SiM MAH×YOASOBI Ayase、メタルをテーマに特別対談 “ロックスター”を掲げて語り合う、日本発の音楽として果たすべき役目
リズム発かメロディ発か SiMとYOASOBIのソングライティング
ーーまさにその時点で越境性を獲得していたんだと思います。さっきのSiMの音楽性の変遷で言うと、ライブのスケールに合わせて曲が進化していったような感覚もありますよね。
MAH:そうですね。やっぱりライブのことを考えるから、どうしても俺はリズムから曲を作るんですよ。「まずは2ビートでいこう」「ここでジャンプさせたいから、こういうリズムにしよう」とか。活動の主体がライブハウスツアーの時はそういう曲になるし、武道館やアリーナをやるってなればそこに向けた曲になっていくし……っていうのを一通り経験できたから、『THE BEAUTiFUL PEOPLE』を作ってからは考えるのをやめようって思ったんだけど。でも、それこそYOASOBIを聴いてると、たぶんメロから作ってるんだろうなって感じるのはある意味羨ましくて。俺らはメロディつけるのが最後だけど、YOASOBIはメロ自体がめちゃくちゃ自由だから。
Ayase:おっしゃる通り、僕は基本的にメロディファーストで作ってるんですよ。歌メロが好きだし、J-POPや歌謡曲が好きで育ってきたところがあるので。ただ、それだけだと今みたいな曲にはならなかっただろうなと思ってます。
ーーまさに、ラップメタル的なフレーズやブレイクダウンを多用した「アイドル」は言わずもがな、ラウドロックを感じさせる「セブンティーン」、イージーコアっぽい「怪物」など、ハードコア/メタルコア的なリズムワークを感じさせる曲も増えてきましたよね。
Ayase:やっぱりメタルコアをやってた時も「このブレイクの時にキックの数をどうする?」とか考えていたし、そういう感覚はバンドをやってたおかげで養われたのかもしれないですね。あと、ライブハウスで月に何本もライブをやってた経験もデカいです。どういう時に人は高揚するのか、どういう言葉を発してから曲が鳴ったらカッコよく聴こえるのか。そういう現場の熱量を感じる下地があったからこそ、YOASOBIのライブにもその経験が活きていると感じています。
ーーフィジカル的な気持ちよさを意識しながら、YOASOBIの曲を作ってる側面もあるわけですか。
Ayase:MAHさんほどじゃないですけど、YOASOBIでライブをやるようになってから「セットリストにこういう曲欲しいよな」って考えるようにはなりました。ただ、僕らの場合はそれでいいのかっていう葛藤もあって。僕はより多くの方に聴いてもらえるような楽曲を作ることを第一に考えて、YOASOBIをやってるので、まずは音源を聴いてもらわなきゃいけないんですよ。広く愛されて、みんなが口ずさんでしまうような曲にするぞっていう、明確な目的を持ってるからこそ、演奏面も含めてライブを考えて作り出したら、DTMで作る僕の自由度が下がってしまう側面もあるので。
MAH:そっか。SiMは演奏することを前提としなきゃいけないし、作りながら「あいつだったらこう弾くだろうな」とかメンバーの顔が浮かんでくるから。だからこそ曲が一貫してる部分もあるから、それはバンドの良くも悪くもなところ。
Ayase:僕もバンド時代はボーカルでもあったので、自分のボーカリゼーションを考えながら作ってましたけど、YOASOBIのコンポーザーとしては、制約せずにまずは自由に作ってみようというだけなんです。そもそも僕は嫌いなジャンルとかなくて。時代を問わずいいなって思う曲があれば何でも聴くし、好きなものは何でもやりたくて。もちろん、曲作りに対して無責任なわけじゃなく、ちゃんと相方(ikura)の歌を信用して作ってますし、それで引き出しが増えていく感じが面白いとも言ってくれてるので。
「世間から見たロックバンドの代表として闘っている」(MAH)
ーー制作過程は違えど、信頼関係は同じというわけですよね。目まぐるしい展開をキャッチーな歌メロで乗り越えていく点といい、内包する音楽的要素の多さといい、SiMとYOASOBIには共通項も多いと思っていて。そこに関してはどう感じていますか。
MAH:そもそも俺はSiMをハードコアパンクバンドだと思ってないし、自分をナンバーワンレゲエシンガーだとも思っていなくて。やっとラウドロックっていう言葉が出てきて、そのトップがドーンと売れてるワンオク(ONE OK ROCK)だった頃からずっと、ホルモンとか聴いてる子にSiMも一緒に聴いてもらって、そこからもっとゴリゴリなハードコアやレゲエまで聴いてくれたらいいなって思ってる。「SiMが好きなら、もっとカッコいい本物の人たちがいるからそっちも聴いてくれ。俺らが入り口になるから」っていう感覚はありますね。
ーーそのきっかけって何だったんでしょう?
MAH:アリーナでライブをやるようになったあたりで、「ここまで来ると『めざましテレビ』とか有名なTV番組も取材しにきてくれるんだ」みたいな感覚がわかってきて。そうなると、今まではハードコアとかレゲエとかメタルの入り口になろうと思ってたけど、もっと広く、世間から見た“ロックバンド”の入り口になろうかなって思い始めてきて。コロナ禍でも、俺はロックバンドの代表として闘って、MCでも話してきたつもりなんですよ。
だからこそ、俺が悪いことして捕まったりしたら絶対にダメで。俺がカッコよくやってれば、「ロックバンドのボーカルってカッコいい職業だよね」ってみんなが思ってくれるって信じながらやってる感じですね。上の世代にもカッコいい先輩がいっぱいいるけど、意外と先輩たちは自分の活動に集中してるから、あまり広い世界を見てないんだなってことにも気づいたりしたから。もちろん、それはそれで羨ましいんですよ。けど、若い世代もどんどん出てきてる中で、対世間でロックフェスを復活させていくには誰かが先陣切って闘わなきゃダメだってなった時に、じゃあ俺が旗持って出て行きますよって思った。
ーーどうしてSiMをそういうバンドとして認められたんでしょうね?
MAH:どうなんですかね……それは正直わからない。俺は、ただ嘘がつけないだけなんですよ。誰に対しても、嫌なことには嫌って言っちゃう。どんな先輩から「MAH飲めよ」ってやられても、「いや、俺その酒嫌いなんですよ」とか言えちゃうところが、逆に気に入られてると思ってて。「MAHが言ってることはたぶん本気だから、サポートしてあげよう」って思ってくれる人がたくさんいて、コロナ禍でもずっとブレずに同じことを言い続けてきたから、周りも信用してくれたのかなと思ってます。