SiM MAH×YOASOBI Ayase、メタルをテーマに特別対談 “ロックスター”を掲げて語り合う、日本発の音楽として果たすべき役目

 特集「ヘヴィメタルの最新動向」では、ヘヴィメタルが2020年代にどのような広がりと影響力を見せているのかについて考察してきた。ひと言で“メタル”と言っても、そこに含まれる意味合いは様々であり、どんなメタルを好きになるかもリスナーの趣向性や世代や国籍によって全く異なっている。ゆえに、メタルから影響を受けたポップミュージックにも幅広いタイプがあり、ジャンルの壁を破るかのように音楽性を刷新してきたメタルバンド自身の進化も、ストリーミング時代以降はより加速してきている。

ヘヴィメタルの最新動向

1970年代以降、数多くのサブジャンルに枝分かれしながら進化し、巨大なファンベースを築いてきたヘヴィメタル。特に近年はヒップホッ…

 そんな特集を締め括る企画として、MAH(SiM)とAyase(YOASOBI)の特別対談が実現した。一見フィールドは違えど、互いにメタルやハードコアをルーツに持ち、それを高いオリジナリティでトリッキーかつポップな楽曲へと昇華しているSiMとYOASOBI。「アイドル」をはじめとしたYOASOBIの快進撃は言わずもがな、昨年にはSiMも「The Rumbling」で米ビルボード・ホットハードロックソングチャート1位の快挙を成し遂げ、名実ともに、日本発のポップミュージックとして世界に大きく名乗りを上げている2組である。MAHとAyaseはこの対談で初顔合わせとなったが、ステージに立つ者としてのアティテュードを曝け出すことで、深い部分で通じ合っていることが明らかになった。(編集部)

MAHとAyase、青春時代に出会ったメタルのルーツ

ーーまずAyaseさんにとって、MAHさんはどういう存在ですか?

Ayase:もうカリスマですよ。一緒に撮影しながら、めちゃくちゃ緊張しました(笑)。

MAH:ありがとう(笑)。

Ayase:僕はハードコア/メタルコア系のバンドを高校生からやってたんですけど、当時からSiM、Crossfaith、coldrainあたりの影響力は半端なかったので。周りのボーカリストもみんなMAHさんになりたいと思ってたし、高校生の頃の僕からしたら夢のような瞬間です。

ーーMAHさんには、今のYOASOBIやAyaseさんの活躍はどう映っていますか?

MAH:どう映ってるも何も、ナンバーワンだからね。最初に俺の奥さんと息子がYOASOBIを好きになって、奥さんがカラオケで歌いたいからって、家でもずっと「夜に駆ける」を歌ってて。3年前だと息子は2〜3歳だったけど「夜に駆ける」をもう鼻歌でフルコーラス歌えるくらいになってたから、「YOASOBIってすげえな」と思って興味を持って。そこからあっという間に売れていったもんね。

Ayase:恐れ多いです……!

YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video

ーーでは、まず今回のテーマであるメタルの話ができたらと思いますが、お二人にとってメタル的な音楽への目覚めってどういうものでした?

Ayase:僕は中学生の頃に、Slipknot「Psychosocial」のMVを観て衝撃を受けたのが最初でした。ビジュアルも演奏の爆発力も全てが新鮮で、友達に「このバンド知ってる?」ってひけらかしたくなる存在というか。それで耳がラウドな音に慣れたところで、スーパーの店内でかかってたマキシマム ザ ホルモン「恋のメガラバ」を聴いてカッコいいと思って、CDを買ってめっちゃハマったんです。その前からずっとボーカルをやりたいと思ってたんですけど、J-POPしか聴いたことがなかったし、どんなボーカリストになりたいのかよくわかってなかった時期に衝撃を受けたのがホルモンだったので。「これだ!」と思って高校の軽音部に入って、よく通うようになったライブハウスの先輩から「JACK. B」を教えてもらってSiMを知ったりとか。なので入り口っていう意味だとホルモンですね。それ以降だとBring Me The Horizon(以下、BMTH)の存在が大きかったです。

MAH:それはデスコア時代?

Ayase:出会ったのはデスコア時代の作品ですけど、その後すぐに『Sempiternal』(2013年)あたりも聴くようになりました。やっぱり速さとかエグみを追求したらデスコアに辿り着くじゃないですか(笑)。Whitechapelとかもめっちゃ爆音で聴いてました。BMTHはとにかくオリヴァー(・サイクス)がカッコいいなと思うし、近年のポップな要素が入ってるアルバムもすごく好きです。やりたい表現をやるためにすごく闘ってるなと。

Slipknot - Psychosocial [OFFICIAL VIDEO] [HD]
Bring Me The Horizon - Shadow Moses (Official Video)

ーーMAHさんはいかがですか?

MAH:俺はバンドの入り口自体はハイスタ(Hi-STANDARD)だったんだけど、地元のTSUTAYAで「Hi-STANDARDが好きならこれもオススメ」みたいな感じで、RancidとかNOFXが紹介されてたので、そこから洋楽パンクを聴くようになって。山嵐とか宇頭巻とか日本のラップコアに辿り着いたのが中学生ぐらい。重い音に甲高いラップがマシンガンみたいに乗ってたから、ヒップホップやラップを聴きたい気持ちと、激しいロックを聴きたい気持ちが全部合わさって、ぴったりハマったような感覚があって。その洋楽バージョンっていうイメージで聴き始めたのがLimp Bizkitだったかな。ただ、聴いてくうちに、山嵐は荒削りで尖ってたのに、リンプはアッパーで綺麗すぎるというか、人間性が合わねえなって思い始めて。思春期、俺は結構(気持ちが)落ちるタイプだったので、もうちょっと暗い方が好きだなと思って、ライナーノーツとか読んでるうちに出会ったのが、KoRnやDeftones。最終的にそっちにどハマりしたね。Linkin ParkとかSlipknotが日本でもチャート上位に入るような時代だったし、逆にギターソロ弾く系のメタルは全然通ってないです。

ーーニューメタルがガッツリ刺さったと。

MAH:だけど、KoRnとかリンプ自体は1つ上の世代がよく聴いてるイメージだったから、自分がリアルタイムだったのは、The UsedとかStory of the Yearみたいなスクリーモ系のバンドで。パンクが根本にあるのにシャウトしてる音楽に衝撃を受けて、そのあたりは全部聴いてました。まあ元を辿るとRefusedと出会ったのがデカかったんだけどね。「New Noise」のMVを観て、「俺も爪を黒くしてシャウトやってみよう」って思ったし。

Korn - Falling Away from Me (Official HD Video)
Refused - New Noise (video)

ーーエモ、パンク、メタルなどの垣根を越えていくところにハマったということですよね。

MAH:そう。パンクも不満を歌うけど、メロディに乗せて歌うだけでは表現しきれない俺の怒りをどうしたらいいんだって思った時に、シャウトってすごいなと思って。俺もバンドやるなら怒りの最高潮でシャウトしたいって思ったし、きっとハードコアパンクとかスクリーモってそうやって生まれてきたんじゃないかな。リズムも「ズンタン・ズンタン」とか2ビートよりも、メタル的な重低音の「ダダーン・ダダーン」の方が怒りを表現できるよね? みたいな。

ーーSiMはもともとレゲエとロックを合わせつつ、スクリーモやメタルコアも取り入れながら、『THE BEAUTiFUL PEOPLE』(2016年)あたりで1つの完成形を迎えたように思いますが、どのように変化を遂げてきたイメージですか?

MAH:1st(2008年の『Silence iz Mine』)は、地元の仲間と始めたバンドで「世界行こうぜ」みたいな20歳そこそこのノリで作ったアルバムだったんで、まあ当然売れないわけですよ。そこからメンバーも抜けていって、やべえ……って思ってたところで、同世代のcoldrainやHEY-SMITHと出会って。あいつらにはちゃんとお客さんがついてたから、「俺らに足りないのは何だろう?」って思い返した時に、やっぱり曲がキャッチーじゃないんだなと。でもダサいことはしたくなかったから、ギリギリのところを攻めようぜって言って、モードが変わり始めたのが、Ayaseも言ってくれた「JACK. B」とかの2010年あたり。メタルコアがすごく流行り出した時期だったので、Crossfaithとかも聴いて、重いフレーズをどうやって取り入れられるだろうって研究しながら、2011年に「KiLLiNG ME」ができて。そこから一気にお客さんが増えたから、次は「Amy」みたいな曲をやってみようとか、いろいろ計算ずくでやっていったのが『THE BEAUTiFUL PEOPLE』までですね。

Ayase:当時はひたすら「かっけえ!」と思って聴いてたけど、今考えると「KiLLiNG ME」の後に「Amy」を出す感覚ってすごいよなって思います。踊れるメタルコアみたいな要素もそうだし、ちゃんとレゲエも入っているから、聴けばすぐに「SiMだな」ってわかるじゃないですか。サビではグッとポップになることで、逆に激しいパートも際立つし、そりゃあみんな熱狂するよなって思います。

MAH:そこは俺らにとってもラッキーだったんだよね。ホルモンとかPTP(Pay money To my Pain)みたいな先輩がすでにデカいフェスに出ていたおかげで、お客さんもシャウトする音楽に対して耐性ができていたから。

ーーとはいえリスナーとしては、ホルモンやPTPがラウドロックの下地を作って、SiMがそれを確立して一気に広げる重要な役割を担っていたと感じますけどね。

Ayase:本当にそう思います。

MAH:そう言われるとありがたいけど、ちょうどcoldrainとかが海外に出て頑張ってたタイミングに、俺らは日本を意識してただけっていうのもあるし。ただ、確かに「KiLLiNG ME」を出した時は、いろんなリスナーから「『KiLLiNG ME』の人ですよね?」って言われるくらい広がりがすごかった。ラウドだけじゃなくて、ヴィジュアル系とか全然違うジャンルにまで広がっていけたから。

SiM - KiLLiNG ME (OFFICIAL VIDEO)

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