『FUJI ROCK FESTIVAL '23』、“復活の年”を彩った名シーンの数々 分断や喪失を乗り越えていくロックフェスとしての原点回帰

フジロック、復活の年を彩った名シーン

 待ち望んでいた、4年ぶりの祝祭。

 2020年以降、新型コロナウイルスの脅威により中止、および規模縮小や特別なルールの遵守を余儀なくされていた『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、フジロック)が、とうとう“いつもの形”で帰ってきた。前夜祭も合わせて11万4000人が詰めかけた今年。厳戒態勢だった2021年が3万5000人だったことを思うと、集客は3倍以上。コロナ前と比べても、2019年が13万人だったので、実に9割近くが戻った計算だ。

 本格的な復活の年とあってか、今年のラインナップにはとにかく力が入っていた。実際、3日間通して見応えのあるパフォーマンスばかりで、この原稿でも書ききれないほどのミラクルな瞬間がたくさんあった。

(写真=宇宙大使☆スター)

 初日のGREEN STAGE、ヘッドライナーのThe Strokesは17年ぶりのフジロック出演。そもそも彼らは開催中止となってしまった2020年のヘッドライナーだったため、これがいわゆるリベンジ公演でもある。それだけに待ち構えるフジロッカーズのテンションも並々ならぬものがある。「The Modern Age」から始まったライブは「Automatic Stop」「Juicebox」「Welcome To Japan」、そして最新アルバム『The New Abnormal』(2020年)からの数曲も含むベスト盤的なセットリストで、代表曲を惜しみなく演奏。ガレージロックの粋が詰まったアンサンブルは、以前観た時はもっと力が入っていたが、アルバート・ハモンドJr.(Gt)とニック・ヴァレンシ(Gt)の織りなすギタープレイをはじめ、バンドサウンドにはふくよかさが増し、ベテランならではの余裕が感じられた。それでいてジュリアン・カサブランカス(Vo)の歌声には適度なラフさと揺らぎがあって、そこにロックのしどけなさ、危うさが漂っていてカッコいい。デビュー時の煌めきも相当だったけれど、バンドは今、円熟期を迎えて再びそれ以上の輝きを放っている。まさに“本寸法のギターロック”というべきパフォーマンスを見せつけてくれたThe Strokes。愚直な感想ではあるが、「やっぱりロックって素晴らしい!」という快哉が胸を満たした。

The Strokes(写真=Taio Konishi)

 そしてその思いは翌日、同様にGREEN STAGEのヘッドライナーを務めたFoo Fightersを観て一層強くなる。90年代から一貫してロックの最前線をひた走ってきたバンドならではの横綱相撲。デイヴ・グロール(Vo/Gt)は前回出演した2015年は、足を骨折していたため椅子に座ったままでのパフォーマンスとなってしまったのだが、今回はギターを弾きまくりながら跳び回り、曲ごとに観客に語りかけながら親密なショーを繰り広げてくれた。中盤にはステージにアラニス・モリセットを招いて、7月26日に亡くなったシネイド・オコナーを共に偲ぶ場面も。アラニスがシネイドの「Mandinka」を歌う姿に胸を熱くした人は多いだろう。続いて、古くから交流のあるWeezerのドラマー、パット・ウィルソンがギターを抱えて登場し、「Big Me」を一緒に演奏したりとゲストたちとのセッションは和やかな雰囲気で進んでいった。90年代のシーンから出てきた盟友同士。往時を知るファンにとっても彼らの共演は格別で、感慨を抱かずにはいられない。ライブ終盤では昨年亡くなったテイラー・ホーキンス(Dr)が好きだったという「Aurora」を演奏。少ししんみりしたが、今生きている者たちがこうして音楽を通じて、生きた証を継承してくれる。それが希望だ。

Foo Fighters(写真=Taio Konishi)

 2日目のWHITE STAGEに登場したTESTSETも感慨なしには観られなかったライブの一つ。メンバーの砂原良徳、LEO今井、永井聖一、白根賢一は、いずれも2021年に高橋幸宏率いるMETAFIVEのメンバーとしてステージを務めた面々。彼らは高橋に薫陶を受けた、いわば“弟子”のような人たちであり、バンドサウンドにも彼の“イズム”が滲み出ているのだ。1stアルバム『1STST』(2023年)楽曲のライブ演奏は、スタイリッシュでありながら“熱”もあるパフォーマンスが素晴らしく、かつアバンギャルドな部分がありながらもしっかりポップミュージックとして屹立していて、彼らの中に確かに高橋幸宏がいることを感じた。

 今年のフジロックからは“分断・喪失からの復活”というメッセージを感じる場面が多かったが、それを支える裏テーマは“ロックフェスとしての原点回帰”ということに尽きると思う。特に2010年以降のラインナップは多様化の一途をたどり、ヘッドライナーを務めるアーティストの音楽性が、必ずしも“ロック”ではないことが増えた。しかし今年は3日目のヘッドライナーを務めたリゾのように、音楽界の“今”をしっかり反映させつつも、一方でいつの時代も変わらない、ロックの普遍的な部分をより強調するようなラインナップになっていたと思う。とりわけThe Strokesは2000年代にギターロックを復権させた立役者でもあるが、そんな彼らがフジロックにおける“ロックの帰還”を示してくれたことには胸が熱くなったし、さらに言えば1997年の第1回に出演したFoo Fightersがこのタイミングで再度登場したことも古参フジロッカーとしては嬉しかった。

リゾ(写真=Masanori Naruse)

 話は前後するが、The Strokesと同じ2000年代の覇者 Yeah Yeah Yeahsのライブの感動も筆舌に尽くし難いほどだった。

 デヴィッド・ボウイのようなド派手な衣装で登場したカレン・O(Vo)。ロックスター然とした彼女のカリスマ性に観客は瞬時に魅入られ、「Spitting Off the Edge of the World」「Cheated Hearts」「Lovebomb」「Y Control」など畳みかけるように演奏される代表曲に大興奮。ライブ中には客席に大きなビーチボールが放たれたり、紙吹雪を盛大に降らせたりと、観客を楽しませる演出はまるで一つのアトラクションのよう。画一的なフェスのステージを自分たちの世界観で染め上げてしまうYeah Yeah Yeahsの手腕に心底唸らされたのだった。素晴らしいパフォーマンスに呼応して盛り上がる観客のエネルギーも痛快で、今年のフジロックで最も一体感を感じたのはこのライブだった。

Yeah Yeah Yeahs(写真=Ruriko Inagaki)

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