元CASIOPEA 熊谷徳明「年に一枚必ずアルバムを作る」 フュージョンバンド・TRIX、20thアルバム『PARADE』と20年目の信念

TRIX 熊谷徳明、20年目の信念を語る

“毎年アルバムが出る”というワクワクを忘れたくなかった

――それと同時にTRIXは結成から毎年欠かさずアルバムをリリースしてきました。

熊谷:ひよこは、生まれて初めて見たものを親だと思うでしょ? それと同じです。僕が前にいたCASIOPEAも、毎年アルバムを出していたんです。須藤さんがいたT-SQUAREも年イチで出していたと思うんですけど、それが当たり前だと思っているところはありますね。学生の頃、(好きなアーティストの)アルバムが毎年出るのがすごく嬉しかったんです。フュージョンは基本的には歌がない音楽ですから、そのぶん、アレンジが凝っているんです。非常にメロディアスで、アレンジが凝っている。当然ですけど、才能がなければ年イチでアルバムを出すなんてことはできないんですよね。でも、みなさんその才能があって、僕はそれを楽しみにしていた。そのワクワクがそのまま残っているんです。だから、TRIXを始めた時も毎年アルバムが出るというワクワクが必ずあるというスタンスが、僕にとっては普通だったんです。当時のワクワクを忘れたくなかった。逆に言うと、世のなかにそこまでワクワクできるものがなかったから、自分が作ろうと思ったんです。

――TRIXはこれまで何度かメンバーチェンジを繰り返しています。それぞれの時期に特長があると思うのですが、3年目を迎えた現在のラインナップの特長は、どんなところだと考えていますか?

熊谷:須藤さんは結成当初から一緒にやっていますからね。須藤さんも僕も、上手いのが当たり前。そのなかでどれだけワクワクできて、キラキラさせられるかなんですよね。ギターのササキン(佐々木秀尚)は、とてつもない才能を持っています。(松田)聖子ちゃんをはじめ、サポートもいっぱいやっているし、オールラウンドプレイヤーという意味ではナンバーワン。何をやっても100点以上を取れるんです。宇都(圭輝/Key)ちゃんは、何と言ってもイケメンです(笑)。しかも、才能もある。TRIXにはもったいないなと思いながら誘っちゃったんですけどね(笑)。それと、今のメンバーはプロデューサー的な感覚を持っているんです。だから、制作していても話が早くて、やりやすい。そこは大きな強みだと思います。

――ちなみに、血液型はみなさん何型なんですか(笑)?

熊谷:宇都ちゃんは非公表なんですけど、僕がB型で、須藤さんがO型で、ササキンもO型なんですよ。初期のメンバーは須藤さん以外B型だったんです。B型が3人もいると手に負えなくて、須藤さんが大変だったと話していたんだけど(笑)、今はまとめに入るO型がふたりもいるんですよ。だから、みんなもっとはっちゃけていいとも思いつつ、僕みたいな変わり者もいるので、それも含めてバランスはとてもいいと思います。

――『PARADE』について聞かせてほしいのですが、今回、全9曲中5曲を作曲しているM.C.のことから教えていただけますか?

熊谷:M.C.は、この3、4年、TRIXのアルバムのプロデュースをサポートしてもらっているシンガーソングライターのMAYUさんと僕がふたりで共作する時の名義なんです。

――MAYUさんは、今回「ねんねんころりん」と「WILL」に参加していますね。

熊谷:そうです。コーラスとアルバム全体のサブプロデュースを担ってもらいながら、作曲もやっているんです。「ねんねんころりん」は、「子守歌みたいな曲はないの?」「そういう曲は今までなかったね」というMAYUさんと僕の会話からふたりで作っていったんですよ。

――シンセサイザ―の未来的なイントロから急に和風のメロディが流れ出す展開には、意表を突かれました。

熊谷:でしょ(笑)? 北島三郎さんの「まつり」という曲のアプローチがすごいという話をしながら、MAYUさんとふたりで〈祭りだ 祭りだ 祭りだ〉って歌っていたんですよ。MAYUさんが歌い出したんじゃなかったかな? そこから発展させて作っていったんですけど、制作の様子を思い出すと吹き出しちゃいますね(笑)。それがアルバムの1曲目になりました。

ねんねんころりん

――MAYUさんとの共作は、データのやり取りではなく、スタジオに一緒に入って、アイデアを出し合いながら作っていくんですね。

熊谷:そうです。MAYUさんは、僕と同じ人間なんじゃないかと思えるくらい感覚が近いんです。だから、メロディを作っていても、どこの音からどこの音に飛びたいかが一致するんですよ。一緒に作っていても、まったく違和感がないですね。そういう人に巡り合えるのは、あまりないことだと思います。

――同じく、MAYUさんと共作の「神楽花火」も、シンセによる妖しげなエスニック調のメロディがとても印象に残る曲で、ラテンっぽいノリもありつつ、主旋律は歌謡曲風という。「ねんねんころりん」もそうですけど、M.C.の曲は少し風変りな曲になることが多いようですね。

熊谷:そうですね。M.C.が作るメロディは歌謡曲っぽいんですよ。その歌謡曲風のメロディを、僕がフュージョンにアレンジするんです。他の人たちはあまりやらない方法だと思います。MAYUさんも僕もベーシックに歌謡曲というか、日本人ならではのメロディがあって、そこは壊したくないんです。TRIXの曲にはもともと日本人が持っているようなものをエッセンスとして入れているから、いろいろな年齢層の方が聴いても違和感なく聴けると思います。

神楽花火

――今回、メンバーそれぞれに担当を決めて曲を作ったとおっしゃっていましたが、どんなふうに担当を振り分けたんですか?

熊谷:まず、どんな曲をやりたいかというところで、みんなで意見を出し合ったんです。そこでハイパーテクニカル系を選んだササキンが作ったのが「Grand slam」。「アルバムのテーマが“お祭り”だから音頭の感じがあったら楽しいかも」というアイデアを選んだ須藤さんが作った「Temperature」は、温度と音頭を掛けているというね(笑)。

――ああ、そういうことでしたか(笑)。

熊谷:あと、宇都ちゃんが「ここからまた心機一転がんばろう!っていう気持ちがあるんです」と言って、「Start Up」を作りました。そんなふうに今回は曲のコンセプトを決めてから、担当を分けて作っていきました。「MAGIC PARADE」は、僕がひとりで作りました。それ以外のM.C.の曲は、「神楽花火」も含め、インパクトの強い曲を意識しましたね。

MAGIC PARADE

――今、おっしゃった「MAGIC PARADE」と最後の「GARDEN」。「GARDEN」はMAYUさんとの共作ですが、熊谷さんの作る曲はラテンっぽくなるんだなという印象が今回はありました。

熊谷:ああ、それを言ったら「神楽花火」もちょっとダンスお祭りみたいな感じで。『PARADE』というタイトルだから、やっぱり熱い血が全体的に入っていますね。サンバラテンチューンが多めの元気なアルバムにしたかったんです。

――佐々木さん、須藤さん、宇都さんが作った3曲の、それぞれの聴きどころを教えてください。

熊谷:ササキンの「Grand slam」は、野球の試合で誰かが満塁ホームランを打ったことに刺激されてできた曲らしいです(※野球のグランドスラムは満塁ホームランを指す)。タイトルは須藤さんがつけてくれたそうなんですけど、この曲は鬼ムズですね。非常にハイレベルな演奏技術が必要で、須藤さんも僕もよくやったと思いますね(笑)。みんな、この曲がいちばん難しかったと言っていました。ポップな曲だから、テクニカルな部分が前面に出てくる印象はないですけど、コピーしてみたら「マジかよ?」ってなると思います(笑)。

Grand slam

――後半にはベース、ドラムのソロ回しも出てきますが、スタジオで合わせている時に思いついたんですか?

熊谷:実は、ここ最近のアルバムは全部オーバーダブなんですよ。だから、アルバムの曲は、まだ誰とも一緒に演奏していないんです(笑)。「Grand slam」のソロ回しも含め、まず僕が録って、そのあとに須藤さんが入れて、それから宇都ちゃんが入れて、最後にササキンが入れる。もう慣れてきているので、3人がどういうアプローチで来るのか想像しながら叩いてますけど、全然そんなふうには聴こえないでしょ(笑)?

Temperature

――聴こえないですね。てっきりスタジオにメンバー全員が揃って、レコーディングしているんだとばかり思いながら聴いていました。

熊谷:ですよね。それぐらい、みんな器用にできるんです。須藤さんの「Temperature」は、リズム遊びをしたかったらしいです。普通の8ビートではあるんですけど、8分音符を3つに区切ると「タカタ/タカタ/タカタ」と分解できて、でもそうするとイントロのベースのリフがよくも悪くも、ものすごくダサいフレーズに聴こえるという(笑)。そんなことを意図しながら作った曲なんです。だから、音頭ということで「♪ドンドンドン/タカラッタ/ドドツトドン」というフレーズをドラムソロとして入れてみました(笑)。

――それもまたTRIXらしい遊び心というわけですね。

熊谷:宇都ちゃんの「Start Up」は王道のJ-FUSIONにロックスピリッツと、ちょっとスムースジャズのようなアコースティックピアノの音色が混じった曲で、これもまたポップですよね。

Start Up

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