Yokoyama、“正しい現状認識”からの挑戦 連続したシングルリリースに託すミュージシャンとしてのステートメント
レーベル直販/受注生産で販売された『Better Left Unsaid』からスタートした、Ken Yokoyamaの新たなアルバムに向けたシングルリリース。その第二弾作『My One Wish』 が9月20日にリリースされる。なぜ今この時代にKen Yokoyamaはシングルをリリースし続けるのか? 今回のインタビューでは、その挑戦の意味について迫ることになった。リアルサウンドでは今後もアルバムに向けて取材を続け、Ken Yokoyamaがバンドとして見出すもの、ミュージシャン/レーベル運営者としてロックンロールと向き合っていく姿を追っていきたい。(編集部)
僕らにとってロックンロールって生き方を変えるもの、社会を変えるもの
ーーまずは、5月20日の日比谷野音の感想からお願いします。
EKKUN:僕、野音でやるのは初めてで、やっぱり聖地的なイメージがあったから、本当にやったんだっていう達成感はありました。空がすごく広かったし、特別な景色でしたね。
Jun Gray(以下、Jun):俺は過去のバンドも含めると野音は3回目ですけど、まぁコロナの前まではモッシュとクラウドサーフが当たり前で、あそこでやることはない、できないと思ってたから。だから今回Ken Yokoyamaで野音っていうのは自分でもびっくりして。単純に楽しかったし、すげぇな、野音やっちゃうんだって。そういう思いが強かったですね。
Minami:僕もJunさんと一緒で野音は3回目なんですよ。でもKen Yokoyamaでやることは想像もしてなかったし。ただ、いざステージに立つと、これは僕の悪いところなんだけど、いつもと同じフラットな気持ちになっちゃって。
ーー新曲の「Whatcha Gonna Do」をやった後、Minamiさん「別にフツーだった」とか真顔で言ってましたよね。
Minami:そうそう(笑)。意外と素直な感想で。楽しかったですけどね。
一一はい(笑)。Kenさんの感想は?
Ken Yokoyama(以下、Ken):そうっすね。コロナがなければああいう会場で演奏することはなかったわけで。コロナを世の中的なつまずきとか転倒と考えるなら、転んでもタダでは起きなかったっていう気が、我ながらします。
一一あとは最後、左、右、真ん中と、三方に深々とおじぎをしていたのが印象的でした。ステージに立つマインドに変化があるのかなと。
Ken:そうですね。コロナで変わりましたね。あれはライブハウスでも大きい会場でも、コロナ後は毎回やるようになりました。今でこそ普通になったけれども、半年前ならリスクばりばりの場所ですよ? まだ仕事の関係上来れない人もいるだろうし。あのコロナの時期の制約、えも言われぬ恐怖感とか、すごく僕の中に刻まれてしまって。そんな中でも音楽を楽しみたい、Ken Yokoyamaのライブを観たいってわざわざ来てくれる人たちのこと、すごく嬉しいし愛しくて。最後、ちゃんとおじぎするようになりましたね。
一一そして、続く6月の『SATANIC CARNIVAL 2023』。初日にKen Yokoyamaが、2日目にはHi-STANDARDが出演して、ドラムにはEKKUNも参加しました。
Ken:うん……まぁ現状、もう少しでドラマーのオーディションの締切期限を迎えるところですけど(現在は受付終了)。でもあのタイミングで、EKKUNにも手伝ってもらってHi-STANDARDをやれたのは、僕としてはすごくよかったかな。
一一わりと早かった印象がありますけど、あまり時間を置かないほうがいいという判断でした?
Ken:いや、逆に言うとあそこしかなかったのよ。ツネ(恒岡章)と一緒にやるって約束してたのがあの『SATANIC CARNIVAL』だけで。それをなくしちゃうと、また一から発想しなきゃいけなくなるから。
一一EKKUN、よく笑顔で叩けましたね。
EKKUN:よくできました(笑)。
Ken:いろんな意味の「よく」だよ? 「よくお前やれたな?」って。
EKKUN:「よくもまぁ」っていうのも(笑)。もちろんプレッシャーはありましたけど、得られるもののほうがデカいと思って。やれてよかったです。
Ken:うん。これはハイスタの、つまり俺とナンちゃん(難波章浩)のケリのつけ方というか。ただ、Hi-STANDARDって不思議なことにみんなのバンドだから。ツネが亡くなったのが2月で、6月にはドラマー何人かの力を借りてライブをして、今はオーディションでドラムを選んでる。みなさんが「早い」って思うならそりゃ早いんだと思う。ただ、あんまりボサッとしてると俺もナンちゃんも死んじゃうから。時間がもったいない。いくら喪に服してもツネは帰ってこないから。だからなるべく動けるうちに動きたいなと思ってた。
一一わかりました。そしてニューシングルの話、まず売り方の違いから聞いていきます。前回『Better Left Unsaid』はレーベル直販で、今回の『My One Wish』は全国流通盤。これはどういう判断で?
Ken:前回レーベル直販にしたのは、PIZZA OF DEATH RECORDSが持っているレーベル直販の機能、そこを強化したかったんです。まず2曲のほうで試してみようって。もう……自分でこれを言うのはすごく悲しいけど、グッズ的な売り方ですよね。限定販売にして、いつまでもダラダラ売らず、パッと生産を止めてしまう。そういうことをやってみようかなと。
一一それは、レーベル機能の強化、という言葉になるんですか?
Ken:まず存在を知りますよね。ほしい人はPIZZA OF DEATHの通販っていうものを知る。正直、CDショップに卸すと、そのぶんいろんなところにお金が落ちていくじゃないですか。そこを省きたかったこともあるし、しばらく動いてなかったレーベル通販をちゃんと使いたかったのもある。でもね、たとえばお店にCDを置いてもらうと、お店側も宣伝してくれるし、リリースの風景として華やかになっていくんですよ。レーベル直販だとそれがない。自分たちで言うしかなくなるから。
一一本来なら、全国流通させたいものですか?
Ken:CDが売れる世の中ならば。今回限定販売のシングルは一万枚出たんですよ。ただ、これで流通業者を通してさらに枚数が増えるとは、もう限らない。それはけっこう悩ましいところで。
一一難しい。前回も少しこの話になりましたけど。今回再び全国流通を選んだのは、閉じたくないという意思でもある?
Ken:まさに。そうです。僕はもともとCDショップをサポートしたい立場で、ちゃんと彼らが活性化するように、そして彼らからのサポートも得られるようにやりたかったけれども。もう、そうも言ってられない時期になっちゃいましたね。これだけCDが売れない世の中になって。前回のインタビューの時から、もうこの話をする準備はできてました。
一一新曲2曲も、今の話とリンクします。崖っぷちと言うほどネガティブではないけど、どちらも終わりを見据えている歌詞ですよね。
Ken:うん。ネガティブはネガティブよ? それが溢れちゃってると思う。文字にすることで自分でびっくりすることもあるわけで。「これ、終活かな?」って思ったりするぐらい。書いてみて、文字にすることで気づく。
Minami:でも『4 Wheels 9Lives』からの流れでもありますよね。「While I’m Still Around」とか。あのへんから、わりとこういう方向にシフトして。
Ken:確かに。終活色が出てきた(笑)?
Minami:そう。でもなんか、僕はKenさんと一歳しか変わらないんで、わかる部分もある。今のKenさんはこういうモードなんだなって。
一一お二人はどうですか? 今回の歌詞の内容から感じること。
Jun:いや、年齢で言えば俺はKenより5コも上なわけだから、同じこと感じてもいるし、なるほどねって思うところもあるけど。でも結局、人なんて死ぬやつはポックリ死ぬし、それこそダラダラ生きるやつは生きるわけで。そういうものなんだろうなと思ってる。結局わかんない。
Ken:まぁつまり、Junちゃんは凡人なんですよ(一同爆笑)。一番ポジティブに、一番外圧を受けずに生きてる。
Jun:まぁでも今回の歌詞、言ってることはわかる。表現者としていろんなこと考えてるんだろうなとも思う。で、俺は俺で、バンドマン、プレイヤーとして、いつまでやれるんだろうって考えはするけど。でも、やるしかないから。音楽シーンがどうなろうがこれしかないんだっていう思いもあって、それをやれてることの幸せもあるわけで。俺はそういう感じです。
一一EKKUNはどうですか?
EKKUN:僕、歌詞に関しては毎回日本語訳をもらうんですよ。それで自分なりに「あぁ、そうなんだ!」ってメッセージを受け取って。今回もポジティブとかネガティブを超えて、ちゃんとグサッとくるものがありましたね。
一一ただ、これが今までになかった世界観だとは思わなかったです。過去の「Let The Beat Carry On」もそうだし、「I Won’t Turn Off My Radio」もそう。このままじゃロックンロールが終わってしまうっていう感覚は、以前からKenさんの中に通底している。
Ken:あぁ、なるほどね。前はちょっと突っ込んで攻撃的に書いてたものを、今は等身大、当たり前のメッセージとして書いたところはあるかな。「Let The Beat Carry On」が2010年でしょ。あれから13年経って、極端に言うと「まさかこんな世の中にならないよな?」って思って歌ってたことが、本当にそうなってきちゃった。ロックンロールに関して言えばね。もしかしたら社会的にも言えることかもしれないけど。僕の信じたロックンロールは、ゼロになりゃしないだろうけど、中途半端な形で「まぁ古いもん、前こういうのあったよね」って言われて残っていくんだろうなって。でもそれは僕らが体験したものとは違う。僕らにとってロックンロールって生き方を変えるもの、社会を変えるものでもあったし。ただもう、そんなパワーはなくなってしまって、新しいもののほうが売れるしカネにもなる。それは認めざるを得ない。好きか嫌いかは別として。この流れは変わらないだろうなと思います。
一一……これ、文字だけになるとかなり重い発言になりますね。
Ken:ふふふ。「ニッコリ笑いながら」って書いておいて(笑)。
一一もう少し詳しく、どんなふうに今の感覚が固まっていったんです?
Ken:いや、でも全部外的要因ですよ。だってもうロックンロールが、そんなに世の中に刺さってる感触がないんです。
一一ライブをやっていても思います?
Ken:目の前に人がいる時はバリバリ刺さってる感触があるんだけど。ただ、結局その分母は減ってるなと思います。昔からそうだったとも思うんです。ロックンロールって、いつも新しいものに押されて、古いって言われてきた。ただ、なんかの瞬間に覇権を握る瞬間がたびたびあったわけですよね。世界的にどうかわかんないけど、少なくとも日本において僕は90年代にすごくラッキーな思いをした。あの時は全体的にロックバンドが元気だったし、バンドが元気だったのか、世の中がロックを求めていたのか、それはわからないけれど。今、その感じがまったくないから。
Jun:フェスに出てもそれは感じる。俺が入った十何年前は周りに仲間のバンドがいっぱいいたから。でも今は、仲間もいるけど、よく知らない、バンドじゃないグループの人たちも多いっていう。
Ken:否定はしないけどね。運営、何考えてるんだ? って思うことはある。
一一少なくともロックフェスを謳うなら、というのはありますね。
Minami:僕ら、別に世代じゃなくても「The Beatlesはみんな知ってるよね?」みたいな、それが当たり前だったから。たぶん今、The Beatlesとか知らない子のほうが圧倒的に多いんじゃないですか? いつからか英語で歌うことがすごくマニアックなことになってきて、それがさらに進んで、ロックを聴く人がどんどん減っていって。
一一『Four』の頃、現状に対する思いは怒りの曲になっていたと思うんです。でも今は〈もしもう一度生まれ変わるなら〉という歌になっている。
Ken:……諦めかもしれない。本当に。もう現世じゃどうにもならない。
一一これ、本当に暗いインタビューになっちゃう(苦笑)。
Ken:ふふふ。でも無理に明るくしたいとも思わなくて。今ここで「ロックンロール、イェーッ!」って言うつもりもないし。うん、確かに『Four』の頃から、自分のいる業界は斜陽の産業なんだっていう自覚があったから。十何年間、ふつふつとひとりで思い続けてきたのかもしれない。本当にロックンロールが華やかだった、力を持ってた時代を経験してる身からしたら……うん、今、もうついに取り返しのつかないところまで行ったな、と思う。